見出し画像

切り替える強さ

去年の夏、祖母の姉が亡くなった
家族内では、りえのおばちゃんと呼んでいた

何故なら、おばちゃんの娘がりえという名だからだ


小学生の高学年くらいまでおばあちゃんに手を引かれ、おばちゃんの家へよく遊びに行っていた

おばちゃんの顔は正直よく覚えていないが、優しくいつも気遣ってくれた面影と空気感は今でも思い出せる

おばあちゃんとおばちゃんは日が暮れるまで喋り散らかしていた

おばあちゃんの気が済んで帰る気が起こるのを待つのはとても退屈だったので、
私はおばちゃんの広い敷地内を徘徊しまくっていた

おばちゃんの家には、可愛いシーズーがいた
そのシーズーの名前は忘れたが、私を慕ってくれていた

シーズーはとても老いていて、もう目があまり見えていないらしい

おばちゃんの家には大きな畑があった
そこを私は作物フル無視で走り回っていた
シーズーはキャンキャンと聴覚と嗅覚を駆使し、私を追いかけた
見張っていたつもりだったのかもしれない

ま、そういう思い出があるおばちゃんが亡くなったと連絡があった
特に押し通したい用事はなかったので、お葬式に行ってお別れをすることにした

式場の最寄り駅に着くと親戚のおじちゃんが迎えに来てくれていた
遅刻したので同乗していた母はキレていた

式場に着き、久しぶりに会う親戚に挨拶をした
私はあまり話したくないので従姉妹の後ろにいた

想像とは違い、明るい空気だった

お葬式が始まった
順番にみなが焼香をあげる

私のおばあちゃんが故人のすぐ下の妹だからという理由で焼香のトリを務める段取りになっていた

おばあちゃんは91歳だ
上手く歩いて席まで戻れるかを私たち家族は少し心配した

遂におばあちゃんの番が来て、式場の方からGoサインが出た

おばあちゃんが立ち上がった

息を飲む我々

2歩ほど歩き出した瞬間、おばあちゃんはオナラをした

ブッ ブッ

2発だ

おばあちゃんは正直よくオナラをする
いつものことだが、おばあちゃんにTPOは通用しない

笑いを堪えきれず、吹き出す我々一行

そんなことには気に留めず、しれっと任務を全うするおばあちゃん

反則一本勝利

笑ってはいけないと思えば思うほど、笑いたい衝動が抑えきれない

私たちの可笑しな気配を感じ、周りを人たちがこちらを見ている

何度か不謹慎な笑い声が聞こえてしまったが、私たちは何とか危機を乗り越えた

次は棺に入ったおばちゃんの周りにお花を置く儀式に移った

おばあちゃんは お姉ちゃん と言いながら割と大きなボリュームで咽び泣いていた

私はおばあちゃんが転けないよう見守っていた

そりゃそうだよな、90歳過ぎていて寿命とは言え、兄弟姉妹との別れは辛いよな と一人っ子の私はおばあちゃんの気持ちを私なりに共感しようとした

にも関わらず、目を離した瞬間におばあちゃんは自席に戻って、初対面の人と 普通に世間話 をかましていた

従姉妹はその切り替えの速さに呆れていた

しかも、世間話を終えたおばあちゃんは私のそばへ来て、

あの子見てみ、魚みたいな顔してんな と葬式会場で人の悪口を言い始めた

その後、我が家であの子は魚ちゃんという呼び名にされた
性格が悪い

おばあちゃんはおばちゃんの葬式で、おばちゃんの死を悲しみながらも、好きなお喋りと悪口まで楽しんだ

この切り替えの良さは見習いたいし、是非遺伝していて欲しかった

今を生きる とはまさにおばあちゃんを体現した言葉だ

人生は綱渡り

いいなと思ったら応援しよう!