サッカーにおけるゲームモデルとは何か?UEFAライセンス授業で学んだこと
■はじめに
前回大好評でしたウェールズサッカー協会のコーチング理論。沢山の方に見ていただきとても嬉しかったです。ありがとうございました。
サッカーコーチ教育と若手の選手育成に定評のあるウェールズサッカー協会の知見や情報をもっと知りたいというメッセージを多く頂きましたので、その要望に答えていきたいと思っています。
前置きは短くし、、今回はウェールズサッカー協会が提示した「Welsh way」というシラバスをもとに、「ゲームモデル」とは何かについて簡単に書いていきたいと思います。
最後にお知らせもあるので、最後まで読んで下さると幸いです…!
■ゲームモデルの定義
ゲームモデルとは個人的見解も含め、
チームの哲学、文化、アイデンティティー、理念、手持ちの選手のプロフィールなどの要素を全て考えた上で作られる、どうやってチームとして戦うかというベースの部分を成すもの
だと解釈しています。
よく巷で聞く話に反対する形で言わせて頂きますと、ゲームモデルは対戦相手によって変わりませんし、試合ごとに変わるものでもありません。
90分のゲーム全体でチームに共有されるべきものですので、ゲームモデルという呼び方で間違えないと思いますし、プレイモデル(Play model) という言葉は私のイギリスでの5年間の経験上聞いたことがありません。
■ゲームモデルの作り方
作り方はいたってシンプルです。その量も選手がちゃんと理解でき、覚えられる量でなければゲームモデルを決める意味がなくなります。
アウトオブプレイを除く、ボール保持時、ボール非保持時、ポジトラ、ネガトラ、サッカーのゲーム内で起こる4つの局面の考えを使い、各フェーズに3つ程ゲーム中にチームとしてすべき、目指すべき、意識すべき事を決めます。
こんな感じで、前述の様々なチーム事情や要素を踏まえて作成していきます。
次にウェールズサッカー協会が作ったゲームモデルを見て行きましょう。
上の写真はウェールズサッカー協会が掲げている「ゲームモデル」です。中身を詳しく見ていきましょう。ちなみにウェールズではこのゲームモデルを育成年代の世代別代表チームから大人の代表チームまで一貫しているそうです。
❶ボール保持時(In possession)
・後ろからのビルドアップを目指す。(ポジショナルプレー。優位性の観点から、常に”余っている”選手を見つける。使う。)
・ピッチ中央でオーバーロードさせる為の、選手間のポジションチェンジやオフザボールの動き方。
・サイドチェンジを成功させる為のサイドでのオーバーロード。
〜つぶやき〜
ウェールズは下から上の年代まで一貫してボールを保持して繋いで勝つサッカーを目指しています。同国コーチング学校卒業生のアンリやアルテタを始め、ロベルト マルティネスやグアルディオラなどと積極的に意見交換したり、国内のコーチングカンファレンスなどで新たなアイデアや発見を全年代の指導者に平等に共有し、常にアップデートを惜しまずプレースタイルの一貫性を保っています。
全3項目とも、ポジショナルプレーを行うチームに当てはまるものだと思います。この間のクラシコでのバルセロナが行なった、高めに位置するサイドバック(J アルバ)を使う為や、中央突破の為のピッチ中央でのオーバーロード、昨シーズンのマンCのサイドチェンジを有効活用する為の片方サイドでのオーバーロードはとても分かりやすい例だと思います。
❷ボール非保持時(Out of possession)
・ボールを取り返す意識。
・ピッチ中央を優先的に固め、相手を外に向かせる。
・ユニット間(ライン間)のスペースを守る意識。
・選手間にパスを通されないように意識する。
❸アタッキングトランジション(Attacking transition)
・奪った後の最初のパスを大事に。
・相手のポゼッションを取り返した後のカウンターアタック意識。
・サイドチェンジを意識。
❹ディフェンシブトランジション(Defensive transition)
・反応を早く。
・取られたらすぐプレスをかける。
・味方(プレス者の1番近くにいる選手)のいる方に相手を誘い込む。
これらがウェールズサッカー協会が定めたゲームモデルです。UEFAライセンスの授業の時には、前述したプレーモデルの全ての項目がきちんと各年代で実行できているよと動画付きで先生から説明がありました。
こういった一貫性のあるゲームモデルを各年代で共有する事で、近年はベン ウッドバーンやイーサン アンパドゥなど若くして戦術理解やテクニックに優れたモダンな選手を輩出することに成功しています。
■ゲームモデルを作ることによって
チームとして機能しているかしていないか。この観点で大体は、常に素晴らしい成績を出すトップチームかそうでないかの判断ができると思います。
ゲームモデルは共通理解の1つでもあります。チーム全員が同じことを理解していないと意味がありませんし、理解することでチームがコレクティブに機能する助けをします。
ウェールズサッカー協会は結果、責任、関与、衝突、信頼と、5つに分けてチームとして機能しているチームの特徴とチームとして機能していないチームの特徴を以下のようにまとめています。
− チームとして機能していないチーム –
結果・・・ 個人にエゴやステータスに焦点を当ててしまう。
責任・・・ 責任転嫁が増えている。
関与・・・ タスクに対して曖昧な理解がある。
衝突・・・ チャレンジしたり、反対意見を述べたりしない。
信頼・・・ 意欲や関心を表に出さない。
これらがチームとして機能していないチームの特徴になります。これらに関しては説明する必要がないでしょう。
一方、ゲームモデルを作り何をすべきか明確に分かっているチームは、チームとして機能しやすくなるでしょう。
− チームとして機能しているチーム –
結果・・・ 結果を得る為の過程で質の高いフォーカスを当てることができる。
責任・・・ タスクを達成する為に、それぞれが責任を持っている。
関与・・・ タスクに対して全員で関わろうとする。
衝突・・・ 建設的なフィードバックを受けようとする。
信頼・・・ ミスを認め弱点を理解し、全員でサポートしようとする。
チームとして機能しているチームの特徴は以上のような感じでしょうか。
■おわりに
このように、ゲームモデルを作成することによってチームの雰囲気や環境が良くなることも間違いありません。サッカーはチームスポーツですので、チームとして何を目指すかというモデルを作ることは大切だと思います。
そのゲームモデルから、今度は対戦相手によって戦術を決めていきます。例えば、ウェールズサッカー協会は後ろからのビルドアップをゲームモデルの1つとして挙げていますが、以下のように試合ごとに戦術を決めることができます。
相手FWが2枚残ってプレスかけてくるからこっちはCB2枚とCMから1枚降ろして3v2を作ろう。
相手左WGのディフェンス能力が劣っているから、自チームのビルドアップ能力のあるCBを右に持ってきて、ビルドアップは右サイドで行うようにしよう。
などなど。
今度は、もしネガトラの場合、奪われた後のプレスを早くするとありますが、どうやってプレスをかけて奪うのか?74年のオランダ代表スタイルなのか?規律とストラクチャーを入れて、第1プレス者のサポートの選手は相手の前に立つのかパスコースの間に入るのかなどなど…。これらを戦術と呼ぶことができます。
戦術は自チームのゲームモデルと対戦相手、様々な外的要因を踏まえて決めることができます。
プレー原則はまた違った話になってくるので、今度はプレー原則をテーマに記事を書いていきたいと思っています。
最後に少し宣伝になりますが、明日6日に発売される「フットボール批評」に、私の記事が載っています。こっちのプレミアリーグのプロクラブにいる業界の人でも知らないような情報をシェアさせて頂きましたので是非チェックしてみてください。
今回このような素晴らしい機会を与えてくださった、内藤さん、フットボール批評関係者のみなさまには心よりお礼を申し上げます。
著者:平野 将弘 (Masahiro Hirano)
Cardiff City FC U-23の分析担当コーチ。ウェールズサッカー協会のUEFA Bライセンス取得中。ウェールズサッカー協会で分析のインターン経験。大学でサッカーコーチングを勉強中。96年生まれ。
Twitter - @manabufooty