#287【ゲスト/編集者】マンガ読み放題サービスの現状と可能性
このnoteは2021年12月18日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
「コミックDAYS」という新たな挑戦
渡部:フォレスト出版チャンネル、パーソナリティの渡部洋平です。今日は講談社、漫画Web・アプリ「コミックDAYS」編集長の井上威朗さんにゲストにお越しいただきました。フォレスト出版、編集長の森上さんとお伝えしてまいります。井上さん、よろしくお願いします。
井上:よろしくお願いします。
森上:よろしくお願いします。
渡部:では、井上さんに改めてご出演していただいているんですけれども、昨日は編集者としての井上さんのこと、漫画編集者としての仕事の内容について、こう言っていいのかわからないですけど、面白おかしくお話していただいて、本当に楽しい放送になっているんですけれども、まだお聞きでない方は、ぜひそちらも聞いて、今日の放送を聞いてみてほしいと思います。今日は、井上さんが編集長を務めていらっしゃいます、「コミックDAYS」、漫画アプリとウェブですね。
井上:そうです。両方やっていますので、ややこしくてすみません。
渡部:こちらについていろいろとお伺いしていきたいと思います。では、井上さん、森上さん、改めましてよろしくお願いします。
井上・森上:よろしくお願いします。
森上:まず、井上さん、「コミックDAYS」のざっくりとした簡単なご紹介をいただいてもよろしいでしょうか?
井上:はい。「コミックDAYS」というのは、ウェブとアプリの2つのサービスを同時に回しているものになります。その中には2つあって、1つが定期購読サービスというかたちで960円払うと、講談社の漫画、雑誌19紙が読めるというサービスで、もう1つがバラ読みというかたちで講談社から出ている、あらゆる漫画の、あらゆる話がバラ読みで買えてしまう、そういう話で読めるサービスということになっています。この2つをできれば楽しんでいただければということで、サンプルとして多く無料のものもあるので、いっぱい読んでくださいねということです。
森上:なるほど。これって、前者の定期購読のものは、漫画雑誌が全部読めると。
井上:そういうことです。
森上:それは、バックナンバーも全て含めて?
井上:バックナンバー、3号分まで読めます。
森上:なるほどー。そこで960円。
井上:安いですね、これ。
森上:安いですね。もう一つのバラ読みっていうのは、無料を読みながら、途中から課金という。
井上:そういうことですね。この辺りは漫画アプリでよく見るスタイルですよね。待てば無料とかいう制度もあったりして、アプリの方が無料で読める範囲がだいたい多くなっていますけど、ウェブでも同じようなかたちで無料サンプルを読みながら、一話単位で読むことができるというかたちです。
森上:なるほど。これ、漫画アプリって、今いろいろと出ているじゃないですか。そこにも出している。
井上:そうですね。講談社の漫画は全部アップロード版が読めるということなので、他の漫画アプリで読める講談社の漫画も同じように読めると。
森上:なるほど。逆にこの「コミックDAYS」でしか読めない漫画もある?
井上:はい。よくぞ聞いてくださいました。まさにその漫画バラ読みの部分で売りがありまして、1つは、「コミックDAYS」オリジナル連載ということで、独自に我々で立ち上げた愉快な漫画がいっぱい読めるんですけども、もう1つは、雑誌に載っている漫画も、雑誌発売と同時に読めるということです。言ってしまうと、単行本の続きの話も、雑誌に載っているわけですが、その雑誌の発売の瞬間から読めてしまうということですね。
森上:なるほど。一時期、そこれそ「漫画村」の事件と言うか、著作権のいろんな問題がありましたが、あのあたりの影響っていうのは、やっぱりあったんですか?
井上:まさにそうですね。違法配信サイトのおかげで、我々は甚大なダメージを受けたんですけれども、それに対する対応として、業界一丸となって、そういうサービスをなんとか撲滅しようと動くのと同時に、出版社もそれぞれ自分たちでハンドリングできるプラットフォームを作らなくてはいけないということで、動いたと。その一環として、講談社の大人向けの漫画雑誌、6つほどあるんですけど、それが連合して「コミックDAYS」というサービスが始まったという経緯なんです。
森上:なるほど。やっぱりあの事件があって、それに対する対応策によっての、今の「コミックDAYS」があるという感じなんですね。
井上:そういうことでもありますね。紙の雑誌がどんどん部数の減少が止まらずに、苦しいところに、デジタルに未来を見出せないかという、そういう希望もあってのところもあります。
森上:それは、今はいい感じで、実際かなりの右肩上がりのサービスになっているんじゃないですか?
井上:はい。とても順調に成長しているところですね。定期購読の会員も3万人とか、それぐらいのところで。
森上:3万人突破ですか。素晴らしいですね。
井上:そして、話売りでも多くの方々に買っていただいているということで、講談社の漫画を便利に読むんだったら、「コミックDAYS」がいいよと、認知されているということですね。1つだけ宣伝をさせてもらうと、他の漫画アプリやなんかと何が違うのかっていう話だと、話を買った後に、その話が含まれた単行本が出たとするじゃないですか。その話を買った分だけ単行本を安く買えるんですよ。
森上:おー! なるほど。
井上:だから何かの漫画の単行本の10巻は第100話から110話まで含まれているとして、その100話から110話まで、楽しみに少しずつ買っていったとしたら、10巻が出た時は、ただで「コミックDAYS」上で読めてしまうと。
森上:なるほど、なるほど。
井上:ダブり買いをしないでっていう。これはシステム開発はとても面倒だったらしいんですが、ここだけのシステムです。
森上:素晴らしいですね。そうですか。それは新しい試みと言うか。読者にとってはうれしい限りですね。
井上:そういうことですね。「週刊少年ジャンプ」の漫画とかは、当然ながら載っていないわけで、講談社の漫画しか買えないわけだから、そういう雑誌を出している版元だから、やっている、版元直営なので、できることだということで、頑張ってやっている次第です。
森上:なるほど。やっぱり他の出版社さんのそういうプラットフォームとかだと二重取りとかになっちゃったりする場合があるということですよね?
井上:そうです。残念ながらみんな二重取りになっています。
森上:なるほど。講談社の「コミックDAYS」は違うということですね。
井上:そうですね。話売りと巻売りが合体していると言えばいいですかね。
Amazonは、出版社にとってライバルか?
森上:素晴らしいです。でもやっぱり講談社さんって、大手三社さんの中でも、ウェブに関しては、一番先を行っている印象があるんですが、実際はどうなんですか?
井上:実際、そうかもしれないです。言ってしまうと、社長が早くから電子書籍に経営指針を振り向けるようにと音頭をとっていたということもあり、なかなかやる社長だなと思います。
森上:やっぱりそうですよね。
井上:デジタル部門がしっかりしている印象があります。
森上:そうですよね。大手三社の中で一番速い印象があります。
井上:そうですね。これは自分は編集者なので、違う領域の話になるんですが、いわゆる販売部というものが、デジタルの領域で最も早く機能していた会社ではないかと思います。
森上:なるほど。デジタルの販売部というのは、具体的にはどういったお仕事になるんでしょうか?
井上:電子取次ぎというのがあるわけですけれども、そこに向けてどのようなかたちで共通の規格でデータを降ろすのかというのが、ほんの10年前まで固まっていなかったんですよね。それを丁寧にやろうと。形式を統一して、どこの電子書店でも売りやすいかたちにシステム整えて、そこに向けてみんな同じ掛け率で出せるようにしてということで、著者に戻す著作権料もちゃんと固めていけるようになったということで、そのリーダーシップを取ってやったのはうちのデジタル販売部で、えらいなあと思います。
森上:いわゆる業界のルールの骨組みをちゃんと、講談社の販売部さんで。これはすごい。すばらしいですね。
井上:電子の取次を通じて、さまざまな電子書籍を、それこそ「kindle」から「ピッコマ」から、「コミックDAYS」から、あらゆる電子書店で売りやすくすると。そういう具合にしたということだと思います。
森上:いや、素晴らしい。規格とルールを決めたというのは素晴らしいですね。
井上:たぶん、私の知らないところでちょっとだけ講談社が有利な条件とか、いろいろとやっているんでしょうから、まあ……。
森上:なるほど(笑)。そういうことなんですね。ところで、アマゾンさんでも漫画の世界に限らず、単行本で読み放題サービスとかって一時期あって、業界内でもいろいろと。
井上:ありましたね。
森上:Unlimitedの話を含めて、それこそ講談社さんをはじめ、コンテンツを出すとか、出さないとかで。アマゾンさんに対する考え方っていうのは、講談社さんのほうでは……、差支えない範囲でいいんですけど、どういうふうにお考えで? ライバルと考えているのかっていうところなんですけど。
井上:でも基本的に電子書籍に関して言うならば、かなり仲良くしている感じに、今は変わりました。一時期、Unlimitedがはじまった時は、講談社は一気に引き上げるっていう。
森上:ありましたよね、ニュースになっていました。
井上:でも、あれって単に引き上げたんじゃないんですよ。アマゾンが約束していた取り分を払わない。
森上:そっかそっか。事実はね。
井上:まあ、でもあれは講談社も悪いんです。ページ数ごとに読まれた分だけ払われるっていうことだから、「これ、ものすごい勢いで読まれる、写真集とかどんどん送れば、いけるんじゃね?」っていうことで。
森上:そっかそっか。
井上:大量に送ろうとしたっていう。お互い様ではあるんですよね。
森上:なるほど。そうだったんですね。うちみたいな中小だと、大手さんがどういう動きをして、どうしているのかっていう、動向を見守るしかないんですよね。だから、結構衝撃でしたね。講談社さんとアマゾンさんでそういうことがあったのは。
井上:で、講談社はそういう中で、デジタル販売部が、無料サンプルを出す時は、この範囲までであるとか、そういったルールをつくっていくかたちで、kindleさん含め、各電子書店とも、そういうかたちで付き合うようにしたという。例えば、「第4巻まで出ている漫画は、1巻無料のキャンペーンをやっていいですよ」という具合に各電子書店さんに共通で提供するということにしています。
森上:なるほど。じゃあ、アマゾンさんに限らず、「ピッコマ」さんとかでも、1巻だけ無料とか。
井上:「ブックライブ」でも、「4巻まで出ている漫画はキャンペーンの時に1巻だけ無料にすることはやってもいいですよ」としています。じゃあ、「全巻無料とかやりたい時はどうすればいいの?」って、「その時は別にご相談ください」ということで、「いくらの金銭のやり取りが発生しますか?」という交渉をする。ベースは個別の交渉の回をそれぞれを開くかたちでデジタル販売部が各電子書店さんと付き合えるような。ルールが整備されてきたという状況です。
森上:なるほど。その辺のルールに則って、我々の単行本も対応させていただいていると思うんですよね。
井上:公平に競争ができるような環境ができて、あの頃とは違って、皆さんにご迷惑をかけないように、いろいろと卸売できているんじゃないかと思います。
森上:ありがとうございます。やっぱり講談社さん、大手さん含めて、その辺りのルール決めが、我々にも相当影響するので、本当にありがとうございます。渡部さん、どうですか?電子書籍の世界とか、漫画だけど。サブスクの話とか聞いていて。
渡部:そうですね。あんまり漫画は読まないんですけど、「進撃の巨人」だけは、電子書籍で全部買いました。
井上:すげー! ありがとうございます。
渡部:講談社さんみたいな大きな会社とうちだとまた話が違うのかもしれないですけど、うちで言うと森上さんだと、やっぱり紙の本が売れて欲しいなみたいな気持ちってまだ強いんじゃないかなと思うんですけど、講談社さんとかだともうその辺も差はなく、媒体違いでどっちもどっちみたいな感じなんですか?
井上:そうですね。どっちもどっちって言うよりは、デジタルで売れていくことで、紙も売れるなというぐらいの感じがあります。デジタルにみんな切り替わって、紙が売れなくなったというのは実はそうでもないんじゃないかという考え方に立って動いているところですね。
渡部:なるほど。
森上:なるほどね。いわゆる、いい意味でデジタルでの市場と紙のパイっていうのが、住み分けも出来ているし、っていうところもありますよね。
井上:そうですね。逆にデジタルを通じて知って、紙を買うっていう方が多いところもあります。我々で「○○という作品を全話無料」みたいなかたちで大宣伝すると、その結果、デジタルのコンテンツも売れたりするんですが、紙の本が「おかげで重版したよ」ということがよくあります。
森上:なるほどね。その辺りのいい意味での紙のやり方っていうのを知っているって感じですよね。
井上:「コミックDAYSの1週間無料キャンペーンの時に、全話タダで読んだけど、ファンになったので、紙の本も欲しくなって買いました」っていう、そういうことが起きるわけですね。
森上:なるほどね。うちでも1つのアイテム、単行本のビジネス書があった時に、単行本で紙の本だと、そこまで数字が上がってないんですけど、kindleでのダウンロード数が妙にすごく上がっていたりとかするので、その本の特性とか、その読者さんの特性とかによって、いろいろと住み分けられるものになってきているなとすごく思っていて。届けられるのが紙であるか、電子であるかの違いだけっていうのは、本当に改めてここ数年、実感しているところですね。
井上:そうなんですよ。だから我々デジタルのコンテンツを扱っている人間も、「紙はもうオワコンだ! あいつらを滅ぼして、俺らが行くんだぜ」っていう世界観ではやってないっていうことですね。
森上:なるほどね。
井上:「それぞれの読者がいるんだから、ちゃんとそれぞれの読者を増やせるように動こうぜ」という感じでやっていると思います。
森上:そこは本当に私も賛成ですね。だから、その辺りがぶつかるものじゃないと言うか。そこは本当にそうですね。だから、紙の本ではめちゃくちゃ売れたけど、意外と電子書籍では、ダウンロード数がそんなに上がっていないもの、逆パターンもあったりとかも。
井上:それもありますね。「全然こっちだと読まれないけど、紙ではまた重版してるよ」っていうアイテムもよくあります。
森上:やっぱりそれもありますか。そういうものなんですね。そういう意味では、出版として考えた場合は、入稿するまでは、編集者としては変わらないわけじゃないですか。出先が電子になるか、紙になるかのどっちかであって、その手前の部分っていうのは、やっぱり編集者としては能力、スキル、センスは求められるっていう考え方ということですかね。
井上:ですね。漫画に関してもそうだし、文字ものに関しても同じですね。結局、積み重ねたノウハウっていうのは、とても有効な世界になっているなと思いますね。
森上:なるほどね。
井上:一見簡単に電子は参入できるように見えるだけに、より長年紙でやっていた人間の方が有利な感じがあると思います。
森上:なるほどね。届ける先が増えたっていうふうな考え方、書店さんが増えたと言うか。
井上:そういう感じだと思います。
森上:そうですよね。そういう意味では、我々まだまだ講談社さんに比べたら、蟻んこ、ミジンコレベルなんですけど、渡部君、我々もデジタルに関してはいろいろとやっていく価値はあるね。
渡部:そうですね。
井上:この放送も実際そういう試みですもんね。新たな顧客に……。
森上:ちょっとした試みなんですけど。いい意味で知っていただくっていう、業界を盛り上げていくっていうことをやりたいなと。今日は本当にいろいろとありがとうございました。勉強になることばかりご教授いただきまして、ありがとうございました。
井上:いえいえ。
渡部:ありがとうございました。では、今日は主に「コミックDAYS」のご紹介をしていただきましたが、「コミックDAYS」のリンクをこのチャプターにも貼っておきますので、リスナーのみなさま、ぜひチェックしてみてください。
井上:ぜひ、チェックしてみてください。
渡部:では、最後に井上さんからリスナーのみなさまに、一言お願いします。
井上:はい。ということで、タダで読める漫画がとてもいっぱいありますよ、という話でございます。ぜひ「コミックDAYS」で検索、検索という話ですね。フォレスト出版さんも、ぜひ漫画を作られる時は「コミックDAYS」にも出していただいて、いろいろとタダで読めるサンプルを通じて、本を売るという試みをしたいと思います。
森上:ありがとうございます。
渡部:ありがとうございました。それでは、役に立つ面白い情報をたくさんお話しいただきまして、井上さん、ありがとうございました。
井上:恐縮です。
森上:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)