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【ブックレビュー】「離婚後の共同親権とは何か」―虚妄の離婚後共同親権推進論と対峙するための、理論武装の書

梶村太市・長谷川京子・吉田 容子編著「離婚後の共同親権とは何か 子どもの視点から考える」(日本評論社)

1、カスタマーレビューにあふれる怨嗟の声

「事実を無視し、或いは事実から自分の都合の良い部分だけを切り取っての主張は、最早デマゴギーでしかない。」
「共同親権反対との結論ありきで、その理屈付けをしたに過ぎない内容であり、価値のない本である。」
「偏っており、客観性が無いね。」

9件のうち7件が星1つ。
うち1つは、5千字にもなる長文で、長々と怨嗟の言葉を連ねる執拗さ。

これこそが、この本の評価を確固たるものにしています。

2、家庭問題に長年取り組んできた法律家たちの論考集

3人の編著者はいずれも弁護士です。
梶村太市氏は、家庭裁判所判事を長く務めた経験のある弁護士。
長谷川京子氏は、DV問題に長年取り組んできた弁護士。
吉田容子氏も、シンクタンクでジェンダーや子の監護の問題を研究している弁護士です。

実は、前著があり、2018年、面会交流原則実施論や当時立法が取り沙汰されてきた親子断絶防止法の問題点を指摘する、「離婚後の子の監護と面会交流」という論考集をまとめており、本書は続編にあたります。

※前著

本書では、親子断絶防止法の後、急速にクローズアップされた離婚後共同親権に関する問題を、9人の弁護士や学者が、それぞれの立場から問題点を幅広く取り上げ、検証したものです。

網羅的に取り上げられた論文集でありながら、わずか204ページでまとめられており、法律に詳しくない方でも、十分に読みこなせる分量となっています。

以下、各論考のダイジェストをご紹介していきます。

①千田有紀「共同親権は何をもたらすのか?ー映画「ジュリアン」を手がかりにしてー

【略歴】
東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、格差対象は多岐にわたる論考がある。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』など

【内容】
本書の通奏低音をなす論文であり、フランス映画「ジュリアン」を題材に、離婚後の共同親権がどのような事態をもたらすのか、母親と息子が「直面する恐怖」がどのようなものか、離婚後共同親権の問題が全くわからない方でも実感できるよう、リアリティのある描写がなされている。

一般の方には、離婚後共同親権の問題を理解するのに、この論考を読むだけで90%以上ご理解いただけると思う。司法制度の問題についても詳しく解説されており、かつ読みやすい。

②木村草太「離婚後共同親権と憲法ー子どもの権利の観点から」

以下の記事に要約を収録しています。

③斉藤秀樹「「離婚後共同親権」を導入する立法事実はあるか」

【略歴】
一橋大学法学部卒業。神奈川県弁護士会。日弁連 両性の平等に関する委員会 副委員長。弁護士としては、離婚(DV、モラハラ含む)、ストーカー被害、債務整理、医療過誤事件、遺産相続事件などを取り扱う。

【内容】
斉藤は「子ども中心の面会交流」(日本加除出版)でも、裁判所のいわゆる面会交流原則的実施論を厳しく批判しているが、今回も、共同親権推進派の根拠を徹底的に検証・論破している。
推進派はよく、単独親権の問題点として、

・連れ去りが増えているか
・虚偽DVは横行しているか
・面会交流は促進されないか
・養育費の支払いは低調か

といった点を挙げるが、斉藤は、実務的な立場からその主張の虚妄を徹底的に暴いている。

④可児康則「離婚後共同親権は子どもの利益にならない」

【略歴】
愛知県弁護士会。日弁連 両性の平等に関する委員会、男女共同参画推進本部。ハーグ条約に批判的で、「ハーグ慎重の会」賛同人の一人。DV問題を専門的に扱う弁護士であり、先年話題となった、いわゆる虚偽DV訴訟の妻側代理人を務めている。

【内容】
内容的には、DV認定に消極的な裁判所の実態が、子どもに及ぼす影響について大半が割かれている。

DVと子どもは無関係という串田某のような無知蒙昧な共同親権推進論が、いかに現実離れした虚言であるか、DV実務家の視点から明らかにしたものといえる。

⑥長谷川京子「共同身上監護ー父母の公平を目指す監護法は子の福祉を守るか」

【略歴】
京都大学法学部卒業。主に女性の権利に関わる分野で活動し、DVに関する研究やDV防止法の提言等を行なって来た弁護士。著書に「弁護士が説くDV解決マニュアル」(朱鷺書房)、「知っていますか?ドメスティックバイオレンス一問一答」(解放出版社)、「消費者保護の法律相談」(学陽書房)など。

【内容】
離婚後共同親権の内容の1つと目される、「共同身上監護」が子に与える影響を研究した論文。
共同身上監護が、子の健康な発達に必要・有益か、心理学的知見からこれを否定し、現在の共同親権推進論が「子の福祉」より「親の権利」が優先され、父母の形式的平等の下、子の安全リスクが軽視されることを指摘する。
また、共同親権下では、紛争性の高いカップルほど共同監護が命じられ、それが子の健康に与えるリスクに警告を発する。
法律論文でありながら、医学・心理学ともクロスオーバーし、実証的データに基づいた理論構成は、twitter上の「もっともらしい」共同親権推進論の主張を否定するのに、非常に参考になると思われる。
筆者の科学的・合理的精神に溢れた論文である。

⑥小川富之「共同監護(親分担「責任」)を採用している国の経験」

【略歴】
広島大学卒業。近畿大学法学部教授を経て、福岡大学法科大学院教授(執筆当時)、現職は大阪経済法科大学法学部教授。専門は民法。家族法。特にオーストラリア家族法の研究実績で知られる。

【内容】
共同親権推進派から「共同親権は各国が導入している国際常識」という虚言がなされるが、小川が論文名に掲げた通り、嘘である。
各国が導入しているのは「親権」ではなく、両親の共同(あるいは分担)監護責任である。
そして、日本の何倍もの司法予算を組む各国が、なぜ共同監護がうまくいっていないのか、その実態を明らかにした論文である。

なお、今年3月、弁護士・作花知志が代理人となった、離婚後単独親権意見確認訴訟が提起されているが、その訴状で、Shared custody of childrenを「共同監護権」という意図的な誤訳がなされている。
本論文の冒頭であっさり否定される。

小川については、千田有紀による、親子断絶防止法に関する取材記事が、下記の通りネットに公開されている。
共同親権の問題との重なりも大きいので、ご参考にしていただけると思う。

⑦渡辺義弘「「離婚後共同親権」選択法制の是非」

【略歴】
青森県弁護士会。労働事件を長く取り扱ったほか、『青森法政論叢』に2004年から2011年にかけて8 回にわたり執筆した「子の監護・引渡をめぐる紛争の法的解決の今日的課題」をまとめた、「子の監護権紛争解決の法的課題―弁護士実務の視角から間う―」(弘前大学出版会)の著書がある。

面会交流の問題点を網羅した、以下の記事でご紹介した弁護士である。

【内容】
どちらかといえば、調査レポートといった体裁に近い。共同親権推進派の後背でうごめく「父権運動」の影響にも触れているほか、共同親権推進派の多様な思想的背景について分析を試みている。

また、渡辺論文は⑥小川論文と補完関係にもあり、小川が欧米の立法動向を取り上げたのに対し、渡辺論文は、韓国の共同親権制度について分析している。

これらの研究成果を踏まえ、協議離婚、調停、裁判等のそれぞれの手続場面で、離婚後共同親権を導入する危険性を指摘している。

⑧梶村太市「民法と調停・審判等の双方からみた離婚後共同親権立法化の危険」

【略歴】
愛知大学第二法経学部卒業、東京、釧路、横浜などで家裁判事を歴任したベテラン裁判官。退官後は、東京第二弁護士会に所属。桐蔭横浜大学法科大学院、常葉大学法学部などで教鞭を取る。

【内容】
題名の通り、現在の民法上の親権と監護権の概念を整理したうえで、共同親権の危険性を指摘している。
親権と監護権の違いについて、正確に理解をしたうえで問題を把握したい方にはおすすめしたい論文である。

梶村論文の特徴は、現行法で事実上共同親権に類似した法的効果を持つ、親権・監護権の分離・分属の問題を取り上げていることである。

福岡家審平成26年12月4日をケーススタディとして、背景に共同親権肯定論や面談交流原則的実施論の存在を指摘し、その代替策として行われた、親権・監護権の分離・分属は効果があるかどうかを明らかにする。

また、梶村論文の特徴は、おそらく共同親権反対派の方の多くが支持されるであろう、「原則的単独親権(例外共同親権)」ですら、危険すぎるとして反対している点である。

実務的視点からのその批判的論証は徹底しており、「原則くらいなら」とお考えの方にも再考を迫る内容となっている。

⑨吉田容子「監護法の目標と改正検討の要点」

【略歴】
京都弁護士会。一般民事事件、家事事件(離婚事件、相続等)、債務整理・破産申立事件、特に、女性の権利・外国人の権利に関わる事件に取り組んでいるほか、公益財団法人世界人権問題研究センター研究員として、ジェンダー・人身取引・在日外国人・女性の人権・性暴力の研究・発表を行っている。

【内容】
①~⑧の各論考の締めくくりとなっており、監護法の目標は、どのようなものであるべきか、そのポイントをまとめたものである。

特に賛同したいのは、親権を権利ではなく、責任であると再定義を求めているところである。

以前、下記記事でご紹介した通り、現在の標準的民法学説は、親権の権利性を否定し、その義務性を強調する視点に転換が果たされている。

「「親権」は親が独自に持つ権利ではなく、子の健康な発達のニーズを満たす親の責任である。」
という吉田の再定義に、賛同される共同親権反対派の皆さんは多いだろうと想像する。(反対に、この再定義に賛同する共同親権賛成派は極端に少ないのではないだろうか?)

吉田論文は、共同親権反対派の皆さんからは当然の内容であろうが、特に、「子の安全・安心の確保は立証責任の分配では守れない」「分担と共同は異なる」といった主張は、串田某のような、一知半解の共同親権賛成屋への論駁に有効なので、ご一読をおすすめしたい。

3、最後に3,200円というお値段をどう考えるか?

網羅的に取り上げられた論文集でありながら、わずか204ページでまとめられており、冒頭で書いた通り、「理論武装の書」として最適な1冊である。
最近取り上げられる、子どもの権利条約との関係についての検討が欠けているが、特に不足点はない。

あとは、3,200円という価格をどう考えるか。

こう考えるのはいかがだろうか。

例えば、弁護士に30分法律相談したら、一般的には1回あたり約5,000円かかる。それが9人分、的確な法律アドバイスが網羅的に手に入り、何度でも読み返すことができる。

私は十分に安いと思う。

(了)

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【分野】経済・金融、憲法、労働、家族、歴史認識、法哲学など。著名な判例、標準的な学説等に基づき、信頼性の高い記事を執筆します。