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2024年観劇まとめ マイベストは『インヘリタンス -継承-』

2024年の観劇まとめ。
最初に弁解。私は林遣都さんと田中圭さんのファンになり(はい、おっさんずラブですね)二人のお芝居を見たくて劇場に行き始めたのが観劇のきっかけ。
なので長年の演劇ファンとか純粋に演劇が好き、という方には遠く及ばない。
それと演劇のチケットは高いので、新国立劇場の安い席で見られる舞台を選ぶことが多く、偏りがある。
あとは、どちらかというと翻訳劇が好き。
そんな言い訳の多い私の観劇まとめ2024、観劇順です。

インヘリタンス -継承- THE INHERITANCE

https://www.geigeki.jp/archive/theater350/

前後編合わせて6時間半の大作。
結局年初に観たこの作品が今年のベストだった。
エイズが死の病であった時代からその後まで、病や差別と闘ってきた人たちの思いや歴史の『継承』がテーマ。
『愛すること、愛したことを伝えていくこと』『喪失の辛さを乗り越えていくこと』『憎しみから離れるために愛すこと』などのメッセージが心に強く響いた。
誰かが倒れてもその誰かの思いは受け継がれる、そうやって少しづつ世の中を前に進めて行こう、と思わせてくれる作品だった
彼らの人生を一緒に体験したようなエンドに涙が止まらなかった。

福士誠治さんが長台詞を軽々とこなしつつ、エリックの優しさや飄々とした感じをうまく表現していて素晴らしかった。エリックは登場人物の中ではアクも強くないので、逆に演じるのは難しいのかなと感じたが、群像の一部となる部分ではうまく溶け込み、感情を露わにする場面では、引き込まれる演技で見事だった。
彼は『セールスマンの死 (2022年)』の長男ビフ役が良かったので、これからも見てみたい俳優さんだ。

それと、山路和弘さん、篠井英介さん、麻美れいさんの三人は出てきただけで舞台の雰囲気が変わる素晴らしさだった。
長年演劇をやっている人は台詞回しからして全く違うんだよね。

劇中でも出てくるトランプ大統領が二期目を始めるまであともう少し。アメリカのゲイ・コミュニティをはじめ、あらゆるマイノリティにとって辛い4年間が始まるであろうと想像すると、気持ちが暗くなる。
それでも、仮に倒されたとしても、また立ち上がって物語を繋いでいこう、そんな勇気をくれる作品だった。

ついでにだけど、私が今年ものすごくはまったAmazon Primeの映画『赤と白とロイヤルブルー (Red, White and Royal Blue)』の監督が『インヘリタンス』の作者、マシュー・ロペス (Matthew Lopez) で、それを知ったときは衝撃だったし、嬉しかった。運命の出会いって感じ。



リア王 KING LEAR

段田安則 x ジョーン・ホームズが見たくてチケットを入手。
この二人の『セールスマンの死 (2022年)』が好きだったので、期待して臨んだ。
人生初リア王。事前にストーリーを頭に入れて行ったので、すんなり物語に入れた。シェイクスピアの物語を現代の会社の内紛みたいに見せる面白い舞台だった。(舞台美術が会社のようで、段田さんの衣装はスーツ)
猜疑心やら騙し合いやら人間の欲望や業のようなものが描かれたストーリーで、現代にも通ずるテーマだった。
段田さんは、めちゃめちゃ嫌なお爺さんであるリア王を暴君なんだけれどおかしみや哀れみがある人物として演じてて、流石だった。
最後がふわっと終わったので、そこがちょっと疑問だったけど。
『リア王』はこれからも色々なバージョンを見れると思うので比較してみたいと思った。

帰れない男~慰留と斡旋の攻防~

まず舞台美術がとても良かった。手前に廊下、その奥に部屋(客間)、窓を挟んで中庭が見える構成。登場人物がそこを回って出たり入ったりするのがその空間(広いお屋敷)から ”出られない=帰れない” ことを物理的に示していて面白かった。
林遣都さんは、昭和とか大正時代の雰囲気がよく似合うし、こういうモダモダした決められないニッチもサッチも行かなくなる男が本当に似合う。
藤間爽子さんは和服姿での身のこなしが美しく、山崎一さんの夫の気持ち悪さも相まって、この三人の奇妙な三角関係に説得力があった。
話自体は、新しい感じはしなかった。


デカローグ 1~10 DEKALOG 1-10

ポーランドの名匠、クシシュトフ・キェシロフスキが発表した 『デカローグ』。旧約聖書の十戒をモチーフに 1980 年代のポーランド、ワルシャワのとある団地に住む人々を描いた十篇の連作集です。人間を裁き断罪するのではなく、人間を不完全な存在として認め、その迷いや弱さを含めて向き合うことが描かれたこの作品は、人への根源的な肯定と愛の眼差しで溢れています。
(ホームページより)

旧約聖書における十戒とは:

聖パウロ女子修道会(女子パウロ会)公式サイトより

この十戒を基に作られたのが『デカローグ1~10』。

デカローグ1 「ある運命に関する物語」
デカローグ3 「あるクリスマス・イヴに関する物語」

デカローグ2 「ある選択に関する物語」
デカローグ4 「ある父と娘に関する物語」

デカローグ5 「ある殺人に関する物語」
デカローグ6 「ある愛に関する物語」

デカローグ7 「ある告白に関する物語」
デカローグ8 「ある過去に関する物語」

デカローグ9 「ある孤独に関する物語」
デカローグ10 「ある希望に関する物語」

それぞれテーマは違えど、間違えながらもがきながら生きていく人間の姿を描いており、身につまされたり考えたりすることが多かった。一番好きだったのが10。兄弟が父の遺品をめぐり右往左往していく話だったが、この長い物語の最後にふさわしい、ちょっと抜けてて優しい、とても人間らしい物語だった。
個人的には全編に出てきた亀田佳明さんがしゃべるのを聞きたかったけど。彼は全編を見守る傍観者みたいな役割だったので、全部に出てくるけど全く喋らない。。。

最後にパンプレットに載っていた作者クシシュトフ・キェシロフスキの言葉がとても良かったので載せておこう。

『私は、ドストエフスキーの作品の中にも見いだせるこのつながり、
つまり過ちから許しによって得られる魂の救済までの連鎖性は真実だと思っている。
過ちは必要悪である。それは我々の上にもたらされる寛容さによって、
我々を孤独の中から引きずり出してくれるのである。』


Medicine メディスン

さすが田中圭、という圧巻の舞台
彼は身体が美しすぎるため、全身が見える舞台だと役柄と乖離して見えてしまうのが難点。2022年に『夏の砂の上』で演じた工員も演技はすごく良かったけど、身体が美しすぎて "しけた工員" に見えずもったいないなと思っていた。
今回はくしゃくしゃなパジャマ姿での登場だったので、その面でも役柄に違和感がなかった。

物語はとにかく辛い。舞台上は常に不安で不穏な感じ。時に破壊的にもなり、息もつかせぬ展開のまま最後まで走り抜ける。
正直辛すぎてもう見たくないとも思うほどだ。
ドラマセラピーを受けるジョン・ケイン(田中圭)の痛みが突き刺さってくる。最も望んでいた『愛』を彼は得られたのだろうか。
ジョン・ケインの正気を失った表情からの感情の爆発に圧倒された
これほどまでの演技のあと、3回目のカーテンコールで出てきた田中圭さんがいつも通りの笑顔になっていて、この人天才なんだなと感じた。役と自分との切り分けがすごい。

この舞台は幸運にも最前列。田中圭さんの圧巻の演技を間近で見られたことは本当に幸運だった。


死の笛

俳優・安田顕が企画・プロデュースした二人芝居「死の笛」。共演は林遣都。脚本は、坂元裕二による新作書き下ろし。演出は、水田伸生。

豪華な座組なのでめちゃくちゃプラチナチケットだった。
自分では全滅し、民友さんから誘ってもらい、ようやく見に行くことが出来た(今も感謝してる!)

ミステリー?ホラー?SF?が混ざったような話で面白かった。
持続可能兵器の二人が体験していくあれやこれやが残酷で、笑いの多い舞台だからこそ胸に迫った。
小さめの劇場(草月ホール)だったため、暗く狭く息苦しい空間を作るのに成功している。感情の爆発や静寂が客席の隅々まで行きわたる。客も演者と一緒に呼吸をして、二転三転する物語に振り回されていくような感じがする。
安田顕さんは台詞回しも巧みだし緩急をつけた演技で惹きつけられた。その安田さんに必死でついていく林遣都さんも良かった。
安田さんの安定感に対し、遣都さんのすがすがしさと明るさ、二人芝居ならではの良さがあった。

遣都さんは愚直な中に滑稽さを忍び込ませる演技がうまく(天性のもの?)今回の役ではそれを思う存分出していたと思う。
今年観た舞台の中で没入感は一番だった。


ピローマン The Pillowman

今や映画監督としても活躍する、イギリスの劇作家マーティン・マクドナーの代表作の一つ『ピローマン』。架空の"独裁国家"で生活している兄と弟。作家である弟が書いたおとぎ話の内容がやがて彼らの現実を侵食し......。理不尽な体制の中で「物語」が存在する意義とは何かを問いかけます。(ホームページより)

真ん中に舞台があり、客席が周りを囲むスタイルだった。
常に舞台全てを見ることができるせいか、非常に緊張感があったし、まるで自分も物語に登場しているような気分になった。

虚実ないまぜの中で最後まで突き進む。
作家の業も強く感じる。
物語とはなんだろうか。現実と物語の違いとは?今自分が生きている世界も物語の一部なのかもしれない、と思わせる作品だった。

途中で目を覆いたくなるような残酷な表現もあったが、常に笑いも起きていて、その両方が成立する怖いけど笑いの多い不思議な舞台だった。
それこそが物語ということか?
主演の成河さんは普通っぽく演じているのが怖さを殊更に際立たせており、素晴らしかった。
本当に面白い作品だった。別の座組でも見てみたい。


テーバイ Thebes

1年間という期間の中で、参加者が話し合いや試演を重ねて作品理解を深めながら、より豊かな作品づくりをおこなっていく「こつこつプロジェクト」。この度、2021年6月から2022年2月まで行われた第二期の作品のうち、船岩祐太が構成、上演台本、演出を進めた『テーバイ』を2024/2025シーズンの演劇公演として上演します。
ソポクレスによる、知らずのうちに近親相姦と父親の殺害に手を染めたテーバイの王オイディプスの物語『オイディプス王』、テーバイを追放され放浪の途にあるオイディプスの神々との和解とその生の終幕を描いた『コロノスのオイディプス』、そしてオイディプスの娘であるアンティゴネが兄弟の埋葬をめぐり、テーバイの王・クレオンと激しく対立する『アンティゴネ』。
同じ時系列の神話をモチーフとしながらも独立したこの3作品を、船岩は「こつこつプロジェクト」の中で一つの戯曲として再構成し、現代における等身大の対話劇として創り上げました。古典と現代社会との接点を見つめ続け、単なるギリシア悲劇三作品のダイジェストではなく、オイディプスやアンティゴネに加えて、三作に共通して登場するクレオンにフォーカスすることで「国家と個人」を巡る人間ドラマへと進化。三作それぞれの作中では、一介の脇役に過ぎなかったクレオンが、なぜ王座に座り、国を亡ぼすことになったのか...。法と平和を理想に掲げる統治者が、恐怖と防衛心にさいなまれるさまを描きだします。
(ホームページより)

いや、本当にこれは期待を大幅に上回る素晴らしさだった。
無知を晒すようでなんだけど、この作品が3作品を一つにまとめた戯曲だと知らなかった。『テーバイ』っていうギリシャ悲劇があるのかと思ってた。
まず、戯曲を作った船岩祐太さんがすごい
物語が面白い。
展開に齟齬がなく、物語の世界に浸っていられた。役者陣もお見事。特にオイディプス役の今井朋彦さんの台詞回しが明瞭で見事だった。
激高した会話が多かったのが少し残念。アンティゴネとイスメネの話し合いのシーンなど、対話で見たかった部分もある。
それと兄弟の死のシーンが少しわかりにくかった。
でも、それ以外はすべて良かった。
古典物は好きだけど正直冗長で眠くなることも多いのに、テーバイは最初から最後までずっと飽きなかった。
設定を現代にしていることもあり、為政者の立ち居振る舞いに思いを馳せる作品となった。古典が現代にも通ずるってこういう所なんだよね。
新国立劇場の「こつこつプロジェクト」は知らなかったけど、完成度の高さに脱帽。次作も必ず見に行きたい。



白衛軍 The White Guard

1918年、革命直後のウクライナを舞台に時代に翻弄される人々を描く──

二十世紀ロシアを代表する作家、ブルガーコフ。その人生の道のりは平穏ではありませんでした。作家としての評価も毀誉褒貶が激しく、まさに時代に翻弄された一生と言えるでしょう。体を蝕む病魔との闘いも相俟って、48年9か月の時間に燃焼し尽された彼の生涯は、ソヴィエトという国家に生きた芸術家として、永遠に記憶されるべきものです。(ホームページより)

今年の観劇収めはこれだった。
キーウで楽しく暮らす家族が戦争に翻弄されていく姿を一気に見せていく作品。多くのものを失わせ、奪っていく戦争の無情さを時に笑いも混ぜながら訴えてくる作品だった。
前列の客席をかなりつぶして舞台にしており、冒頭その部分を使って見せる演出がとても印象的だった。
100年前の家族の物語だが、現代にも通じるテーマであり、ロシアによるウクライナ侵攻が続く今、新国立劇場がこのテーマを選んで上演することの意味を考えさせられた。


最後に

2024年は面白い作品をたくさん見ることができた。
チケットが8,000円くらいなら、もう少し見に行けると思うけど。。。
新国立劇場のB席は3,300円なので本当に助かっている。ありがとう新国立劇場!
2025年は既にチケットを取っているのが加藤拓也さん演出の『ドードーが落下する』、亀田佳明さん目当てで取った『ポルノグラフィ PORNOGRAPHY / レイジ RAGE』、林遣都さん目当ての『やなぎにツバメは』、松下優也さん目当ての『キンキーブーツ』の4本。他にも見たいのがたくさんあるので、お財布と相談しながら。新国立「こつこつプロジェクト」の『夜の道づれ』と日本初演の『ザ・ヒューマンズ』も見たい。
書いてたらワクワクが止まらなくなってきた!早く観たい!ということで長いnoteを終わります。ここまで読んでくれた人、ありがとうございました!

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