『東京商店夫婦』という本が面白かった話。
10年くらい、都内でも商店街で有名な場所に住んでいました。住んでいる間、タワマン群が建つということで飲み屋街が立ち退きになったりも。年々チェーン店が増え、タワマンができて、おしゃれな店がテナントに入ったりもしましたが、ビル風がすごくて行きつけのお店の人たちと、風がヤバいとよく話していました。また、チェーン店もいいけど、同じようなものがあるなら個人商店で買ったり、古くからお店をやってる地元の人たちと、二言三言言葉を交わすのを楽しみに買い物をしていました。タワマンができると周辺の物件の家賃が上がるそうで、続けていけなくなるお店も多いかもしれません。個人商店がチェーン店に取って代わるようになるのかも・・・と思います。
そんな暮らしのなか(?)、出会った『東京商店夫婦』という本。写真家の阿部了(あべ・さとる)さんとライターの阿部直美さんというご夫婦が「散歩の達人」で約4年半にわたって連載していた記事をまとめた本です。
ふらっと出かけた先の書店で、なんとなく購入したのですが、ずっと積読になっていました。時間ができ、読み始めたら、これが予想以上に面白くて、ページをめくる手がとまらなくなるほど。全部読み終わる前に友人にも勧めていました。
本の内容はというと、ふとん屋さんだったり、ラーメン屋さん、こんにゃく屋さん、理容店、パン屋さん、肉屋さん・・・東京でお店をしている夫婦を阿部さん夫婦が取材したものです。その数40組。(本記事トップ画像のご夫婦は書籍とは関係ありません)
何がそんなに面白いのか、うまく説明できないのですが、お客さんとして買い物してるだけではわからない、店舗経営の裏話だったり、ご夫婦のなれそめだったり。取材を受けるくらいだから、というのもあるかもしれませんが、ぶっきらぼうな言葉のなかにも、夫婦の仲の良さがにじみ出ています。
書籍のサブタイトルは、「もとは他人、の暮らしと商い」。昨今のコロナ禍もそうですが、バブル崩壊だったり、震災だったり、想定外の出来事に振り回される日々を乗り越えてきた絆だったり、信頼関係だったり。そういったものをインタビューからうかがい知ることができました。
そして、何より、みなさんお若いのです! 上から誰かが指示してくれるわけではなく、時代の流れを読んで、柔軟に対応してこなければ、個人商店が生き残るのはむずかしいですし、また、自分たちのことは自分たちで決めるからなのか、みなさん、いいお顔をされています。
各夫婦のインタビューをまとめた文章は1000字程度で、ああもっと読みたいなと思うのですが、靴屋のご夫婦は、ファッション関係ということで品のあるおしゃれな格好をされていたり、レコード屋のご夫婦はやっぱりちょっと華やかだったり、そういった業種との関連も写真から見つけられたり、写真からいろいろ想像を膨らませたり。もっと読みたいとちょっと渇望感があるくらいのほうが、次のご夫婦、次のご夫婦、とページをめくりたくなる原動力になるかもしれません。また、たまに文章の流れに対して唐突な一文が挿入されていたりするのですが、あ、この一言を文字にしたかったのだな、こういう書き方もあるのだな、と思ったりしました。
最近都内から地元に戻ったのですが、コンビニこそたくさんあるものの、スタバなどのチェーン店はこれといってなく、中学の頃、塾の帰りによく行っていたモスバーガーもいつの間にかなくなっていました。
若い移住者の方たちが増えていて、そうした方たちがカフェやパン屋さんなどを新しくオープンしているので、このままチェーン店が進出してくることなく、『東京商店夫婦』に出てくるご夫婦のような個性的な個人商店が増えていってくれると、町が魅力的になっていいなと思っています。私も、そうしたお店が続いていくように、熱心に通いたいと思います。
(編集部 杉浦)
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