カタールW杯日本代表の総括
4年に1度のサッカーの祭典。世界で最も多くの人が視聴しスポーツにおける最大のイベントとも言えるW杯で、日本代表は強豪ドイツとスペインに勝利を収め、国内どころか世界中の注目を集めた。
しかし目標はあくまでもベスト8であり目標は達成できていない。スポーツが感動ポルノとして消費されがちなここ日本に置いては目標を達成できたかどうかを気にする人は少ないように感じる。むしろ結果として楽しめたり感動できれば、いい試合だったという見方の人が多いのではないだろうか。
そのような中で日本が真に強豪国になるための道標を森保は築けたのか、森保JAPANについて考察していく。
・一貫性のない戦術とアンチ現代サッカー
日本代表における最大の問題点が攻撃の際の戦術の無さだろう。戦術とは端的に言えばチーム全体での約束事に近いわけだが、W杯本戦で見せたサッカーはいわゆる奇跡に近い運頼りのサッカーであった。そして何よりもこの4年間の集大成とも言える本戦では今まで積み上げてきたものを捨てた、急造的なサッカーであった。森保JAPANにはスタイルというものはなく、あるとしても選手の個々のバイブスによる奇跡くらいだろうか。
まずは守備面について。やはりなんと言っても本戦では5バックを採用しドン引きでブロックを敷くという予選とは全く違うサッカーを見せたことは驚きであった。これまでは4バックを採用し前から「走」を活かしたプレスをはめていく形が多かった。そして「戦うよ」で有名な通り選手に対して球際での強さを求め、90分を通してプレスをかけていった。
一方で本戦ではその直前のカナダ戦の後半で試したばかりの5バックをドイツ戦の途中から採用し自陣でドン引きのブロックを敷き、クロスやロブパスを弾くという、球際の個々の強さすら求めない真逆のサッカーを展開した。これが功を奏した理由は後のノートで記載するが、これが上手くいったのは選手のモチベーションと奇跡だろう。
今回のW杯では交代枠が5人に増えたことにより90分を通して強度を落としづらく出来たことが日本の味方をした。あれだけの時間相手にボールを握られ走らされても終盤まで持ち堪えたのは交代枠による助けが大きかっただろう。
そして攻撃面について。こちらに関しては課題が山積みだ。タレントが育っている分歯痒い場面が多くウィングの選手の速さに頼っているのはもったいないの一言に尽きる。特に予選では久保をアイソレさせたり、前田や浅野のランにルールがないため連携がなかったり、サイドから仕掛けからの続きがない、ビルドアップの整理されてなさ、、、、枚挙にいとまがない。本戦の全ての試合でFWの選手で起点をつくれなかったことも陣地回復を難しくし、守備の時間を増やしたという点で大いに反省するべきポイントである。
たしかにドイツとスペインから得点をあげておりここは評価するべき所とも言える。しかし同じようなカウンター志向の他国のカウンターがデザインされているものが多いのに比べて日本のカウンターにはデザインどころか意図すら見えないように思える。たしかに相手が前がかかりになったところで空いたスペースを使うという基本のキは感じ取れるが、カウンターとポゼッションの選択に約束事は感じられず、相手の配置をつくようなカウンターではなかった。この再現性の低さが戦術皆無と言われる証拠である。
日本の攻撃はミラクルの一言で片付けるのが無難でさえあると思う。
・森保自身のタスク
ではここまで書いた通り森保にとても長期的な目での戦術やプランがあるとは言えないが、では森保自身のタスクは何であったのか。
「モチベーター」
これが森保のタスクだろう。特に本戦でのモチベーターっぷりは明らかである。記者会見での物腰の柔らかさや節々での彼の言動から察するし、人望に厚く、ものすごく良い人だと思う。そして彼自身がW杯に行けなかった、あのドーハの悲劇を経験しているからこそ、そして日本サッカーにおいて誰しもが悔しい記憶である以上、森保の現場の一言が選手には刺さるのではないのか。そして異なるクラブでプレーをし、共にプレーする時間が限られている代表においてモチベーターとしての監督の素質は重要であろう。現にブラジル代表監督のチッチやイングランド監督サウスゲートなどモチベーターとしての要素の強い監督は多くいるように感じる。戦術ではなく森保の一言一言で勝利を掴んだと言った感覚であろうか。
・これまでの4年間の総括とこれからの展望
前回大会から今大会までの4年間で森保JAPANは目標を1つも達成しておらず、日本代表のスタイルを構築したわけでもない。しかし実際には日本代表としてのサッカーの人気の維持には貢献できた。サッカーが人気であるというのは強豪国になるための1つの最低条件であるため、最後の最後の大会で1つだけ仕事をした、そんな代表であろう。
ただ日本の強みを多く見出すことのできた大会でもあった。多くの有望な、そして現時点で欧州で活躍するタレントが多く育ったこと、「走」という世界に通用する武器を確認できたこと、そして勝利という結果を残せた自信と誇り。またW杯期間中、電車の中やお店の中でサッカーの話をよく耳にし、多くの人が試合を見て感動し興奮しサッカーを面白いと思ったと思う。日本にはサッカーがもっともっと浸透するだけのポテンシャルのある国であり、強豪国となるためにはよりサッカー国民的なスポーツであるべきであろう。ただあの一体感を感じさせることができたこと、そのことは今大会で最もの収穫だ。
今大会でサッカーを面白いと感じた人にはぜひJリーグでも、海外サッカーでも代表戦でもいいから見てほしいと思う。
そして4年後の日本がどのようなサッカーを見せるのか心底楽しみにしている。