桜と楠見のヒミツ
登校中の桜はあることに気づいた。
パンツの前と後ろを逆にして履いてしまったと。
後ろ側を前にして履くと、歩きづらくて仕方がない。
ずり落ちることはないけど、履き心地が悪すぎるのだ。
学校着いたら即トイレ行かなきゃだな…
桜は駆け足で学校に向かった。
教室ではいつもの4人が桜を待っていた。
「あ、桜さ…ん?!」
「あれ…どうしたんだろ?」
普段なら真っ直ぐ教室に入ってくる桜が、今日は扉の前を走るように過ぎて行く。
楡井と蘇枋、桐生と柘浦は扉から桜の後ろ姿を目で追った。
「トイレか…」
「なんか急いでいるようでしたね」
「まあ、そういうこともあるよねぇ」
「ですね…」
各々察して、桜のことから話は逸れていった。
桜がトイレに入ると誰もいなかった。
ラッキーと、個室に入った。
一旦ズボンを脱いで扉の上に引っ掛けておく。
パンツを履き直すために下は全部脱がなければならない…
パンツを脱いだその時、トイレの扉が開き誰かが入ってきた。
軽い足音がして気持ちが焦る。
急げオレ…
早く出ないと。
とりあえずパンツを元通り履き、扉にかけていたズボンを取ろうとした。
が、桜が握るより先にズボンが扉の外に落ちてしまった。
しまった!?!!!
どうしよう!!!?
手を洗っていた相手も驚いたのか、水の音がぴたりと止まった。
見えない誰かは、ゆっくりと桜がいる個室に近づいてくるのがわかる。
お前は誰なんだ?
声も出さないし、気配も静かで…
もしここで俺が声を出せば、俺が桜だってバレてしまう。
それはなんか嫌だな。
でもズボンを拾ってほしいから言うしかないか…
口を開きかけたその時だ。
ひゅっとズボンが扉に掛かった。
見えない誰かは察してくれたのか、何も言わずにズボンを返してくれた。
そして、静かにトイレを出て行ってしまった。
マジかよ!?
いい奴すぎるな
誰だよそいつ。
桜は急いでズボンを履き、手を洗ってトイレを出た。
1年の廊下を見ても誰もいない。
なら、反対か
2年の廊下を振り向いた。
!!!!!いた!
く、くすみが……いた!!!
口元をにっこりさせて桜を見ている。
驚きすぎて声も出ない桜に、楠見は笑ったまま萌え袖からちょこっと手を振って教室に消えた。
はぁ……いい奴だな
楠見先輩…
桜は顔を綻ばせながら1-1の教室に戻った。
すると桜を待っていた4人が、おかえりと言うように笑みを向ける。
「桜さん、おはようございます」
「おはよう桜君」
「…おはよう」
今だに慣れない挨拶を、今日はなぜかさらりと言えた。
四人は目をぱちくりさせて桜を見る。
「桜ちゃん何かあった?」
「……別に」
「いや、トイレで何かあったでしょ」
「なっ!?何でわかるんだよ」
「バレバレだよ」
蘇枋になんて言ったら絶対笑われる。
本当に、トイレに来てくれたのが楠見でよかったあ……
ほっとして顔が緩んでいたんだろう。
蘇枋に頬を引っ張られた
「桜君、今日はずいぶん表情が豊かだねー」
「お前ほどじゃねーよ」
「そうかなあ」
蘇枋にだけは知られたくない。