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#283 【脳科学】「イヤな思い出」ほどいつまでも忘れられない理由
このnoteは2021年12月14日配信のVoicyの音源「フォレスト出版チャンネル|知恵の木を植えるラジオ」の内容をもとに作成したものです。
イヤな記憶は一生忘れられないものか?
今井:フォレスト出版チャンネルのパーソナリティを務める今井佐和です。本日は「“イヤな思い出”ほど忘れられない理由」ということで、素敵なスペシャルゲストをお呼びしています。フォレスト出版編集部の寺崎さんです。よろしくお願いいたします。
寺崎:よろしくお願いします。素敵なゲストと言っていただいてありがとうございます。
今井:いつもありがとうございます(笑)。
寺崎:ちなみに、「イヤな思い出」がテーマなんですけど、佐和さんは過去に後悔とか、あの時、あれをしなければよかったとかって、あります?
今井:何でも忘れてしまうので、イヤな思い出も、いい思い出も忘れてしまうんですよね。
寺崎:ほんとに(笑)!?それは幸せなことですね。
今井:思い出そうとしても、思い出せなくて、うーん・・・となってしまいました(笑)。
寺崎:なるほど。僕なんか、お酒の席でつい失言をして、相手をイヤな気持ちにさせて、翌朝「あー、なんであんなこと言っちゃったんだろう・・・」って、結構あるんですよ。
今井:お酒の間違いですか(笑)。
寺崎:そう(笑)。一般的には、例えば信用していた部下の裏切りがいつまでも許せないとか、あと、結婚している女性だったら夫に言われたひと言を思い出すと、今でもハラワタが煮えくり返るとか、あと部下の立場の人だったら、上司からされた理不尽な扱いがいつまでも忘れられないとか、あると思うんですけど。まあ、佐和さんはイヤな思い出はないらしいので、大丈夫だと思うんだけど(笑)。そういうネガティブな想念とか記憶って一生忘れられないものだと思いますか?
今井:うーん。
寺崎:答えはNOなんですよ(笑)。
今井:NOなんですね!
寺崎:でも、実際は結構難しいんですよ。僕なんかでもそうなんですけど、子どもの頃のイヤな思い出とか、今でもずっと覚えているんですけど、ある種の認知科学的な手法で過去の記憶を書き換えるっていうことができるんですよね。
今井:書き換えることができちゃうんですか?
寺崎:そう。ただ、そもそも人間の脳というのは、イヤな記憶ほど絶対に忘れないようにできているらしいんですよ。
イヤな記憶ほど忘れられないようにできている人間の脳
今井:生き残るためにですかね?
寺崎:まさにそう。だから、その事実をまず知るっていうことが大事なんですけど、そういったことをまとめた本が先日発売されました。著者が苫米地英人博士の『「イヤな気持ち」を消す技術 ポケット版』です。
今井:ポケット版!
寺崎:そう。これは前に単行本で出たものでして、以前は2012年の刊行で、ちょうど前年の3.11の後に大震災でPTSD的な症状を、日本の多くの人が抱えているのではなかろうかということで、苫米地博士がクライシスサイコロジー、危機管理心理学っていうのがあるんですけれど、クライシスサイコロジーの専門家向けの講義をやられていたんですよ。それを一般化して、「イヤな気持ちを消す」というかたちで、単行本で出して、これが5万部くらいのロングセラーになったんですけど、今回はコロナ禍、コロナ危機でやっぱり人心が荒廃しているということで、世の中に必要なんじゃないかっていうことで、ボケット版というかたちで、より定価も安く、手ごろな価格で再販したのが今回の本です。
今井:なるほど、なるほど。震災レベルだと、イヤな気持ちと言うか、そのトラウマを消すのは難しいんじゃないかななんて個人的には思っちゃったりするんですけれども。
寺崎:でも、それがまさにクライシスサイコロジーの真骨頂で、認知科学×心理学で記憶を書き換えるっていうことができるんですね。ただ、その前提となる知識っていうのが結構あって、まず先ほど言った「脳は失敗の経験っていうものを忘れられない」理由で、佐和ちゃんが「生き残るため」って答えていたんだけどその通りで、大昔の原始人の時代は、「この草は食べられるのか食べられないのか」っていうのは大事な情報だったので、毒が入っている植物っていうのは絶対に記憶をしないといけない。あるいは、「この動物を攻撃しても大丈夫なのか」とか。つまり失敗の記憶っていうのは、人類が生き残っていく上で大切なことだった。だから、現代人になっても、そういう過去の記憶にクヨクヨ悩んでしまうんですよ。
今井:そうすると、古い脳と言うか、原始的な脳にそういう危機管理能力みたいなものが備わっているって感じなんですね?
寺崎:そうなんです。さすが、鋭いですね。まさに、そういう時に、どこの脳が動くかって言うと、海馬と偏桃体っていうところなんですよ。
今井:古い本能に根ざしたところですね。
寺崎:そうなんですよね。海馬と偏桃体っていうのは、いわゆる古い脳で、側頭葉とか前頭前野っていうのが人間の新しく生まれたところなんですけど、その古い脳と言われる、大脳辺縁系にあるのが海馬と偏桃体なんですけど、ここは短期記憶の貯蔵庫らしいんですよ。短期記憶を記憶するんだけど、例えば「毒が入った草はこれだ」っていうことが分かったら、これを偏桃体が海馬に働きかけて、側頭葉に記憶するらしいんですよ、認識のパターンとして。だから、前頭前野っていう賢い脳の方が記憶をガッとつくるから、「この草は危ない。食べたら死ぬ」とか、そういうイヤな記憶っていうのを、ずっと高度な脳に残しておく。そういうメカニズムらしいんですよ。
今井:そんなふうになっていたんですね。
毎日目にしているものなのに記憶できない謎
寺崎:それで、さっき海馬っていう脳の部位が出てきたと思うんですけど、ここは結構面白い働きをしていて、例えば、佐和さんって普段、腕時計はしています?
今井:しています!
寺崎:じゃあ、「その腕時計を実際に見ないで絵に書いてください」って言ったら、正確に描けますか?
今井:いやー、ふんわりとしか描けない気がします。
寺崎:描けないでしょ?
今井:はい。
寺崎:これ、コーチングの元祖、ルータイスっていう方がよく実験で講演会でやるらしいんですけど、ほとんどの人が書けないらしいんですよ。例えば、文字盤がローマ数字なのに、アラビア数字で描いちゃったりとか、時計の針がすごく凝っているデザインなのに、全然正確に再現出来ていないとかね。でも、時計って毎日目にするじゃないですか?
今井:毎日見るし、なんなら一時間に一回ぐらいチラチラって見ています。
寺崎:そうだよね。でも、覚えてないんですよ。
今井:覚えてないです。不思議。
寺崎:これは海馬がさっき言った、側頭葉にその情報を投げ込んでいないんですよ。
今井:投げ込まれていないんですね!
寺崎:そうなんですよ。既に知っていると判断して、海馬はすでに知っているからって、その情報をブロックしちゃうんですって。
今井:「いらないよ。この情報は」みたいな感じなんですね。
寺崎:そうそう。例えば、朝の出勤時に今井さんは、一歩一歩足の裏で捉えた駅までの道の感触を記憶していますか?
今井:していないです。
寺崎:そんなことしていたら、大変だよね、毎日。
今井:パンクしちゃいますね(笑)。
寺崎:ところが、例えば朝、駅に行く途中で水道管が水漏れを起こしていて、危うく足を滑らしそうになったと。そういった時には海馬は、いつもと違った反応を起こすんですよ。
今井:「それは、危ない」ってなりますね。
寺崎:そう。で、帰り道も同じ道を歩くじゃない。「そうだ!ここ気をつけて歩かないと滑るぞ」って思い出すんですよ。
今井:思い出します!
寺崎:これは海馬が「ここは危ないぞ!」って、側頭葉に情報を投げ込んでいるんですよ。
今井:海馬さんが働いてくださっていたんですね。駅前でちょうど滑るところがあって、1、2回そこで滑ったことがあるんですよ。それからは晴れた日でも「あ、ここ滑りやすいところだ」って、いつもサッと頭をよぎります。
脳が「重要情報」と判断するのは失敗体験
寺崎:なるほど、なるほど。それは、今井さんの海馬がガンガン働いているんですよ。海馬が重要だと判断して、投げ込める情報で一番重要なものっていうのは、人間の失敗体験なんです。
今井:失敗体験なんですね!?
寺崎:そう。分かりやすく言うと、赤ん坊が熱いものを触って、ギャーって叫ぶでしょ。そうすると、次から触らなくなったりするし、工夫して触るようになったりするじゃない。これがまさに海馬の働きで、ビジネスマンだったら、営業マンが部下に「この製品の納品は、納品日のお昼までに必ず済ませておけよ」なんて言ったりするとします。これっていうのはギリギリに納品したせいで、取引先にこっぴどく叱られた記憶が会社組織の中に埋め込まれているからなんですよ。取引先に怒られたという情報は会社組織にとっては、まさに生命の危機だから、取引先を失ったら利益を失うし、それが重なったら倒産に終わるかもしれない。だから、ビジネスマンのそういう失敗と、赤ん坊が熱いものを触ってギャッとなるのと、海馬にとって同じことなんですよ。
今井:なるほど。同じように生命の危機と判断しているわけですね。
寺崎:そうです。だから、失敗の記憶を持つが故に、人間は生命の危機を避けることができ、そして海馬は長い間、我々の種の保存に必要な仕事を、ただただ忠実に愚直に実行してきた器官であるということなんです。
今井:面白い器官ですね。
寺崎:我々と切っても切り離せない失敗っていうのは、脳にいかに重要かっていうことだったんですけども、物理的な痛みだけじゃなくて、情報的な痛みも海馬は側頭葉に投げ込んでいるんだって。
今井:情報的な痛み?
寺崎:そう。例えば、株式投資に失敗したっていう場合、こういう時は、「もう金輪際株には手を出さない」みたいな。
今井:よくそういう方、聞きますね。
寺崎:この情報的な痛みっていうのは、認知科学的に言うと、期待すること、予期に対する失敗なんだって。で、現代の我々が取る選択と行動は、ほぼ全てが予測に基づいているんだけど、その予測が裏切られて反対のことが起きると、我々はその出来事を強く記憶するんですって。だから、株に失敗したら、「今度から絶対株なんかやるもんじゃない!」みたいな。結局そういう側頭葉に投げ込む情報が、人間の辛い記憶とか悲しい記憶っていうものをつくって、それに囚われてしまうというカラクリなんですよ。
今井:なるほど、なるほど。予測が裏切られてしまうからっていうことなんですね。
私たちの記憶は過去の失敗の集まり
寺崎:そうなんですよ。そこで、ポイントあるらしくて、1つは人間が持つ信念の問題っていうのがあるんですよ。
今井:信念の問題。
寺崎:例えば、人間を差別しちゃいけないとか、核兵器のない世界を実現すべきだって、これって信念ですよね?
今井:そうですね。
寺崎:でも、例えば、お金さえ儲かればいいっていうのも信念だったりするし、他人を信用できないとか、人それぞれ信念があると。で、これをブリーフシステムと呼ぶそうなんですけど、いわゆる認識のパターンですね。人はそのブリーフシステムによって、さっき言った未来を予測したりしている、選択と行動を取っているので、この認識のパターンが自分のブリーフシステムとずれた場合に海馬はまたそれを失敗の情報として投げ込む。
今井:なるほど。そうすると、自分のブリーフシステムを書き換えるとっていうことなんですかね?
寺崎:それも1つあります。結局、私たちの記憶っていうのは、最終的には、過去の失敗の集まりなんですよ。結局、記憶って悪い記憶ばっかり残すから、側頭葉に。
今井:(笑)。
寺崎:だから、成功している記憶ってなかなか脳は残さないんですって。それは、生存にあんまり関係がないから。
今井:なるほど、なるほど。失敗しないようにっていう、生き残るための情報が残るようになっているわけですね。
寺崎:そうなんです。例えば、子供の頃、両親からすごく愛された記憶があるとか、そういうのは、脳にとっては意味のない情報だから。
今井:意味がない?
寺崎:意味がない(笑)。そういう成功体験を覚えたと言っても、次に起こるかもしれない生命の危機を避けるのには役に立たないから、覚えないんですって。
今井:確かに、生命の危機を避けるのには、役に立たない情報ですね。
寺崎:そうなんですよ。残念ながらそういうことになっているんですよ、もう人間の脳は。じゃあ、どうすればいいのかっていうことがこの『「イヤな気持ち」を消す技術 ポケット版』の中には、かなり実践的に書かれています。
今井:実践できるんですか?
寺崎:実践できます。これは、タイトルに“技術”ってある通り、実践の本なんですよ。もちろん前半は今お話したような、前提知識となるお話がかなり理論編としてあるんですけど、後半はどうすればイヤな気持ちを書き替えていけるかっていう、記憶をどうすれば書き替えれるかっていうことの実践が書かれています。ちょっと今日は、時間もないので、そこまではご紹介できないんですけども、まずは人間が過去のネガティブな情報ばっかりを記憶に蓄積してしまうという特性があるということをご紹介した次第です。
今井:ありがとうございます。失敗の記憶が頭に残って一歩踏み出せないという方にお勧めの本だと思いますので、是非、お手にとっていただけたらと思います。本日はフォレスト出版編集部の寺崎さんにお越しいただきました。どうもありがとうございました。
寺崎:ありがとうございました。
(書き起こし:フォレスト出版本部・冨田弘子)