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JR貨物の苦しい現状(貿易の視点から)
私は数年前まで、鉄道関係の仕事をしており、そして転職をした。
現在は貿易関係の仕事をしている。
以前から貨物列車については2024年問題もあり、モーダルシフトにより貨物が増えると言われていたが、ふたを開けてみると2024年は不正行為による不祥事や山陽線、函館線の脱線事故など、苦難の年であったと言わざるを得ない。
そんなJR貨物であるが、どうして荷物は減り続けてしまうのか。打開策はないのかを現在の仕事である貿易の仕事の視点から考える。
JR貨物の置かれた厳しい環境的要因
ここでは新幹線の並行在来線問題やインフラの老朽化などは基本的に考えない。それぞれ、JR貨物の大きな問題だが、今回はあくまで貿易視点で考える。
日本が細長い島国であるということ
貨物列車が多く使われている国はどのような国かとイメージすると、映画やゲームでよく登場するアメリカがイメージされる。日本と貿易の多い国でいえば、中国も貨物列車が多く使われるし、経済制裁で貿易は少なくなっているが、ロシアもシベリア鉄道を用いて貨物列車の輸送が盛んだ。
言うまでもなく、鉄道貨物輸送は海上輸送と競合する。ロシアや中国、アメリカは内陸へ貨物を持っていきたい場合は基本的に貨物列車かトラックを使わざる負えない。何が言いたいかというと、前提として船と貨物列車が競合した場合、貨物列車は負けるということだ。
日本は島国であるのはもちろんだが、何より貨物列車が戦うには日本は細長すぎる。どこに住んでいても基本的に海が近い。これは国際貿易で貨物列車が使われない理由の一番の理由だ。
ケーススタディ内陸県から(群馬→トルコへ輸出したい)
ここまで、海近いのがデメリットと言っているなら、内陸県からの輸出を元に考えてみる。
群馬県からヨーロッパ方面へ、20フィートコンテナを輸出したいと考えている。ここでの基本的な答えは、群馬→トラックで横浜or東京港へ→シンガポールや釜山などでトランシップ(乗換)→終着のトルコ・イスタンブールへ。
船会社によって多少の航路の違いは考えられるが、港までの経路で日本の貨物列車を使う会社はまずありえないだろう。
なぜか。使う側の意見として一番最初にくるのはやり方が煩雑になるということだ。群馬県には上越線の倉賀野に貨物駅があり、そこから東京貨物ターミナル駅まで運ぶことをイメージしてみる。まず、空コンテナをどうやって持ってくるからがスタートになる。
一般的に海上コンテナは船会社からレンタルするという形をとる。このコンテナのことをCOCコンテナというが、これは基本的には港(Container Yard)で借りて、荷物を入れるところまで持っていき、荷物を詰めたら同じ港に持っていき、船の出港を待つという形だ。
貨物列車を使ってやろうとすると非常に煩雑かつ、何日もかかってしまう。まず、コンテナを港で引き取り東京貨物ターミナル駅へ持っていくためのトラックの手配、JR貨物の予約の手配、貨物列車に積載し倉賀野へ到着、倉賀野から荷物を積む工場などへのトラック手配、荷物を詰め込んだら、その反対のパターンをもう一度行わなければならないのである。
貨物駅に持ち込んだコンテナがその日の夜に発送されるものと仮定すると
・港から貨物駅に持ち込んで貨物列車が発車した日
・貨物駅に到着して空コンテナを引き取り、荷物積むところへ持ってく日
・荷物を積み終わり、再び貨物駅に持ち込み、貨物列車の発車する日。
・貨物駅に到着して、港にコンテナを搬入する日
なんと4日かかるのである。貨物列車のダイヤによっては短縮できるかもしれないが、時間に縛られるリスキーなトラック運用になると思う。ちなみにトラックであれば、
・港から空コンテナを引き取り、荷物を積むところまで持ってく日
・荷物が積み終わり、港に搬入する日
基本的にはこの2日である。
海上コンテナ輸送であれば、リードタイムに余裕のある荷物が多いので、日付は大きく気にする必要はないとはいえども、この煩雑さであれば、荷主が直接手配することはおろか、全国のフォワーダー、日本通運などの全国に拠点を持っている企業でさえもわざわざJRを用いる必要は感じない。
他の地区の例
群馬県の例ではあったが、全国どの例でも似たようなことが言える。
日本には7大港と呼ばれる大きな港が7つあり、博多、門司、神戸、大阪、名古屋、横浜、東京がその港である。西日本全域から関東までは基本的にどの港であっても、これらの港と接続することで、同じようなことが言えてしまう。
というわけで、この7大港が遠い北海道や日本海側、東北地方は貨物列車を使う考えが出てくるかというとそれもまた微妙である。
ハブ港がない日本
先ほどは7大港と言ったが、日本に国際的なハブ港はないと言っていい。どの船会社を使っても太平洋方面以外は釜山やシンガポールを経由してしまう。これが何を意味するかというと、本数の違いはあれど、どの港に持ち込んでも次のルートはあまり変わらないことを意味する。そして、東北を含めた日本海側の地方港には韓国船社が多数就航しており、釜山を起点としそれぞれの船社が連携を組むことで、ヨーロッパや中東、アフリカへコンテナを送ることが出来る。
なので、わざわざ7大港に持ち込んでも結局、釜山やシンガポールといった港にトランシップするなら、地方港に持ち込んでも大差ないのである。
であれば、新潟や東北、北海道であってもそれぞれの地方港、新潟・酒田・秋田・苫小牧などに持ち込んでしまえばいい話である。船会社の料金は地方港で多少高くなるが、7大港にわざわざ持っていく料金や手間と比較すると大差ないと判断される。
JR貨物のハード面の厳しさ
先ほどまでは、どうしようもない環境的要因であったが、今から述べるのは頑張ればなんとかなる問題である。頑張るといっても国家プロジェクトでなんとかするしかないレベルの話だが…
線路が狭軌であり、40ft背高コンテナ(40HC)が運べない
最大の問題である。貿易を少しでも関わったことがある人ならわかると思うが、40ftコンテナはほとんど背高コンテナが主流である。それが運べないとなるとなると、話にもならないのである。応援したいのはJR貨物は低床貨車を開発中でこれが実現すればこの問題は解決する。しかし、少なくともこの問題が解決しないかぎりは他のどの問題を解決してもどうしようもない。
港が駅と一体化していない。
中国、韓国、ロシア、アメリカ、欧州各国などと日本の決定的な違いで、港と駅が一体化していないのである。一体化というのは港のコンテナヤードの中でそのまま貨物に積載できるという意味である。
Googleマップなどで、釜山港や青島港、上海港を見てもらえればわかるが、港に鉄道がそのまま乗り入れているのが分かる。これは日本との大きな違いで、これが出来れば港と駅をわざわざトラックを必要とせず、構内の移動で済むのである。
現在でも仙台港など接続しているものはあるが、コンテナヤードの中に大規模に接続しているものはない。これは諸外国と大きな差である。
これでは駅と港の移動に公道を挟んでしまうし、何より完全に別の施設になるので、会社も港湾会社、トラック会社、通関会社、JRと多く挟んでしまう。これでは利用しないのは当然だ。
例えば中国の例では日本から中央アジアへ運ぶとき、青島などの港で船のトランシップと同じように接続し、カザフスタンの貨物駅が港と同じような扱いで受け取ることができる。日本もそのように出来ればいいのだが、後述するコンテナの問題は大きいし、日本の貨物駅がそこまで大きくないのはいたいところである。
普及させてしまった12ftコンテナ
12ftコンテナを運べる船会社を私は知らない。
日本独自規格というのは、日本の会社にとってはいいが、輸出入を考えると積替えが必要で手間しかないのである。港と一体化させたとき、12ftがあったら邪魔でしかない。鉄道専用コンテナを開発してしまったがゆえに海運との繋がりが弱まり、日本の国内産業の衰退と同時に貨物鉄道も衰退していくのである。
どうしたら、JR貨物に海上コンテナが乗るのか
JR貨物のホームページを見ると総合物流企業を目指していると書いてある。(海外事業のホームページを見ると海外にノウハウを教えているとかいてあるが、むしろ日本は学ぶ側であるだろうと突っ込みたくなった)それを本気で目指せばもしかしたら、大きく活路を見いだせるところはあると思う。
特に地方港エリアはある意味仕方なく本数が少ない船のなかで使っていることも多い。そこでJR貨物が例えば、秋田から東京港を経由したほうが船会社を使うよりも安いようなプランを提示できるのであれば、そちらを使うユーザーも全然考えられる。東京を起点とするならば、JR貨物が東北、上越、北海道の各駅から東京港搬入までをセット商品で売ることもできれば、中々魅力的な商品ではあると思う。
JR貨物が船会社と連携したうえでフォワーダーのノウハウをつけることができれば、もしかしたら現状でも海上コンテナは乗るかもしれない。空コンテナの扱いが最大の課題ではあると思うし、ひとまず低床貨車の開発は必須であるとは思うが。
最後に
少し、希望を持たせるような話をしないとバランスが取れないと思い、先ほど内容を書いたが、少なくとも現状では貿易に使うことはまず考えられない。したがって、日本の経済の衰退とともに、JR貨物も衰退していくだろう。日本の人口が減少が止められない以上、もはや衰退は避けられないが、JR貨物の地理的不利は可哀想である。
船と戦うのではなく、飛行機と戦うほうがまだ現実的なのではないかとも思う。それは旅客会社がちまちまやっている新幹線を用いた輸送だ。
新幹線貨物列車が実現すれば、船とは貨物の性質上競合しないうえ、飛行機との競合になるが、飛行機よりも東京大阪間などはリードタイムも早くなるだろうし、こちらのほうが現実的な気もする。