多聞衆で組手

とある日の体育館
監督、柊さん
「今日は1、2年合同で組手をする。1年は組手をしたい先輩のところにつけ。他と被ったらジャンケンな。そんじゃ始めるぞ」
柊の合図で1年たちがぞろぞろと散らばっていく。
桜さんや蘇枋さんは誰につくんだろう?
楡井は二人を見ていた。
けれど、桜と蘇枋は並んで突っ立っているだけだ。
その間に、他の一年は次々と先輩とペアを組んでいた。

「桜君は誰にするの?やっぱり一番強い梶さん?」
「……いや、ここにいる中で一番強いのは柊だろ」
桜の返事に蘇枋は何も言わない。
「何だ?もしかしてお前も柊とやりたいとか?」
「いや、違うよ。ちょっと驚いただけ。2年生の中から選ぶと思ってたから…柊さんもカウントしてるなんて、やっぱりさすがだね桜君は」
「あ?揶揄ってるのか」
「いやいや、感心してるんだよ」
「……せっかくなら一番強い奴とやりてえじゃん」
「うんそうだね。それじゃ俺は梶さんにするから。桜君も頑張って」
「おう」

蘇枋さんは梶さんとペアになった。
桜さんは…
柊さんの所に向かってます。
柊さんも驚いているようです。

「は?俺と組手がしたい?」
「ダメか?」
真っ直ぐな瞳で桜が見つめてきた。
断る理由もないから柊は「わかった」と頷く。
桜はてっきり梶の所に行くと思っていた。
まさか自分が桜の相手になるなんて…
梶の方を見ると、蘇枋とやり合っている。
珍しいコンビでちょっと見てみたい気持ちもあったが、今は目の前の桜に集中する。
自分より頭一つ分くらい背が低い。
小柄な体格だけど、その分スピードがあって動きもすばしっこい。
十亀との対マンを見てやりずらそうな奴だと思ったが、どうやら当たりのようだ。
気を抜いたら一気に攻められる。
桜は空中で動くのが得意なようで、どこから足蹴りが飛んでくるか読めない。
「りゃああ」
桜の拳が飛んできて一歩下がった時だった。
背中にゴツッとぶつかる感触。
振り返ると梶が倒れていた。
「わるい梶!大丈夫か?」
「大丈夫です‥‥‥」
梶はよろよろと立ち上がった。
「桜、蘇枋、悪いが一旦抜ける」
そう言って柊は梶を支えて楡井の方へ歩いて行った。

「だ、大丈夫ですか?梶さん」
「ああ‥‥‥尻もちついただけだから大したことない」
梶が壁に背をつけて座ると、柊も隣に座った。
「悪いな。つい夢中になって注意を怠っていた」
「大丈夫ですよ。俺もなんで」
「どうぞ麦茶です」
楡井は二人に麦茶を差し出す。
「さんきゅうな楡井」
「蘇枋と組手してどうだった?」
「‥‥‥やりづらかったです。俺の攻撃ほとんど躱されました」
「蘇枋は独特な喧嘩スタイルしてるよなあ」
柊はいつの間にか組手を始めていた桜と蘇枋を眺めながら呟いた。

数分前
「俺らもちょっと休憩しようか」
「は?俺の相手しろよ」
「え!?嫌だよ。冗談やめてよ桜君」
「冗談じゃねえよ。ビビってんのか?」
イラっ
「わかった。いいよ相手してあげる。でも手加減しないから」
「っふ、上等だ」
結果、桜と蘇枋のバトルはヒートアップしすぎて柊に殴られて終了した。
石頭の桜は何ともなかったが、蘇枋の頭には大きなたんこぶができた。
そのことが、蘇枋はなんとなく桜に負けた気がして密かにリベンジを誓ったのだった。


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