サッカー国際移籍を知る(FIFA選手の地位及び移籍に関する規則の逐条概説)-第1条(適用範囲)
1. はじめに
Jリーグが2026年から秋春制に移行する。Jリーグは、アジアで勝ち世界と闘うため、欧州をはじめとする世界の移籍マーケットと足並みを揃える。
近年、国際移籍の件数は増加の一途をたどり、国際サッカー連盟(FIFA)によれば、2024年の男子プロサッカーにおける国際移籍の件数は史上最多の22,779件を記録した。そのうち、Jリーグクラブが関与した国際移籍の件数はわずか383件(海外から日本への移籍が160件、日本から海外への移籍が223件)であるが、2026年の秋春制への移行により、その件数が増加することは確実である。
したがって、この1年間、Jリーグの関係者にとって、国際移籍がどのようなルールに基づき行われているのかを正しく理解することが、国際移籍を成功に導き、日本人選手が世界で活躍し外国人選手がJリーグで輝き、Jリーグが世界と闘うために重要となる。
そこで、筆者は、FIFAが定める国際移籍のルール「Regulations on the Status and Transfer of Players(選手の地位及び移籍に関する規則)」(RSTP又は本規則)のうち、男子プロサッカーの国際移籍に関連する部分を逐条で概説し、世界でともに闘うJリーグのクラブ・選手・スタッフ・代理人・ファン・サポーターの一助となるべく、この1年間筆を執ることにした。
なお、本概説は、FIFAが作成している(英文で600ページを超える)RSTPの解説書(2023年版、2025年版が発行されたタイミングで更新予定)に基づき、筆者が重要な部分を紹介するものである。そのため、各規定の詳細な解釈や個別の事案を踏まえた解釈に関しては、原文を参照したり、サッカー法に詳しい弁護士に相談することを推奨する。
今回は、第1条(適用範囲)を概説する。
2. 第1条(参考和訳)
3. 本規則及び第1条の趣旨・目的
前提として、本規則(RSTP)は、選手契約や移籍制度の安定性を図り、もってスポーツ・インテグリティ(高潔性)を確保することを目的とし、選手の地位・参加資格や国際移籍に関する統一的なルールを定めるものである。
そして、第1条は、本規則の適用範囲を定めるものである。
4. 第1条のポイント
第1条のポイントは、本規則の全体構造を理解することにある。
本規則は、選手の地位・参加資格や選手の移籍に関する統一的なルールを定める際に、以下の三層構造のアプローチを採用している。もっとも、本稿の対象となる国際移籍に関しては基本的に本規則の全ての規定が適用されるため、各構造を詳細に理解する必要はない。
(1) 国際レベル
本規則は、国際移籍に関する統一的なルールを定めており、第1条第1項は、当該ルールが全世界的に拘束力を有することを定めている。ここでいう国際移籍とは、異なる協会に所属するクラブ間の選手の移籍をいう。すなわち、このような国際移籍を行う場合、当事者は本規則を遵守しなければならない。ただし、欧州連合(EU)の移動の自由の原則に準拠するためのいくつかの例外は存在する(別途解説予定)。
(2) 国内レベル(拘束力のある規定)
第1条第2項及び第3項(a)は、各協会が国内移籍に関するルールを定める際の特定の義務を定めている。各協会は、①国内移籍に関するルールを定めなければならず、②その際にFIFAの承認を受けなければならず、③第1条第3項(a)が挙げる本規則の各規定(別途解説予定)を修正することなく盛り込まなければならない。また、第1条第3項(b)は、各協会が2025年7月1日までに国内の期限付き移籍に関するルールを定めることを求めている。
(3) 国内レベル(柔軟性のある規定)
各協会は、上記の義務を除けば、選手の地位・参加資格や国内移籍に関するルールを自由に定めることができる。例えば、選手の標準契約書の要否や内容、外国人選手の登録枠及び若手選手の登録枠等が挙げられる。しかし、第3項(c)は、各協会が当該ルールに契約の安定性を維持するための本規則の各規定(別途解説予定)の原則を盛り込むことを求めている。
なお、日本サッカー協会(JFA)は、これらの規定に従って「サッカー選手の登録と移籍等に関する規則」や「プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則」を定めているが、本稿は国際移籍のルールを中心に概説するため、詳細に触れる予定はない。