はんのう森林みらい塾 Session2 実施レポート
2023年11月18日(土)〜19日(日)の2日間、「はんのう森林みらい塾」のSession2 「森を愛でる weekend」が開催されました。
2023年度、秋から冬にかけての3週末、計6日間にわたって開催される塾の2回目となるSession。今回は森林資源の活用に目を向けたプログラムとなります。
本稿では、当日の模様をダイジェストでレポートします。
森の中の演奏会
始まりは東吾野地区にある森の演奏会場から。
急な山道を塾生と登りながら、この会場を作った経緯などをご紹介いただいたのは西川バウム合同会社代表役員 浅見有二さん。
会場のイスやベンチは間伐材を利用して作られました。作られる際には林地残材のことや間伐材の有効活用の重要性を知ってもらいたいと、ワークショップを開催し、参加者と一緒に作られたそうです。
実際にイスを会場に設置してみると、劇場型の地形から、上に行くほど響きがよく自然の音響効果に驚かれたそうです。
説明を受けながら登り、森の演奏会場に到着すると、ヴァイオリンとピアノの素敵な演奏がはじまりました。その音色と森の会場の響きに足を止め聴き入ります。
演奏いただいたのは飯能市で演奏活動をされているヴァイオリニストの桑原香矢さん、ピアニストの中ノ森めぐみさんのお二人。
演奏の途中にはコーヒーブレイクもあり、コーヒーを片手に演奏を楽しみます。コーヒーはSession1に引き続き、名栗地区から「森見ル焙煎所」の百瀬さんに出張いただきました。
東吾野にある雑貨&カフェkinocaさんへ移動
カフェとして運営するスペース内に、西川材のアンテナショップとして西川材を使った商品も展示・販売されています。自社で企画開発された商品もあり、アンテナショップスペースで商品を一点ずつ見て回りました。
オーナーの萩原信一さんは、西川材とデザイン力を掛け合わせ“ 確かな西川材の良さ ” を伝えるプロジェクト「Ki&」を立ち上げ、きまま工房・木楽里さん、昭和女子大学環境デザイン学科プロダクトデザインコース中田 士郎准教授・ゼミ生とともに"木のある暮らし"を雑貨や家具を通じて提案しています。
カフェスペースで昼食をいただきながら事業立ち上げの経緯をオーナーの萩原さんから伺いました。
実はお蕎麦屋さんになりたかった?
もともとは蕎麦屋さんで修行をされて、別の土地で蕎麦屋さんのお店を出そうとしたが、上手くいい物件が見つからず、バイトできた飯能で林業と出会ったのがこの地に住むきっかけとなったそうです。東吾野地域で林業を行っていた萩原木材の先代から、事業を引き継ぐ形でフォレスト萩原をスタート。この地で西川材の良さを活かす林業を目指し、いい木を育てるような山の整備に力を入れてこられました。
生活の一部に”木”を取り入れてもらいたい
飯能で西川材を使った建物や商品を見てもらえる場所を作ろうと、現在の雑貨&カフェkinocaを奥様の栄理さんと共にご夫婦で始められました。工芸品ではなく、生活に馴染むような素敵な商品をという思いから、大学生と一緒に商品企画を行い、オリジナル商品を多数立ち上げられてきました。地域の業者や県外の業者と一緒になって商品開発やOEM制作なども行い、より多くの方に西川材の良さを知ってもらおうと活動されています。
最後に「林業は補助金に頼らざる負えない現状もあるけれど、今後は林業を生業として成り立たせられるよう、補助金に頼らない林業を目指していきたい」というお話をしていただきました。
原木市場へ
東吾野駅のすぐ横にある原木丸太の市場に立ち寄りました。
この日は吾野原木センター記念市『埼玉県優良木材展示即売会』ということもあり、優良原木が集まっていました。説明を受けながら、並ぶ原木を見せていただきました。
木工房 木楽里(きらり)へ移動
檜のジャムナイフを作りながら、東吾野地域で代々林業を営む林業家11代目の井上峻太郎さんよりこの地域での林業のお話を伺いました。
一本の木を育てる背景には様々な困難がある
いい木と言われるのは真っすぐで、ゆがみがない真円であること。しかしいい木を育てるには何十年という時間をかけ様々な困難―気象害や獣害などを乗り越えなくてはいけません。
代々林業を受け継いできたからこそ聞ける、この地域でのお話も紹介いただきながら木を育てることの厳しさについてお話しいただきました。
現在の需要とのギャップ
いい木を大事に育ててきても、現代では意匠性などから木の需要がなくなってきている現状があります。他にも木材の価格低下により搬出費用をカバーするだけになっている林業の現状も加味しつつ、それ以前何百年と前から色んな困難を乗り越えて守られてきた木をあきらめるわけにはいかないと新たな挑戦で活路を見出すべく活動されています。
合同会社西川Rafters
井上さんが取り組む活動の一つとして設立されたのが合同会社西川Raftersです。代表の若林知伸さんと茂木魁都さんの3人で地域の山をどうしていくのかを考えるために立ち上げられました。代表の若林さんから事業の紹介と課題についてお話しいただきました。
飯能は3ヘクタール以下の山主が多数を占めます。その為所有者の関心や山に対する意欲が低い現状が、切り捨て間伐などにつながっているといいます。間伐材といってもきちんと使える木であるのに、山林に放置されるのはもったいないー
森の、木の、もったいないを無くす
木材の価値を見直し、収益を上げ森林を活性化することを目指し、現在合同会社西川Raftersとして様々な活動に取り組まれています。山主に対する山のお悩み相談会の開催や、都市部の方に向けてのイベントや木材を扱う関連業者への研修など多角的に活動をしています。「大事なことはきちんと伝えて知ってもらうこと」と工程や適正な価値で提供したいことを理解してもらえるように努めるとお話されていました。
社名の“Rafters”とは筏師の意味。西川材を筏で江戸に運んだことに由来し、森と都市をつなぐ役割を担いたいという思いからつけられたそうです。
コサカクラフト
続いて飯能駅の近くで木製家具を製造販売するコサカクラフトさんの工房にお邪魔しました。代表の小坂基さんは7年前にこの場所に工場を借り受けて、オーダー家具を製作販売されています。
元々は西川材ではない広葉樹を使用し、家具を製作されていましたが、飯能市の西川材をもっと活用できないかと西川材での商品づくりにも取り組まれています。
杉の木は柔らかくて軽いので子供向けによい
西川材の一つ、杉は軽くて柔らかいのが特徴。この特徴を活かして子供向けの家具も製作されています。柔らかいので加工がしやすく、軽いので小さな子供でも椅子を自分で動かすことができます。木材の加工などは地元西川材をよく知る林業家や加工業者さんにアドバイスなどをもらいながら、より使いやすく良いものを追及されているそうです。
(コサカクラフトの取材レポートはこちら↓)
名栗カヌー工房
二日目は朝から快晴に恵まれ、気持ちの良いスタートとなりました。
名栗湖の湖畔に工房を構える名栗カヌー工房へ。代表の山田直行さんに名栗工房を建てた経緯からご説明いただきました。
山田さんは北海道出身で、上京し彫刻家として活動されていました。名栗に移住する以前は子供向けテレビ番組の美術演出なども手掛けつつ、彫刻教室を運営。
40年ほど前に子供向けに何か面白い工作ができないかと考え、高校時代に出身地で楽しんでいたカヌーを作ろうと見よう見まねで作られたことが現在の工房立ち上げへのきっかけとなったそうです。
名栗に移住後、名栗地域の活性化に向けて、カヌー工房を村民と共に立ち上げ、現在に至ります。名栗カヌー工房は、村営運営から変わり、現在はNPO法人として、飯能市特産の西川材の有効活用によるカヌー製作教室及びカヌー漕艇教室、木工教室等の開催や、美しい名栗湖の環境保全を行っています。
工房を見学後にはカヌーに乗って名栗湖を一周しました。
木の駅・ものづくり合同会社
同じ名栗地域にある木の駅・ものづくり合同会社に移動。
こちらは間伐で山に放置している林地残材や、木材製造で発生する製材端材をエネルギー資源として活用することを目指し、燃料として燃やすには勿体ない「木」を活かしたい人の活動の場所づくりとして作られました。代表社員の鴇田節男さんより事業の説明を受けます。
化石燃料の利用を抑え、地域内のエネルギーを活用する"地域循環型社会へ"
木の駅では、主に林地残材や端材を受入れ、地域内のエネルギー活用として薪やチップ、ペレットに変える作業を請け負っています。木質バイオマス普及にも尽力されていて、飯能市では自由の森学園で薪ボイラーが導入され、その燃料供給を行っています。カーボンニュートラルの観点からも持続可能な森林づくりが大切であるとお話しいただきました。
薪割り体験の後は昼食です。鴇田さんが前日から仕込んだ牛すじとイノシシ肉のカレーと釜炊きのごはんをいただきました。鴇田さんは料理をする上でも、極力捨てるところを少なくして工夫を凝らしていました。庭になる柿や桜の葉はお茶に、焼き芋には月桂樹の葉を一緒に包んで焼くことで香りを高めるなど工夫が詰まっていました。
名栗地区行政センター
木の駅から車で5分ほどの場所にある名栗地区行政センターに移動し、歴史的観点から考える西川林業について学びます。飯能市森林づくり推進課林政アドバイザーである伊藤智明さんより西川林業地区の歴史を振り返り、西川林業の特徴やどのように繫栄し現在に至るかを紹介いただきました。
全盛期には人力と自然の力で現在の三倍の量を江戸まで運んでいた
西川材の特徴は、丁寧に枝打ちや間伐を行うため優良材でかつ強い強度があること。その為建築材だけでなく、足場材としても使われていました。さらに林内で数本樹齢の長い木を残す立て木を行うため、神社仏閣にも収めていた点が特徴です。筏を使って江戸(木場)まで運搬し、最盛期には人力と自然の力で3万立米(現在1万、現在の三倍の量)を収めていたそうです。
その後は外材などの影響により減少傾向になり現在に至ります。西川材の新たな需要を創出すべく、従来とは違う木材の使用を提唱しつつ需要を生み出す取り組みを飯能市としても行っています。
学校法人自由の森学園で薪ボイラーを見学
自由の森学園は地域と地球の持続可能性を追求するため、様々な取り組みを行っている学園です。森林みらい塾の塾長で、学園の理事長でもある鬼沢真之さんより学園の取り組みをご紹介いただき、薪ボイラーを見学しました。
生徒に対し「できること」を証明したい
「生徒に2050年脱炭素化は無理と思ってほしくない。大人がこれからの将来を担う子供である生徒に対し、できないことを認めるのでなくできると示してあげたい。その為にまずは学園内のエネルギーの見直しと切り替えを一つずつ取り組みました。」そう説明する鬼沢さんの言葉に、本気で取り組むという強い意志を感じました。学園では重油ボイラーに代えて薪ボイラーを導入し、バイオマス燃料による炭素の循環を可能にしました。他にも使用済みの油を回収し公用車の燃料に使用、再生可能エネルギーによる電力供給会社と契約するなどの取り組みを経て、学園内で使用するエネルギーを転換し、CO2削減90%を達成しています。
最後に寮で使われている薪ボイラーを見学。
薪ボイラーは人が薪を入れる(ローテク)と温度管理は機械で制御される(ハイテク)が掛け合わされた仕組みです。実際に塾生が薪入れを体験し、2日目終了となりました。
Session2を振り返って
最後に受講生の受講後アンケートの回答から、感想をいくつかご紹介します。
次回のSession3は最終回!
「森からはじまるweekend」としてリアルな林業を体験しながら、100年先の未来に想いを馳せる。森からはじまる「いま」を考えます。
講座の模様は随時レポートして参りますので、どうぞお楽しみに!
(レポート担当:渡辺 佳枝)
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