負けてもいい。泥まみれでもいい。信念は曲げるな〜いとこの師匠に会いに行った話
いとこ「オレ今から、師匠に会いに行くけど、源ちゃん来る?」
ん?師匠とは?
「あー、暇だから行くわ。」
というわけで師匠に会いに行くことになった。
1 師匠
同い年のいとこは、ずっと剣道を続けてきた。一個上の兄もしかり。そこで、めちゃくちゃお世話になった高校の剣道の先生に会いに行きたいと言うのだ。
とにかく、この時代の剣道は先生からも先輩からも、めちゃくちゃしごかれてしんどいらしく、特にひどい中学時代の頃は、
兄のいとこが合宿中に抜け出して、ばあちゃんちに逃げ帰り、かき氷を呑気に食ってるところを先輩に見つかり、この世の終わりのような顔をしていたそうだ。
「あー、じゃあどっかの学校に行くの?」
いとこ「いや、師匠は〇〇神社にいる。神主だから。」
ん、、、?神主と先生の両立だと?すげぇ人やん!
オレは、白髪と白髭もじゃもじゃの仙人を想像した。
2 到着
思った以上にでけぇ。
そう、登米市重要文化財に指定されてる神社だったのだ。
そして、白髪の仙人でなく、若そうな顔立ちのスポーツマンだった。
そう言えば、いとこがベビーフェイスとうっすら揶揄していたのを思い出した。50代にしてはめちゃくちゃ若い。
そして、神社の畳の間に案内された。
椅子を用意されたので、さっそく座ると、いとこは椅子の前に正座し始めた。
「オレは、正座で教わってきたのよ。」
なに、この椅子はフェイクだと...?
ただ、特に縁もゆかりもなく、オレはゆとり世代なので気にせず椅子に座った。
師匠の話はとにかく長かった。剣道談義が止まらないのだ。いとこは楽しそうに聞き、思い出話に花を咲かせていた。
とにかく師匠のすごいところは、50代になっても、段位の試験を受けに行っているところだ。確か剣道7段だったかな?とにかくすごいレベルらしい。
「指導者として、資格は大事ですよ。そして、いとこくん。君も今からでも段位を受けなさい。やはり、自分を証明するものがあることは大事です。」
あぁ、オレもテニス頑張ります師匠!
1時間経過。
さすがにオレも飽きてきて、椅子にもたれかかっていた。オレはひたすらコーヒーを飲んだり、いただいたお菓子を食べたり、掛け軸を眺めたり、次のデートどうしようかなとか考えていた。ゆとり世代だからしょうがない。
師匠「埼玉におられるんでしたっけ?」
いや、急に話を振るでない!!完全に油断していたので、2秒返事が遅れてしまった。
そして、また15分くらい経った後、師匠は語り始めた。
「どうしても許せないことがあってね、校長と喧嘩しちゃったんですよ。それで、やっぱり別の学校に飛ばされちゃったんですよね。」
「それで、元いた学校との練習試合が決まって、指導者として、いけないことだと思うんですけど、一年二年育ててきたやつらだから、心の中で、(簡単に負けんなよ...!お前ら頑張れよ...!)ってずっと願ってました。そして、練習試合が終わった後、その子達は来て言ったんですよ。
「先生に、もっと教わりたかったです。」
ってね。オレは「本当に申し訳ない」としか言えなかった。」
師匠は少し涙ぐんでいた気がした。
オレはこの時思った。
師匠...!最高っす!
3 いとこ
帰りの車で、いとことそのことについて話した。
いとこ「師匠かっけええよな。やっぱおかしいと思ったら、上の奴らにはどんどん言わなきゃダメだよな!」
それでこそ俺のいとこだ。
いとこ「今の職場めちゃくちゃやばくてどんどん辞めていったんだよ。オレは今の給料ならやめるって言って、どんどん値段をあげて、あいつらが年収〇〇○円で頼む!ってお願いしたところで、手打ちにしてやったよ。そして、係長にしてもらってからは、若手の給料上げろ!って毎回文句言ってる。上の奴らが、甘い汁すすってんのはおかしいんだよ。
だからオレは上の奴らだろうと、毎年文句を言い続けてやるよ。」
ああ、血筋だなと思った。
そういや俺の母親も、若手時代に、社員全員の前で社長に啖呵を切り、給料を下げられたり、ひどい扱いを受けたそうだ。
しかし母親は、
「あんなやつ私も無視してやったよ。あいつの言うことなんか聞いてやらなかった。そしたらさ、だんだん味方が増えていくんだよ。そして、私のためにありがとうねと感謝もされた。
だから、私は絶対に後悔してない。
そう、母親は不当な待遇を受ける同僚を庇って、社長に啖呵を切ったのだ。
俺の血筋を誇りに思う。オレも、上のクソ共に意見を言うため、そして、クソみたいなブラック業界を変えるために、少しずつキャリアを積み、そこそこの役職につけたことで、めちゃくちゃ文句を言ってきた。
オレも、今まで通り、というか今まで以上に、どんなに不当な状況に置かれたとしても、どんなに逆境でも、おかしいことにはおかしいと言い、綺麗事かもしれないが、自分と弱い立場の人を守れるヒーローになりたいと思う。
「あ、、、!」ふと、窓の外を見ると、うっすらと虹がかかっていた。