優しい四季

その夜、四季たちは同部屋で寝ることになった。
部屋の中は少し重たい空気が流れているが、ロクロと水鶏がいちゃつく声のおかげで、沈黙は避けられていた。
「ロクロ、こっちのベッドおいで」
「…えっ、いいよ。僕、自分のベッドで寝るから」
「じゃぁ、私がそっち行くね」
「さ、漣さん!?」
水鶏は嬉しそうな顔をしてロクロのベッドに移動する。
「おい、そこ!イチャつくな」
我慢の限界がきた矢颪が声を出す。
「や、矢颪君、僕食べられちゃいそうで怖いよ。助けて」
ロクロが布団を目の下までかけて震えている。
「心配すんなよロクロ〜。私がいい夢見させてあげるからね」
「っひぃ」
「ッチ、こんな中で寝られるかよ」
そう言いつつ、矢颪はベッドに潜り込む。
皇后崎と屏風ヶ浦は呆れたように顔を見合わせた。
その時、遊摺部が立ち上がって部屋を出て行こうとした。
「遊摺部どこ行くの?」
ぼーっとしていた四季が聞く。
「…ちょっとトイレ」
小さく囁いて遊摺部は部屋を出て行った。

「あいつ大丈夫か?」
四季が独り言のように呟く。
「大丈夫ではないな。確実に」
皇后崎は腕を組んだままだ。
「こういうとき、一人にしてやった方がいいのか?」
矢颪が起き上がって聞く。
「俺だったら…誰か側にいてほしいかな」
四季はいつの日か、皇后崎に励まされた時のことが頭によぎった。
「なら四季、行ってやれよ。こういうのはお前が得意だろ」 
「そうか?」
「だな。バカな奴が隣にいれば遊摺部も気を遣わなくていいだろ」
皇后崎が矢颪の意見に同意する。
「あ?誰が馬鹿だボケ」
「さっさと行けバカ四季」

四季が部屋を出ると、別の部屋から大人組が出てきた。
たぶんまた大事な会議をしていたのだろう。
「やあ、四季君。どうかした?」
爽やかな笑顔で花魁坂が聞く。
「…あ、いや、遊摺部が部屋出てったから…」
四季が言うと無陀野は指で輪っかを作って通路を見渡す。
「遊摺部はあの部屋にいる」
何でも覗ける才能でもあるのか、無陀野が一番奥の部屋を指さす。
「さすがダノッチ。見透かすのが上手いこと」
「ったく。お前の目は鍵穴かっつーの」
真澄が真っ暗な目で無陀野を見上げる。
「まっすーが透明なってもバレちゃうもんね」
「そうなのか?!すげえな無陀先」
四季は目を丸くして無陀野を見る。
「気配でわかるんだよね」
「京夜、ペラペラうるせえぞ。んで、猫〜てめえも笑ってんじゃねえぞぉ」
真澄が猫咲の肩に腕を回す。
「っひ!す、すみません」

「四季、遊摺部のことはお前に任せる」
真澄に連行された猫咲を眺めていた四季に、無陀野が声をかける。
「立ち直るまで時間はかかるだろうけど、しっかり見てあげてね」
花魁坂も優しい表情で四季に言った。
「おう」

「みんな仲間思いな奴だけど、四季君は特に優しいね」
四季が遊摺部のいる部屋に入っていく姿を見ながら花魁坂が呟く。
「…そうだな」
いつになく心のこもった声に驚いた花魁坂は無陀野を見据える。
「ダノッチ今笑ったでしょ」
「気のせいだ」
無陀野は微笑む花魁坂を置いて歩き出す。
そばにいた大我や紫苑、馨と印南も呆然として無陀野の背中を見ていた。
「今絶対笑ってたよね」
「はい、間違いないっす」
「おい、興奮して血を吐くな」
印南の血が床に飛び散った。

遊摺部を連れて部屋に戻った四季は、部屋の中央に布団を二つ並べた。
「あの‥‥四季君、ベッド使わないの?」
遊摺部がためらいがちに聞く。
「うん?隣で寝た方があったかいだろ」
「‥‥そ、そうかな」
「悪いな遊摺部。今日だけバカ四季に付き合ってやってくれ」
皇后崎が呆れたように言う。
「あ?俺ら全員が同部屋なんて、こんな機会ないだろ。せっかくなら隣で寝たいじゃん」
「はいはい、四季君はお子ちゃまですね」
「うっせ。バカおろし」
「んじゃあ、電気消すぞ」
遊摺部も布団に入ったのを確認して、皇后崎が電気を消す。

「みんなありがとう」
少しして、遊摺部の温かい声が四季たちの耳に届いた。

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