冬におわり春にはじまる ~鹿島アントラーズの2022年
昨年の12月、仙台で味噌味の牛タンを食した。
少し変化球な選択をしたのは、目当ての店が閉まっていたこともあるが、やはり何年にもわたり仙台に行きすぎたからであろうか。それに東京で気軽に食べられるところに入る気にはなれなかった。
店のテレビでは、当日に行われた楽天イーグルスのファン感謝祭の模様が放送されていて、田中将大が実家に戻った長男のようであった。少なくとも2022年には仙台に来そうもないので、翌日には閑散とした野球場を見物した。
試合はピトゥカがねじ込んだゴールを守り切った。久しぶりの遠征での勝利は格別である。
どうしても試合以外にも気になるところがあり目を凝らしたが、アップや試合中のベンチでの様子を見ると遠藤や永木は残留すると感じたし、試合後の沖の号泣はスンテの退団をちらつかせた。結果はご存知のとおり、いずれも違っていた。みんなプロだ。アップ前に社長と笑顔で話し込んでいたセンターバックもいて、ポジションを再度奪わなければならないのに呑気だなと思っていたら、あっさり移籍して行った。
ともかく本格的な冬の訪れとともにシーズンの幕を閉じるのは、四季の風情ある日本らしいので好きだ。
そして春に向かって幕が開きはじめる。
いくつかの別れもあるわけだが、理不尽な印象はなかった。チームを整理して4位に押し上げ、最後の月間最優秀監督を受賞した相馬さんでさえ予感はあった。満さんの退任は驚いたが、別れというものでもなかろう。ジーコ的な立場で見守ってくれるはずだ。2人を並び称するのに何のためらいもない。
一方で出会い。ブラジル人ではない監督は想定内だが、ヴァイラーという名前が浮かんだことはない。そしてあのムルジャが入閣するとは予想だにしなかった。オールラウンドな仕事をこなせる、いわゆる気が利くFWだったと記憶している。フィジカルコーチがドイツ人で好印象なのはただの先入観だが、クレクラーを含めたスタッフ3名がファミリーに加わる。岩政は加わるというより戻ってきた。優磨もだ。
あえて全員の名前を挙げる必要はないだろう。注目したいのは中村亮太朗である。他はJ1での経験もあるのでだいたい役割や期待値が想像でき、大きく外れはしないはず。中村は未知数だ。袋小路に迷い込みつつある三竿からポジションを奪う可能性もあれば、壁に阻まれるのもあり得る。ニュータイプではありそうなので、新風を吹かせてほしい。
来たる新シーズンは、隣席を空けない配置や自由席など、観戦環境をコロナ前に戻そうとしている。クラブが事前に「ゴール裏は旗などで見えにくい場合がありますよ」と断ってくれたのは嬉しい。いつしかアマチュアカメラマン席になっていたが、名称からしてサポーターズシートなのだ。あとは声出しとブーイングくらいか。後者も、味方に向けられたとて広い意味ではサポートである。それを選手として感じてきたから、岩政コーチは「厳しくもあたたかく」と言っている。想いはブーイング越しでも伝わるが、カメラ越しには伝わらない。
あの悪名高きブーイングマシーンも、コロナ禍で出来ることを探した結果であり、その想いは否定されるべきではないし、それをクラブも分かっているから容認していたのだろう。表現があのかたちであったり、自らの愚行で禁止されたりは何とも彼ららしくて苦笑ましくて嫌いだが。
いずれにせよ、コロナがあろうがなかろうが、鹿島アントラーズはそこにあり、フットボールは続く。タイトルがあろうがなかろうが、ではない。タイトルは不可欠。リーグ優勝する監督は、必ず就任1年目に優勝している。未来における例外を考えるより、目の前の勝負にこだわるほうが好ましい。
今のチームは今しかない。僕は、今を鹿島アントラーズに注いでくれる彼らと勝ちたいと思っている。
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