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家のはなし② 福祉住環境のこと

 人が住まいに求める要素は様々だ。しかし、私は今後何十年と、高齢になっても長く同じ家に住むつもりで家を選んだ。
家の必須要件の一つが、「高齢になって、もし障害を持っても住みやすい(可能性が高い)家」だ。
この思いを強く持つようになった経緯がある。(他で書いた記事の内容に重複する部分があるのはご容赦いただきたい。)

住宅と福祉

 私は、仕事では前職で介護保険部署で「介護保険による住宅改修」担当者として年間200件以上もの申請を審査した(翌年、ついでに福祉住環境コーディネーター2級を取得した。これは介護保険住宅改修に必要な「理由書」がケアマネジャーでなくても書いて受理されるようになる資格だ。)。プライベートでは、上述の仕事と同時期に車椅子で半身麻痺となっていた父親の在宅介護を経験した。
 実感したのは、古い住宅に住む高齢者が、住宅の中の障壁のせいで日常生活に大きな支障が出ていること、それらを取り除くことで日常生活で自立できる可能性が高くなる場合も多いことだ。

 介護保険の住宅改修は、要介護・要支援認定が下りていれば多くの人が1割負担で、定められた条件で20万円までの工事ができる(つまり負担は2万円で済む)太っ腹な制度だが、要介護認定が下りていないと使えないし、家の根本的な工事は20万円で済むはずがなく、直せない。住宅改修工事に頼るのではなく、最初が肝心である。

 高齢者の住む家で、一番悪さをするのは、室内の段差である。トイレの段差、風呂の段差、部屋と部屋の間の段差、アプローチや玄関の段差、そして階段。
車椅子になったら通ることが難しくなるばかりではなく、歩行がなんとかできても躓きの原因になる。転倒のリスクとなる。
 上り框を上がってからであれば、フロア内は全て取り除きフラットにすることが望ましく、上り框やアプローチ、勝手口でどうしても段差が発生するのであれば手摺を付けることが望ましい。
 階段は最低でも掴みやすい手摺を付ける必要があり、またバランスを崩しやすい回り階段など変わった形の階段はよろしくない。2階部分があるなら、将来足が悪くなった人がワンフロアで生活の全てが成り立つよう、1階にリビング・ベッドを置けるスペース・キッチン・トイレ・風呂が収まっているのが望ましい。
 さらに、室内の扉で最も良いのは引戸である。車椅子や足が弱った人が、一歩後ろに下がらずに扉を開け閉めできることは、健康な人が想像する以上に絶大に効果的なバリアフリーだ。もちろん健康な人にとっても快適である。
 風呂の扉は引戸がベストだが、スペース的に難しい場合は、折戸で浴室内に扉を開けるときに体を支える手摺があることが望ましい。
 また、廊下の幅は広めが良い。車椅子が通れない幅やギリギリの幅では、車椅子で住むことができなくなってしまう。玄関が広ければ車椅子の方向転換や、外用車椅子・室内用車椅子の乗り降りがしやすくなる。
 他にも風呂の跨ぎを低くすること、洋式便所にすることも非常に大事だが現代ではほぼ全ての新しめの家で実現できているので割愛する。

住居の段差と開き戸の弊害

 私の実家は、築約30年のマンションだが、洗面所(とそれに続く風呂)・トイレに無意味な段差があるせいで、父の介助に非常に大きな労力がかかった。父は足が弱っているにも関わらず、なるべく最後まで自力で歩きたがったため、階段の上り下りの際に転倒しないよう支える必要があったし、それができなくなって車椅子でも段差のせいで近くまで寄れず、結局支えが必要で介助者は毎回苦労をした。実際、バランスを崩して転倒をしたこともあった。
 介護保険の住宅改修の工事ではこの段差は解消できず、手摺をつけた。それにより父は当初毎回なんとか段差を上がり下がりすることができるようになったが、転倒リスクもあるのだから、そもそもそんな苦労いらないだろう。
 またトイレの開戸も、その度に転倒しないように身体を支え、車椅子は後ろに引かなければならなかったので、非常に邪魔だった。(あまりにも大変だったので、途中からトイレの扉は外した。その間、家族みんなが扉のないトイレで用を足した。)
 さらに、父の寝室は従来リビングに隣接した和室だったが、和室の縁の若干の段差のために、和室が使われることはなくなり、父が要介護になってからはリビングの中心に介護ベッドを置かざるを得なくなっていた。そしてリビングに食卓はなくなった。

 このように足の不自由になった父の在宅介護をしながら、日々仕事で住宅改修の書類を審査し、自分の家は絶対に玄関を上がったらに段差はなくそう、そして全部引戸にしよう、と誓うに至った。

福祉住環境視点でみた、買った家の評価

では、買った家はどうだったか。
■1階リビング・キッチン・風呂・トイレ◎
  →満たす。さらに和室にベッドも置けるスペースがある。

■段差
・フロア内の移動◎
 →1階フロア内、2階フロア内は全てフラットで段差はない。

洗面所ー廊下(玄関)ー和室ーリビングの段差なし


・アプローチ△
 →段差あり、ただし必要な場合は将来スロープ工事が検討できる。
・玄関上り框◎
 →段差はあるが、玄関は広く車椅子を置くことや方向転換も可能、段差横に手摺も設置済み。

上り框のタテ手すり。段差の上り降りを想定



・階段〇
 →2階建のため階段はあるが、握りやすい丸型手摺設置済み。直線階段で転倒リスクも低い。

階段手すり。握りやす丸型を選ぶのが大切。



■扉◎
 →玄関は開戸、風呂は折戸、それ以外はほとんど引戸だが、2階のトイレと洋室のみ開戸


■廊下幅、玄関◎
 →メートルモジュール、十分な幅あり
  玄関も広く、車椅子になっても乗り降り・方向転換がしやすそう。

■手摺◎
 →上述のとおり玄関上り框、階段、さらに風呂には入口、浴槽奥、シャワー横に手摺あり。扉の開閉、浴槽跨ぎ両方に使える。

シャワーホルダー兼、跨ぎの手すり
出入口の扉開閉用・跨ぎ用タテ手すりと浴槽奥の跨ぎ用のヨコ手すり



2階トイレもあり。
 アプローチ、勝手口、1階トイレは今後必要であれば設置を検討できる。

現状では完璧ではないが、段差が困難になった場合や手すりが必要になった場合は、簡単な工事をすれば、高齢で足が悪くなってもかなり安心して暮らせる、あるいはなんとかなる、住まいであると言えると思う。 

こういう家が良かったのだ。

 障害の程度や状況によってはもちろんこれで全て解決できるわけではない。しかし、初期段階ですでにかなりリスクが回避されたはずだ。

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