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呆れた「自白だより」 変わらぬ”違法捜査” 密室で何が?今度は兵庫県警尼崎南署

 警察の取り調べの実態は依然として闇に閉ざされている。刑事犯にならない限り、一般市民が取調室の内容を見聞きする機会はほとんどない。そんな最中、昨年十二月の兵庫県警尼崎南署によるコンビニ女性店員誤認逮捕事件で、犯人と間違われて逮捕され、後に釈放された同店元パート従業員の女性(六十代)が国、兵庫県、コンビニエンスストア運営会社などを相手取って計三百三十万円の損害賠償を求めた裁判の第一回口頭弁論が八日、神戸地裁で開かれた。


◇ 「自白」の強要、またも

 事件の時系列を整理する。去年十一月三十日午後二時四十五分ごろ、女性が勤務していた尼崎市のコンビニ店長から「店のお金がなくなっている。盗んだ女性従業員が犯行を認めない」と一一〇番通報があった。駆けつけた尼崎南署員が防犯カメラ映像などを確認したところ、両替箱にあった数十万円を十一月二十四日に女性が盗んだ疑いが強まったとして、神戸地裁尼崎支部に逮捕状を請求。翌十二月一日午前二時過ぎ、窃盗容疑で女性を通常逮捕した。女性はこの時点で「お金を取っていません」と否認していた。
 事件が冤罪と判明したのは同日午前十一時半ごろ、コンビニ本部のエリアマネージャーから同署に「被害額を修正する必要があるかもしれない」と連絡があり、盗まれたとされる数十万円は同本部に送金していたことが分かった。ようやく女性が犯人でないと明らかになり、聴取開始から十四時間半後に女性は釈放された。

 報道によると、女性の損害賠償請求に対して国、県と運営会社は請求の棄却を求めている。うち国は認否は保留、兵庫県警を所管する県は責任は認めたうえで、損害賠償額について争っていて、運営会社はすべてを争う姿勢をみせている。その中で明らかになったのが、尼崎南署(高山文明署長)によるどう喝的かつ旧態依然とした取り調べの実態だ。
 女性は意見陳述で、「狭い取調室の中で、『自分が盗ったと吐け!』と何人もの警察官から言われた」と述べた。また閉廷後の会見で女性は記者団に対し、「何度も『盗っていません』と言い続けたが、聞き入れてもらえなかった。逃げ出せるのであれば、いっそ自分が盗ったとうそをつけば楽になれるのかもしれない。けれども、盗っていないものを盗ったということはできない」と当時の取り調べの風景や心境を明らかにした。
 裁判を通じて、またも警察による強引な取り調べが表に出た。推定無罪の形骸化が叫ばれ始めた二〇一〇年ごろから何一つ変わっていない、警察による自白強要、令状を発布する裁判官のメクラ印の実態がまたも明らかになった。

 そもそも、本事件においては女性が盗ったとする証拠がどこにあったのかさえ不明な状態だ。訴状や逮捕当時の記事を見ても、コンビニの店長の申し出だけで逮捕する緊急性があったのか全く疑問でしかない。
 通常、逮捕が必要な要件は「逃亡のおそれがあり、かつ罪証を隠滅するおそれがある場合」に限られているが、ならば女性が逃亡するおそれがどこにあったのかを検証すべきだろう。そして担当裁判官はどのような説明をうけ逮捕状を発行したのか。すべての段階においてチェックが効いていない。取り調べを行った警察官は複数人といわれるが、その複数人の誰か一人でも「おかしい」と思わなかったのか。
 翌日のコンビニ本部のマネージャーによる申告がなければどうなっていたのか、背筋が寒くなる。

◇ 強引な「叩き割り」 繰り返される冤罪

 警察によるこのような強引な取り調べのことを「叩き割り」という。嫌疑を否認し認めない被疑者に対しては長時間、狭い取調室で刑事と対面させる。目が泳ぐ、顔をかくなどすべての動作に揚げ足を取り、時には大声でどう喝し、かと思えば態度を百八十度変えて「自白してください!」などと被疑者に土下座する。かと思えば再び激高し、被疑者を怒鳴りつける。そうした取り調べによる精神の揺さぶりを受け続けることによる精神的苦痛は、普遍的な言葉で述べられるものではない。警察は被疑者がやったというまで決して身柄を離さない。十日間の勾留期間内に自白しなければなお延長を続ける。
 仮に嫌疑が全く身に覚えがない、冤罪であっても、叩き割りを受けているうちに精神的に追い込まれていく。「早く話したほうが楽になる」と思い込むようになり、最後は「やりました」と述べ、署名押印する。冤罪が出来上がるモデルケースはこのようなものになる。
 当然、これらの捜査は違法なものである。過去には大河原化工機事件、志布志事件、富山・氷見事件などで叩き割りによる調べの実態が明らかにされている。いずれも冤罪の被疑者に対して常軌を逸した取り調べを続け、シロをクロにしたものだった。当然、その取り調べの期間は憲法に定められた基本的人権すらないがしろにされ続ける。

◇ 進まぬ可視化、密室の中で何が

 改正刑事訴訟法では、取り調べの録音・録画が盛り込まれているが、対象は裁判員裁判事件と検察の独自捜査事件に限られていて、これは起訴される事件のわずか三%と極めて少ない。また、プレサンス冤罪事件では、可視化で録音がされているにも関わらず、検察官が被疑者に対して暴言を吐いていたことが明らかになるなど、録音録画も意味をなしていないことが明らかになった。
 取調室の中は全くといっていいほど外部の目が入らない。全面可視化に至っては捜査関係者が「供述が得られにくくなる」と反対している始末である。しかし、ならばなぜ旧態依然の調べ方を変えようとしないのだろう。警察官、検察官、裁判官と市民・法曹家との感覚には大きな乖離がある。

◇ 全容解明はされるか

 女性の今回の損害賠償請求訴訟は、賠償の請求以外にも司法当局による行き過ぎた被疑者の取り調べ、令状請求に対してなんら疑問を抱かない形骸化した令状主義の実態を解明する大きな意味合いが持たれている。今後の審理で国や県がどのような対応をし、また陳述をするのかを追及が必要だろう。
 審理を通じて、なぜこのような誤認逮捕が起きたのか、逮捕から釈放に至るまでの間、何が起きたのか。全容の解明が待たれる。

◇ 正木博文・兵庫県警監察官室長の話し

 本事件について正木博文・県警監察官室長は筆者による電話取材に対し、「個別の事件や案件にはコメントできない、報道各社にもそう伝えている」とコメントし、事件へ言及しなかった。

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