国崩大火後、初めての登校日
「だぁー!寝坊した」
学校に間に合うように目覚ましをセットしていたのに、いつの間にか二度寝していた。
梅宮と焚石の決着がついた日、桜は家に帰ってから倒れるように眠り込んだ。
次の日も休日だったため、今朝までほとんど寝て過ごしていたのだ。
スマホのチャットを開くとクラスメイトから『大丈夫?』という風なメッセージが何件も届いている。
桜は今から行くとだけ返信し、家を飛び出した。
商店街は普段と変わらない様子で、ほっとした気持ちになる。
風鈴が街を守ったことは知れ渡っているようで、桜が歩いているとあちこちからお礼を言われ、たくさんの食べ物をもらった。
「ふぅ〜やっと着いた」
教室の扉の前で一呼吸置く。
何やかんやで昼休みの時間になっていた。
扉を開けて中に入るとみんなの視線が桜に集まる。
一番先に駆け寄って来たのは楡井だ。
「桜さん!大丈夫ですか?」
「おぉ……寝坊しただけだ」
「桜君も寝坊するんだね」
蘇枋が楽しそうに笑いながら桜の横に立つ。
「わ、悪かったな」
「桜ちゃ〜ん、荷物すごいね⁈」
持ちきれずに落としそうになったビニール袋の一つを桐生がキャッチしてくれた。
「商店街でたくさん貰った……から、みんなで食べようぜ」
桜の言葉に、その場が急に静かになる。
「な、何で黙るんだよ」
「珍しいね、桜君がそんな風に言うなんて」
「いっつも独り占めするのにねぇ」
蘇枋と桐生がにこにこ笑っている。
「桜〜優しいじゃんか」
「何かいいことでもあったか?」
他の仲間も桜の周りに群がる。
「ち、ちげえよ。これはその……街を守ったお礼で……俺だけのものじゃなくて、お前らのものでもあるから」
顔を赤くして言い切った桜に、一同は目を丸くする。
「ふっ、なんだよその顔」
桜は静かになったみんなの顔を見渡して、小さく笑みをこぼす。
「さ、桜さん!もう〜」
楡井が桜に飛びつく。
「桜〜このヤロ〜」
「おりゃ!」
「可愛いかよ!」
楡井に続いて、安西たちも桜に抱きついた。
「桜君、袋もらっとくよ」
「桜ちゃんがんばれ〜」
蘇枋と桐生はそばで微笑みを浮かべて見ていた。
ようやく落ち着いて、桜はやっと一息つける状態になった。
「はぁ‥‥‥‥疲れた」
桜は蘇枋と桐生の隣でぐったりと椅子に座り込む。
「なんかやつれた?」
「っるせえ」
「はいどうぞ」
楡井があんぱんを持ってきてくれた。
「あ、りがと。にれ‥‥」
そのとき、屋上で畑仕事をしていた杉下が帰ってきた。
「杉ちゃんお帰り〜」
杉下の視線は桜の手に向いている。
「・・・」
あんぱんはこれが最後の一個のようで。
仕方ないから桜はあんぱんを半分に割って杉下に渡す。
「ん」
「‥‥どうも」
杉下はあんぱんを口にくわえてスタスタと自分の席に行ってしまった。
「桜ちゃんやっさしー」
「ふふ」
蘇枋が口を手で隠して笑っている。
「笑うな!」
「ごめんごめん。なんだか嬉しくてさ」
「はあ?」
よくわからないまま桜はあんぱんを齧った。
いつもより甘かった。