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傷だらけの2台の跳ね馬。ルクレールが際どくフェルスタッペンを抑える——F1オーストリアGP

フェラーリ2台はサインツにエンジンブロー、ルクレールにスロットル系トラブルが襲う満身創痍の状況だったが、最後はルクレールが際どく首位でチェッカーを受けた。フェルスタッペンは終始タイヤ摩耗に苦しみ2位に終わるが、ファステストラップポイントを持ち帰り、ルクレールとのポイント差は「38」と優位を維持した。ハミルトンは2戦連続の3位。表彰台のドライバーはいずれもしぶとさが光った。

攻守が幾度も入れ替わる。フェラーリに柔軟性はあるか?

諦念、光明、疑念、怒涛、歓喜、悲嘆、緊張、祝杯——。フェラーリ挽回を祈る者にとっては、コロコロ展開が替わる息つく暇もないレースだった。スタート後はフェルスタッペンが逃げるかと思われたが、ルクレールは即座に追い上げてレース中にタイヤ交換を挟みながらフェルスタッペンを3度もオーバーテイク。開幕戦、第2戦のDRSの使い合いのような事例はあれど、トップ争いで片方がもう片方を3回も追い抜く展開は記憶にない。

一方で、なぜルクレールがフェルスタッペンを3度も抜かなければならなかったのか、という疑念も感じる。今回のレースはフェルスタッペンのタイヤのタレがレッドブル陣営の予想より早く、ルクレールのオーバーテイクを許したうえ、常にフェラーリ勢より早めのタイヤ交換を強いられた。にもかかわらず、フェラーリがルクレールかサインツのいずれかを即座にタイヤ交換させてフェルスタッペンのカバーに動かなかったのは不思議だ。

フェラーリ2台はフェルスタッペンの動きに関係なく、26・27周目、49・50周目と、レースを等分に切るような形でタイヤ交換を行なった(ルクレールのみVSC中の59周目にも交換)。まるで2台を平等に扱うこと、理論上の最適タイミングに従うことだけを考えているようで、「レースは相手がいるもの」という前提に立っているのか、非常に危なっかしく映った。

確かに今回のレースはフェラーリが最速で、タイヤの持ちも良かった。レッドブルリンクは追い抜きがしやすく、フェルスタッペンのカバーに動いてもタイムロスでしかなかったかもしれない。ペレスが早々にリタイアし、フェルスタッペンの守備役が不在となったこともフェラーリ優位に働いた。それでも、フェラーリの作戦に「柔軟性が欠ける」懸念は拭えない。ハンガロリンクやザントフォールトなどのコースでレッドブルの揺さぶりに対抗できるだろうか。

トラブル続出、試練続くフェラーリ

ルクレールがフェルスタッペンに対する3回目のオーバーテイクを見せ、サインツもそれに続こうと攻め立てた57周目、サインツのマシン後方から派手な炎が上がった。リアで何かが破裂しているような映像も見え、ターボ周りのトラブルとも思える。スペイン、アゼルバイジャンに続くパワーユニットのトラブルで、直線の長いコースでの脆弱性が見て取れる。次のフランスも直線が長く、サマーブレイクを挟んたベルギー、イタリアと高速コースが続く。果たしてフェラーリPUは耐えられるだろうか?

サインツのトラブルによるVSCが61周目に終了し、71周レースの残り7周ほどとなったころ、首位のルクレールから「アクセルが戻りきらない」との悲鳴に近い無線が入った。実際にオンボード画面のセンサーでも、コーナーに入ってもスロットルがゼロに戻りきっていないことが見て取れた。

アクセルペダルからケーブル経由でスロットルを操作していた昔のマシンでは、ケーブルの接触不良等の機械的な問題でアクセルが戻りきらないトラブルはまま聞かれたが、現代ではケーブルでのスロットル操作はしておらず、フェラーリは電気センサーでスロットルの開度を操作する。その現代でどのようなトラブルだったかは不明だ。

ルクレールは3秒ほど後方のフェルスタッペンとの差を見ながら、早めにブレーキを踏みつつタイムを落とさないギリギリのコントロールを続けた。周回ごとにブレーキのポイントが手前になってくることがわかった。特に3コーナーのブレーキはキツそうだ。最終周の4コーナーで旋回中にマシンがズルっと滑るが、瞬時に姿勢を立て直した。ゴール時のタイム差は1.5秒。ルクレールの執念を見た。

これでルクレールは遠かった今季3勝目。フェルスタッペンの208点に対して170点とし、ランキングも2位に上げた。ペレス、サインツはタイトル争いから脱落と考えていいだろう。フェラーリは勝ったとはいえサインツのPUを失い、スロットルのトラブル解決にも追われることとなった。

「ガラスの跳ね馬」。22戦の折り返しを越えた後半11戦も、フェラーリは茨の道が続く。

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