経験の差が出た日本とイギリス——カーリング女子決勝戦
経験の差が出た。そんな決勝戦だったように思う。
日本のロコ・ソラーレは氷の滑り方、曲がり方が読みがわずかに狂う場面が目立つ一方、イギリスはその隙を一切見逃さなかった。ロコ・ソラーレは前回五輪の銅メダリストだが、イギリスのスキップ、イブ・ミュアヘッドは藤澤五月と1歳違いながら五輪出場4回目で、2013年には世界選手権も制した。勝敗を分けたのは大舞台への慣れの違いだった。
試合前の選手紹介で手を振る日本チーム。「負けてもともと」で迎えた準決勝のスイス戦と比べると、金メダルのかかった決勝となるとやや表情がぎごちないように見えた。
第1エンド、イギリスの後攻。リードとセカンドは石の飛ばしあいが続いたが、スキップの藤澤五月の最終ショットがわずかに狙いと外れ、相手に1点取らせる作戦が崩れる。ミュアヘッドが冷静に日本の石をずらし、イギリスが2点を先制。
第2エンド以降も、スイス戦であれだけ正確だったサード、スキップのショットが思惑と外れ、スイープでストーンの動きを次善の「Bプラン」に切り替える場面が見られた。投げた石がわずかにガードストーンに隠れ切らない、相手のストーンにぴったり付けたいドローショットが離れてしまう。2投のうち1投は素晴らしいのに、もう1投の精度を揃えることができないように感じた。
動きが硬いのか。氷を読む精度が前日ほどには高められないのか。
イギリスは日本の乱れを的確に突いた。試合終了時のスタッツではテイクアウトの成功率が日本の67%に対して、イギリスは驚異の93%(!)。テークアウトショットの数も日本の19投に対してイギリスは32投で、イギリスが相手のストーンを積極的に打ち出しに行ったことがわかる。
特にサードのビクトリア・ライトが、日本のセカンドの鈴木夕湖やサードの吉田知那美が置いた石を容赦なくダブルテイクアウトする場面が目立った。
日本は運もいま一つだった。後攻で迎えた第6エンドの藤澤の2投目は弱いテイクアウトショットでイギリスのナンバーワンを弾くとともに、自分のストーンをハウス中心に残して2点を取る狙いだったが、ハウス内のもう1つの日本の石を少し外に弾いてしまい、わずかな差でナンバーツーはイギリスのストーンに。日本は1得点にとどまった。ここで2-4。
チャンスを逃した日本にイギリスは猛攻を仕掛ける。日本が不利な先攻となる第7エンドで、ミュアヘッドは1投目でハウス内の日本の3つのストーンを弾き、うち2つをテイクアウトするスーパーショットを放つ。
この時点でハウス内はイギリスの石3つに対して、日本の石は1つだけ。藤澤の2投目は相手の石1つを弾いて自分の石をナンバーワンで残す狙いだったが、当たり方が思惑とずれ、相手の石が残ったばかりか投げた石がハウス外に出てしまった。これで残った日本の石1つが何もガードのない状態に。ミュアヘッドは的確にテイクアウトして一気に4点を獲得した。これで2-8。
結果的に、この4失点が日本の致命傷となった。
イギリスは一切手を緩めず、第8エンドに後攻の日本は1点どまり。3-8。
第9エンドで先攻の日本はなんとかスチールを狙うが、イギリスはそれを許さない。ミュアヘッドは1投目で見事なダブルテイクアウトを決める。後がなくなった藤澤は2投目で起死回生のトリプルテイクアウトを狙うが、相手のストーンがハウスの中心付近に1つ残ってしまう。ミュアヘッドは冷静にドローショットを決めて2点を加点。3-10に。
ここで日本がコンシードを宣言。銀メダルが決まった。表彰式後、藤澤は「これほど悔しいと思った表彰台は初めて」と涙を浮かべた。
決勝で負けたものの、私としては五輪期間を通じて、笑いあれば涙ありのジェットコースターのようなロコ・ソラーレの戦いを大いに楽しませてもらった。
予選リーグ初戦のスウェーデン戦で逆転負けして世界ランク1位との実力差を痛感するが、カナダ、デンマーク、ROC、中国に連勝して「これは予選通過は間違いない」と思った。しかし、続く韓国戦で「メガネ先輩」にこっぴどくやられると、イギリスにも敗北。アメリカには勝ったが、最終戦のスイス戦で地獄を見せられた。
ところが予選リーグで5勝4敗で並んだ4チームのうち、規定の関係で日本とイギリスが決勝トーナメントに進めることとなり、2日連続となるスイス戦で前日の借りを返した。勢いに乗って金メダルを獲りたいところだったが、平昌五輪の3位決定戦で日本に負けてリベンジに燃えるイギリスの壁は厚かった。
平昌で「そだねー」と「もぐもぐタイム」が一躍有名となった彼女たちだが、4年経ってもロコ・ソラーレはロコ・ソラーレのままだった。(「そだねー」は話題になりすぎて封印したらしいが)。試合中もポーカーフェイスとは程遠い、笑いあり哀しみありの表情は他チームとは明らかにテンションが違った。いい意味で。
ところが決勝戦ではテンションがやや控えめだった感がある。特に中盤では。やっぱり、あの氷の上を飛び跳ねるようなテンションと、ミスショットでも「ナイス~」と呼びかけ合う掛け声は重要な役割を持っていたのだ。
私は、五輪出場枠をかけた世界最終予選も見たし、その前の五輪日本代表の権利をロコ・ソラーレと北海道銀行で争った5番勝負も見た。特に代表決定戦は0勝2敗の絶望の淵から3連勝で出場権を得た壮絶なドラマだった。
思えば、あの五番勝負が五輪の「シルバーメダルマッチ」だったのかもしれない。スキップの吉村紗也香に五輪出場経験3回の船山弓枝が脇を固める北海道銀行は強かった。実はその試合の互いの出場選手で五輪出場経験がないのは吉村だけ(リザーブを含めれば伊藤彩未も未経験)。経験の差が勝敗を分けた戦いだった。
あの壮絶な戦いがあったからこそ、泣いて笑いながらもロコ・ソラーレを成長させたことは間違いない。そして北海道銀行も。
これからのオリンピック、そして世界選手権でどのような戦いになるか楽しみだ。