アルピーヌに激震、ピアストリが来季の搭乗拒否
アルピーヌF1チームに激震が続いている。8月1日にアロンソがアルピーヌ離脱とアストンマーチン移籍を発表。チームはその2日後、アロンソの後任として育成ドライバーのピアストリ起用を発表するが、ピアストリはすぐさま「アルピーヌとは契約しておらず、来季にこのチームでは走らない」とのコメントを出した。デビュー前のドライバーが来季の契約を拒否る、なんて聞いたことがない。
ピアストリは来季マクラーレン入りの噂がある(その場合、クビを切られるのは不振のリカルドとみられる)。先週末のベッテル引退発表時点でアルピーヌはアロンソとオコンの続投が濃厚とみられ、ピアストリに示されたのはせいぜいウィリアムズへのレンタル移籍の可能性ぐらいだった。アロンソがアストンマーチン移籍の腹を決めたとき、ピアストリもまた、アルピーヌでの未来を見限っていたのだ。
それにしても、現在ランキング4位のチームのシートが2人に蹴られるとは。一体どうなっているのだろう?
デビュー前のドライバーが火種となる異常事態
まだF1デビューしてないドライバーが移籍市場の爆弾となり、彼の未来にアロンソ、リカルド、(間接的にベッテル)という優勝経験者が絡むのは前代未聞だ。
セナのロータス移籍、シューマッハのベネトン移籍、フェルスタッペンのレッドブル昇格を思い出すドタバタ劇に映る。(フェルスタッペンは兄弟チーム間での移籍のため契約反故ではないが、青天の霹靂でのクビアトとの入れ替え、レッドブル昇格初戦での優勝は驚いた)
F1デビューを拒否した事例としては79年のプロストが思い浮かぶ。同年の欧州F3、フランスF3の両タイトルを獲得したプロストに、マクラーレンは3台目のマシンによるシーズン終盤のスポット参戦を打診した(当時は1チームが3台目を走らせることも可能だった)。しかし、プロストは拒否。代わりに翌年のデビューに向けたプライベートテストを組んで、習熟の機会を設けるよう要望した。
デビュー前の新人としては大胆不遜な提案だが、シーズン後のポール・リカールでのテストで好タイムを連発して実力を証明。チームも彼と年間契約を交わすことを決めた。
プロストは翌80年にデビュー戦で6位入賞を果たすなど、先輩格のワトソンに劣らない活躍を見せた。スポット参戦を見送って翌年の準備に絞ったのは大成功だった。「2台走らせるにも精一杯のチームが3台目を走らせても好成績を得られるわけがない。F1デビューのチャンスを見送ったのは勇気が要ったけど、人生最高の決断だった」と、後年プロストは語った。
しかし、プロストの例とて「スポット参戦を蹴った」に過ぎず、ピアストリの「フルシーズンの搭乗拒否」はレベルが違う。
ピアストリはF3、F2のタイトルをぞれぞれ1年目で獲得した逸材。F2では全ドライバーで最多となる6勝を挙げ、252.5点を獲得して2位に60.5点差をつけるなど、勝ち方にも大器の片りんを感じさせる。
新人時代に契約で揉めるドライバー、というのは概して大成している(※ただし、マゼピンなどスポンサー関連で揉めた例は除く)。ピアストリがそれに続くのか楽しみだ。
落としどころはリカルドとのトレードか?
アルピーヌF1チーム代表のサウナフアーが「リカルドのチーム復帰に障害はない」と語った、とのニュースも入った。アルピーヌはさっそく「プランB」の準備にかかったのか。となると、リカルドのアルピーヌ復帰、ピアストリのマクラーレンでのデビューで決定か。
マクラーレンは今のF1で新人教育には絶好のチームだ。ノリスという先輩に倣いながら、キャリアを高めていくことは十分期待できるだろう。
マクラーレンはマクラーレンで、海の向こうのインディカーで似たようなパロウの契約問題を抱えている。オワードらインディカー参戦ドライバーのF1デビューも取りざたされるが、ピアストリが獲れるなら数年はその話は封印されると思われる。
リカルドは現在不振とはいえ、今よりチーム力がない旧ルノー時代に表彰台に立っており、アルピーヌとしても気心の知れたドライバーの出戻りは悪い話ではない。以前の記事でも書いた通り、F1ではゼロの状態からたった数日で大型移籍が決まることがある。今回の決着も案外早いかもしれない。
もっとも、「ガスリーがアルファタウリとの契約を破棄してアルピーヌに移る!」という未来もないわけではない。フランス人のガスリーにとってもアルピーヌは空きを待っていたシート。オコンとガスリーは関係が悪いともいわれるが、果たして。
ほぼ全チームにドライバーの変動が起きた20年、ラッセルがメルセデスに昇格した21年と比べると、今年は静かなストーブリーグかと思われた。ところが、先月末のベッテル引退がとんでもない号砲となった。どうなることやら。
(※続編として、エンストン拠点のこのチームについて「ドライバーマネジメントの脇が甘いアルピーヌ」と題した記事に記述予定)
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