赤旗3回の大混乱。運営を巡り物議を醸すレースに——オーストラリアGP
フェルスタッペン一閃の首位奪還も、メルセデス2台の健闘も、ハミルトンとアロンソのつばぜり合いも、余韻はすべて吹き飛んだ。今回のレースはF1史上最多となった3回の赤旗と、運営側の判断が物議を醸した1戦として記憶に残るのだろう。
メルセデス、一時は1-2の大健闘
スタートでPPのフェルスタッペンの加速が若干遅れる。2番グリッドのラッセルが勢いよく飛び出し、3番グリッドのハミルトンも3コーナーでフェルスタッペンのインをこじ開け、4コーナーでアウトからかぶせると、意外や意外、メルセデス勢の1-2体制が完成した。
しかし、このの1-2はすぐに崩れる。
7周目にアルボンのクラッシュによるセーフティーカー(SC)が入ると、首位ラッセルはタイヤ交換を敢行。だが、8周目にこのレース1回目の赤旗レース中断となった。全車がタイヤ交換可能になり、赤旗前にピットに入ったクルマは一方的に順位を失うことに。この日のラッセルは運がなく、後にエンジンブローでリタイヤした。
10周目に赤旗後の再スタートが切られ、ハミルトン、フェルスタッペンの順で1コーナーを駆け抜けた。赤旗後の3周目となる12周目にフェルスタッペンがハミルトンの後ろに付けると、8コーナーから9コーナーにかけての高速区間でアウトから一閃の居合いのように抜いていった。この日は9コーナー前でDRSを使った追い抜きがよく見られたが、なかでもフェルスタッペンの切れ味は抜群だった。
レース中盤は2位ハミルトンと3位アロンソの攻防が焦点。1秒台半ばから2秒台の間隔を保ちながら互いにファステストラップを更新し、ハミルトンがアロンソのDRS圏入りを阻止するつばぜり合いが続いた。
レース最終盤に赤旗が相次ぐ
58周レースの53周目、マグヌッセンが2コーナー明けでアウト側の壁にヒットし、3コーナーまで走ったところでマシンを停止。コース上には外れたタイヤや、部品が転がった。SC出動後、55周目にこの日2回目の赤旗となった。
私見だが、まずSC出動の遅さが問題だ。マグヌッセンがウォールに接触してから約1分10秒、3コーナー内側でストップしてから40秒ほどSCもVSCも導入されず、クラッシュした箇所を他車が全速で駆け抜けた。このSC出動の判断の遅さは昨年のイタリアGPでも目についた。
さらに、赤旗提示の判断もやや遅く、SC出動から2分半以上かかった。2コーナー出口はコースの外側から壁が近く、撤収作業の脇をマシンが通過するスペースが少ない。タイヤや破片は3コーナーまで散らばっており、私は赤旗そのものは仕方がなかったと感じる。
(※あとで伝わった情報によると、パーツが観戦エリアにも飛び散り、ケガ人も出たという。それなら赤旗で当然だ)
57周目にレース再開。スタンディングスタート後、残り2周の超スプリントレースとなった。
しかし、再スタート時にクラッシュが相次ぐ。まず、3位アロンソが後ろのサインツに追突されてスピン。ストロールも4コーナーでコースオフし、ガスリーとオコンのアルピーヌ勢2台はもつれるようにウォールにクラッシュした。後方でも接触が起きた。
3たび赤旗が入り、最終のたった1周を残してレースが中断する。ここでアロンソやストロールは元の順位でレースに復帰できることになった。
赤旗明けはセーフティーカー先導でコースに入り、「パレードラップ」を1周走ってゴールを迎えた。優勝はフェルスタッペン。2位はハミルトン、3位は赤旗再スタートの際のスピンが帳消しとなって命拾いしたアロンソが入った。
私見——赤旗再スタートにまつわる問題について
こちらも私見だが、2回目、3回目の赤旗にまつわる問題は以下がある。
2回目の赤旗後の再スタートをスタンディングスタートとするのは事故の危険が大きすぎるのではないか?
残り2周の再スタートでは、ドライバーが接触上等でリスクを取る誘因が大きくなる。少々翼端板がもげようと、いったん前に出ればそのままゴールできる可能性が高いからだ。
今回については、1日で3回のスタンディングスタートはドライバーの集中力の面で負荷が高かった。タイヤの温まりの悪さもクラッシュ多発の要因になったと思える。
赤旗後、残り周回数が少ない場合はSC先導スタートとするなど、運用を見直した方がよいように思える。スペクタクルの面ではスタンディングスタートの方が魅力的なのは確かだが、ドライバーに「慎重にいけ」と言っても聞き入れないだろう。
観客の立場では、3回目の赤旗提示後の順位が不透明だったことも違和感が残った。
テレビ画面上では赤旗直後、4位ヒュルケンベルグ、5位角田と表示された。「3位サインツがアロンソとの接触でペナルティを受けたら、ヒュルケンベルグ悲願の初表彰台だ!!」とひとりで盛り上がったが、その期待は残念ながら叶わなかった。
フジテレビNEXTでの川井一仁氏はFIAの公式発表前まで、「セクター1ライン、もしくはセーフティーカーライン2の通過順位が赤旗再開後の順位になる」と解説していた。結局、公式発表のスタート順はフェルスタッペン、ハミルトン、アロンソ、サインツ、ストロール、ペレス…となり、57周目の再スタート時の順位から、クラッシュでストップしたガスリーやオコンを抜いた順位のように思える。
F1競技規定の57条3項ではレース再開時の順位は「いかなる場合にも、順序は、すべての車両の位置を決定することが可能な最終時点のものを採用する」となっている。「すべての車両の位置を決定できるポイント」は何を指すのだろうか?
Jin(モタスポGP)(@f1motospogp)さんのツイートによると、赤旗時点でフェルスタッペンは第1セクター終了のラインを超えていない、とのことだ。最終ラップ開始時の順位は2回目の赤旗明けの再スタート順に従ったようだ。
そして、3回目の赤旗明けの最後1周のSCラン。あれは必要だったのだろうか?単なる時間の無駄と感じる。以下の1、2のいずれかの運用ではダメだったのだろうか?
3回目の赤旗時(レース残り1周)でレース打ち切りにする
(⇒この場合、3回目スタート時のグリッド順が最終結果となり、クラッシュしたガスリーやオコンの順位も復活する)3回目のスタート後のクラッシュでは赤旗ではなく、SCを入れてそのままゴールさせる
(⇒この場合、5コーナーで4位、5位に上がったヒュルケンベルグと角田の順位が維持され、サインツの降格でそれぞれ3位、4位に繰り上がる)
わざわざ赤旗とラスト1周のSCランを入れたことでアロンソやストロールが順位を取り戻した一方、クラッシュしたガスリーやオコンは順位を取り戻せていない。ヒュルケンベルグ3位表彰台と角田の4位がフイにされた八つ当たりを含むことは否定できないが、私としては釈然としないものを感じた。
それでもフェルスタッペン、ハミルトンに続いて3位にアロンソが入り、計11回のタイトル、計171勝の3人の王者が表彰台に並ぶ様子は壮観だった。
レース最序盤の8位走行で奮戦するも、15位近辺まで一方的に抜かれ続けた角田にとって、10位入賞は最高のご褒美だろう。
F1は次戦アゼルバイジャンまで4週間のインターバルを挟むが、今回のレースはしばらく物議を醸す気がする。ハースはさっそく抗議しているというし、レース中には「再スタート手順について審議」のテロップが出た(※結局、ハースの抗議は棄却され、サインツの5秒加算を反映した着順がそのまま最終結果となった)。赤旗時の再スタートの運用について、当面議論を呼びそうだ。
私個人としては、下記のような感じで毒づきたくなる。