【離婚後共同親権】”子の意思”はどのように反映されるべきなのか(1・補)「調査官調査というブラックボックス」
※前記事
前回記事では、子の意思を忠実に汲み取るべき家庭裁判所調査官が、面会交流のごり押しの立役者になっている実態をご紹介しました。
これは何人かの特異事例というわけではなく、実際に頻発していることです。
「原則的実施論は、DVに曝されてきた子どもに、非監護親との面会を強制する危険を多分に含んでいる。実際の調停の場面でも、「面会交流を実施する」という結論だけが一人歩きし、DV事案であるにもかかわらず、調停委員や調査官から、面会交流の実施を強く説得されることも少なくない。」
と指摘するのは、愛知県弁護士会に所属する可児康則弁護士。
いわゆる虚偽DV訴訟で被告に立たされた妻側の代理人を務めた弁護士です。
可児弁護士の論考を参照にしながら、調査官調査の問題点をご説明していきます。
〔出典〕可児康則「面会交流を巡る家裁実務の問題点ー調査官調査の可視化を中心にー」(所収:梶村太市・長谷川京子編著「子ども中心の面会交流―子どものこころの発達臨床・法律実務・研究領域から原則実施を考える」(日本加除出版)P.167~181)
1、家庭裁判所調査官意見に偏重される審判
家庭裁判所の調査官調査は、当事者の方にはお馴染みかもしれません。
家事事件手続法58条
1 家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
2 急迫の事情があるときは、裁判長が、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができる。
3 家庭裁判所調査官は、事実の調査の結果を書面又は口頭で家庭裁判所に報告するものとする。
4 家庭裁判所調査官は、前項の規定による報告に意見を付することができる。
この第4項に基づくものが、問題の家庭裁判所調査官意見です。
「調査官報告に付される意見は、読んで字のごとくあくまで調査官の『意見』に過ぎない。裁判官は、調査官の意見も判断材料の1つとして判断すれば足り、この意見に拘束される必要はない。しかしながら、実務において、裁判官が、調査官の意見と異なる判断をすることは非常にまれであり、ほとんどの事案で、調査官意見に沿った審判をする。最近では、調査官が、面会交流の回数や時間、面会の際の子どもの引渡し方法などの詳細を定めた「面会要領」を添付した報告書を提出し、裁判官がこの「面会要領」をそのままの利用する形で審判を出すことも珍しくない。」(P.174)
「調査官は、家庭裁判所において、事実上の子どもの問題に関する「専門家」として扱われている。調停委員が、当事者に対し、調停に立ち会っている調査官を「子どもの問題の専門家」と紹介することも少なくない。家庭裁判所の手続において、調査官意見は「専門家の意見」としての重みをもっている。また、調査官が子どもと直接会うのに対し、裁判官が子どもと会うことは非常にまれである。
「専門家」である調査官が、実際に子ども会った上で述べた意見について、これを覆すほどの材料を裁判官は持っていない…裁判官といえども、調査官による分析の是非を判断することは不可能である。裁判官の判断が、調査官意見に沿ったものになるのも、ある意味で当然である。」(P.175)
2、歪んだ心理学的知見による意見書作成
しかし、調査官は子どもの意見を歪めて意見書を作成することが横行するのはなぜでしょうか。
「子どもが示した意向は言葉通りには受け取られず、調査官による分析が加えられる。そして、「子どもの拒否は監護親への配慮から出たもの」「子どもが面会を嫌がったのは監護親の非監護親に対する拒否感が原因」「(面会に)積極的ではないが拒否的ではない」などとして、直接の面会を実施すべきとの意見が出されることも少なくない。」(P.175)
この調査官の分析の理論的背景である心理学的知見が、いかに歪んだものであるかは、以下の記事をご参照ください。
3、調査官意見を覆すことが困難な実態
こうしたケースにおいて、調査官の意見のもととなる調査官の分析について、その是非を争うことは非常に難しい、と可児弁護士は指摘します。
(その理由)
・調査官の調査は子どもと1対1で行われ、当事者も代理人弁護士も立ち会いが許されない。
・調査報告書の謄写は認められるが、調査官は全てが記載されていない。
・調査官調査は、子どもの発する様々な情報に基づき、分析して作成されていて、総合判断された意見として作成されている。
可児弁護士によれば、司法面接の専門家により、調査報告書の記載から調査官を詳細に分析した意見書を提出して争った事例があるとのことですが、抗告審において、意見書は机上の理論に依拠したものにすぎず、信用性に限界があり、調査官の分析結果を覆すに足りないと判断した、とのことです。
(P.176~177)
4、調査官意見の可視化を
そこで、可児弁護士は調査官調査を、第三者の検証を可能にするよう、録画などを行うべきと提案されています。
実際に、試行的面会交流においては録画は実施されており、複製された映像を外部の専門家に視聴させ、意見を求めることが可能になっています。
同様の検証の必要性があると訴えているのです。
(P.178)
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