森と人のつながり(8) ~林業女子会活動と仕事での森の活用
はじめましての記事で書いたように、いろいろな人に森とのつながりのお話を聴いています。
八人目は、林業女子会@東京のまとめ役をしてくださっている Y さんです。Y さんは趣味として森活動をしているのと同時に、お仕事でも森林資源を活用した持続可能な企業活動をされています。
林業サークルとの出会い
私が林業に興味を持つようになったのは、大学時代の林業サークルがきっかけでした。最初は単にそのサークルの新人勧誘でハンバーグが食べられるという理由で参加したんです(笑)。参加するうちにだんだん本格的な林業活動に引き込まれていきました。週末には自転車で山まで行き、実際に木を切ったり、作業をして、お寺で薪でご飯を炊いて食べたり。私は最初はあまり深い意味を持たずに参加していましたが、山主さんから林業の現状について、愚痴もあるけど、思いを持ってやっている話を聞いたりして、林業大変なんだなぁと。
林業女子会
3年生のとき、まじめに参加してたこともあり、そのサークルの代表になりました。先輩の I さんから、林業系のサークルで代表やってる女子が多いから集まろうよってなって、林業女子会(*1)が始まりました。女子は少ないし、仲間を見つけようということで始まったと思うんですが、いまは全国+海外で20個くらいの林業女子会ができてます。I さんの発信力が大きいと思います。政府とかから林業女子を推していこうみたいな話があったりしますが、私としては誰のためでもなく、自分のためと思っています。私は都会の女子にもっと林業のことを知ってほしいとも思っています。
最近の森活動
最近は、2,3か月に1回千葉の山に行って作業しています。「ふれあい千葉」(*2)というコミュニティに林業女子会@東京も参加させてもらって。「ふれあい千葉」は30年くらい活動を継続されており、85歳の方たちも活躍されています。元々パイロットとか、エンジニアとか、経営者とか、主婦とか本当にいろいろな方がいて。クリエイティブで好奇心旺盛で、身体が動く方たち。焚火の資材を溶接してつくったり、味噌を作ったり、なめこを作ったり。年をとったらああいう風になりたいなぁっていう人たちがたくさんいる貴重なサークルだと思います。会社員で例えば60歳定年になると下り坂みたいなイメージじゃなくて、また新しいおもしろい道があるんだっていう感じがとってもいいなぁと思います。。その人たちもインタビューするといいですよ。
仕事面での活動(1) ~山の購入
私が勤める会社では、最近200ヘクタール程の山を購入したんです。それを聞いたときはすごい時代になってきたなと思いました。もともと会社は環境保護や生物多様性に強い関心を持っていたのですが、山を買うことでその取り組みがさらに本格化しました。その山を ①生物多様性の維持、②CO2排出量削減、③環境教育サイトの設置、④森林業の活性化などに生かしていこうとしています。
仕事面での活動(2)~循環型酪農、循環型林業
もう一つ、牧場とも提携し、循環型の牧場や林業を実現するための取り組みを進めています。その牧場では循環型酪農を本気でやっており、飼料を80%弱自給しています。さらに、ということで牛の寝床にしく「おが粉」も自社の森林からつくったり、牧場の人はそういう目線で森を使いたいと考えています。
それに加えて、いま木造建築が流行ってきていますが、その木材を供給する上流が持続可能でないとだめだということで、循環型酪農に加えて、循環型林業にもできたらいいね、それができたら唯一無二のモデルになるんじゃないかって話しています。
企業活動の評価制度 ~B Corp
ちょっと話しはそれちゃうんですけど、海外では B Corp (*3)っていう認証が流行っていて。ESG (Environment, Social, Governance)はリスクヘッジ的な要素が強いと思うんですが、B Corp はさらに進んで、その会社の存在がポジティブです、という印象なんですよね。B Corpを取得しているパタゴニアは、環境と人間が対立するんじゃなく環境の中に人間がはいっていけるという考え方での経営をしていたり。良い会社であるかどうかが企業買収にも影響しており、例えばB Corpでは、サステナブルカンパニーとして有名なユニリーバだったらバイアウトしてもいい、といった事例も出てきています。B Corpのような良い会社の証明は、リクルート的にもいい影響がある。企業がそういう考え方で活動することが、社会貢献という側面だけでなく、企業活動そのものに大きな意味がある、という方向性だと思います。
多様な森を育てる新しい取り組み
最近の林業のトレンドとして、多様な樹種を育てることが重要視されています。単一樹種に依存するのではなく、多様な樹種を育てることで、森林の生態系を守りつつ、経済的な価値も高めることができるんです。ただ、多様な樹種を扱うということは生産性が落ちる。そこをデジタルの力で補うと山の価値も変わっていくと思います。杉、ヒノキ何ヘクタールという時代から、もっと精緻に山の価値を測れるようになっていく。さらに、バードウォッチングや自然観察といった新しい価値が生まれ、これがまた地域の観光資源としても活用されています。そういう流れがワクワクするし、私はそっちの方向に行ったらいいんじゃないかと思います。そうした方向に森を育てていくべく、自分はボランティアとして参加したり、仕事ではベンチャー支援などで貢献していきたいと思っています。
Yさんのお話を聴いて
Yさんは、活動も人脈もとても幅広くて、それぞれに意味のある関わりをしているのがすごいと思っているのですが、お話を聴けば聴くほど、肩ひじ張らずに活動されているのが軽やかでいいなぁと思いました。私から見て、「やるといいことが起こりそうだから」、「やってみたいから」、「楽しいから」やるというフットワークの軽さがすてきだと思いました。
林業女子会も、地域ごとに活動はそれぞれで、その自由さもいいなぁと思っています。林業女子会@東京では千葉の里山の森活動に加え、メンバーそれぞれが都会でイベントに出展したり、参加したり、@東京らしい活動をしています。
また、Yさんのお仕事の話をしっかり聴くのは今回が初めてでしたが、大企業の中で、事業とは別の社会貢献のための活動としてではなく、企業活動そのものとして森林がとらえられるようになってきていることがとても印象的でした。また、それを実現していく上で、大企業とベンチャーが協力して進める動きがあることは、林業にとって大きな意味があると感じました。
補足
(*1)林業女子会ポータルサイト
https://forestrygirls.wixsite.com/portal
(*2)ふれあい千葉
https://www.city.ichihara.chiba.jp/article?rticleId=60237f0dece4651c88c191d7
(*3)B Corp
https://www.bcorporation.net/en-us/