外向き長波放射量?難しくないよ!【第59回-専門-問15 気象予報士試験の解説】
第59回気象予報士試験の専門知識を解説していきます。
全ての記事を無料で公開します。
1人でも多くの人に、気象について興味を持ってもらえたらうれしいです。
問題
そもそも、対流活動とは
そもそも、対流活動とは、みなさま大丈夫でしょうか?
対流活動と聞いたら積乱雲をイメージするとよいと思います。
(当然、積乱雲のみならず、積雲や乱層雲も対流活動でできる雲ですが…)
例えば、夏の午後にできやすい積乱雲の最盛期は、
熱せられた下層の空気が上層に持ち上げられ、雲がモクモクできます。
同時に、上空の冷えた空気が下層に下降し、ダウンバーストが発生することもあります。
このように、空気が上層=下層間でグルグルすること、
それがまさに対流活動です。
(a・b) フィリピンの対流活動→ 7月活発・8月不活発
どう解いたらいいんだろうと思った人も多いでしょう。
おそらく図1を使うんだろうとは察しますよね。
図1は、「外向き長波放射量」のグラフです。
「はい、ムズイ~」と飛ばす前に、長波放射量を考えてみませんか?
地球は、高温の太陽から短波放射で、エネルギーを受け取ります。
同時に、地球は、低温ながらも長波放射で、エネルギーを宇宙に出します。
ここで、気象衛星の画像を思い出してみましょう。
赤外画像は、地球から放出される(外向きの)、
長波(赤外線)のエネルギーの強さを観測しています。
(参考)赤外画像のおはなし(59回専門9)
雲がなければ、温度が高い地上から出るエネルギーを、衛星でとらえます。
一方、雲があると、雲は地上から出るエネルギーを毛布のように吸収し、
宇宙に出ていかないようにします。
代わりに、雲は頂上付近から、地上より低温のエネルギーを宇宙に出します。
図1が示すのは、赤外画像と同じ話で、次のとおりです。
対流活動が活発=雲が多い=低温の雲頂から長波エネルギーを宇宙に出す=外向き長波放射量が少ない
対流活動が不活発=雲が少ない=高温の地上から長波エネルギーを宇宙に出す=外向き長波量が多い
図1を確認すると、7月の放射量<8月の放射量ですので、
対流活動は、7月は活発、8月は不活発とわかります。
(c)フィリピンの対流と太平洋高気圧の関係 → ア
そもそも、太平洋高気圧がなぜできるのかを理解しておきましょう。
そう!フィリピン付近の夏は日射量が多く、赤道低圧帯と解されます。
地上付近で南北からの風がぶつかって(収束)、上昇し、
上空では、南北へと風が分かれて(発散)いきます。
すると、少し高緯度の亜熱帯の上空で、空気がたまって下降していきます。
以上、太平洋高気圧をまとめると、次のとおりです。
フィリピンなどの赤道低圧帯で、上昇流がさかん。
赤道低圧帯の上空で、空気が南北へ。
亜熱帯高圧帯で、上空から下降流がさかん。
太平洋上では、太平洋高気圧がさかん。
このように、太平洋高気圧で下降してくる空気をたどると、
赤道低圧帯の対流活動で上昇した空気と考えられます。
(b)で、8月のフィリピン付近の対流活動は不活発としたので、
その下流にある太平洋高気圧も、顕著でなく不活発です。
そこで、図2のアとイについて、太平洋付近を比べると、
アのほうが、高気圧の度合いが小さいです。
太平洋高気圧が顕著でないのはアとわかります。
(d)太平洋高気圧と日本の天気の関係 → 曇りや雨
もう大丈夫でしょう。
太平洋高気圧が日本に張り出すくらい顕著でないと、
日本付近は、高気圧縁辺の海上を吹いてきた湿った空気が流れ込んだり、
前線が停滞したりして、曇りや雨の日が多くなります。
まとめ
以上の検討を踏まえると、解答は⑤です。
いかがでしたか?(*^_^*)
(a・b)では、外向きの長波放射量が問われ、
(c)ではフィリピンの対流活動と太平洋高気圧の関係が問われ、
ちょっと難しかったかもしれません。
ただ、基本に忠実によく考えると解けますので、
あきらめずかんばりましょうねっ!(^O^)/
出典など
出典1:古川武彦・大木勇人,2022,『図解・気象学入門』講談社
出典2:気象庁東京航空地方気象台「羽田空港WEATHER TOPICS 定期号通巻第32号」
(https://www.jma-net.go.jp/haneda-airport/weather_topics/rjtt_wt20130930.pdf)から抜粋して作成
※ 本記事における解答や解法は、個人の見解であり、(一財)気象業務支援センターとは関係ありません。