オレが悪いの?
珍しく蘇枋と二人きりで帰っていた。
特に話すことがないからお互い黙って歩く。
「なあ、お前好きなタイプとかあるの?」
何気なく聞いていた。
昼休みに桐生たちが恋バナしてたのを思い出したからだ。
「俺の好きなタイプか。気になる?」
蘇枋の視線が自分に向くのを感じる。
「別にそういうわけじゃねえけど…昼休みに桐生たちが話してたから」
「あぁ、なんか盛り上がってたね。桜君はどうなの?」
いや、お前に聞いてるんだけど
そう思うけどまた上手くかわされそうだからあえて言わない。
「オレはタイプとか言われてもそういうのよくわかんない。この街の人はみんないい奴だと思うけど」
「そっかあ」
抑揚のない声でそれだけつぶやき蘇枋は静かになるけど、何か考えているような雰囲気だ。
「お前はどうなんだよ」
オレだけ答えてなんとなく後味が悪いから、振り出しに戻ってまた聞いた。
「俺?それさっきも聞かれたんだけどな」
「お前が答えないからだろ」
「桜君こそちゃんと答えてよ」
「はあ?」
「本当は好きなタイプあるでしょ?優しい人とか、かっこいい人とかさ」
「そんなのねえよ」
蘇枋はオレに何を言わせようとしているのだろう。
どういう人が好きかとか考えたことがないし、今パッと考えられる気もしない。
「わからないならさ、たとえば身近な人で考えるとか。そうだなあ、桐生君とかどう?桜君は桐生君のことどう思ってるの?」
思いもしない質問が飛んできた。
なんで桐生が出てくる?
いつの間にか話がそらされているし、蘇枋はなぜか積極的だ。
「どう思うって言われても…」
頭の中で桐生をイメージしてみると
つい最近、前髪を切りすぎたオレに気づいてピン留めを貸してくれたのを思い出す。
「桐生はチャラそうに見えて、意外と周りを見てるよな…気がつかえるし優しい奴だと思う」
「…」
「蘇枋?」
どうしてか急に蘇枋が立ち止まってしまったので、オレは振り返って蘇枋を呼ぶ。
真顔で虚空を見ていた蘇枋は我に返って胡散臭い笑顔をつくる。
「どした?」
「なんでもないよ」
蘇枋はスタスタ歩き出すので、オレも蘇枋の後ろをついていく。
「なあ、これ聞いてなんか意味あるの?」
蘇枋の意図がわからなくて単純な疑問をぶつけてみた。
「別にないよ。ただのオレの興味」
あっさり”ない”と答えられて、オレはもう意味がわからなかった。
蘇枋の興味?そんなの知らねえよ
オレが桐生をどう思っているか興味があるってことか?
なんだそれ…それってなんか…
いやいや、ないない
頭に浮かんだおかしな考えを振り払う。
そもそも好きなタイプの話をしてたのに、何でこんな会話してるんだよ
「なあ、お前の好きなタイプについて聞いてたんだけど」
呆れながら言うと、なぜか蘇枋が大きく息をつく。
「ねえ、そんなに俺の好きなタイプを知りたいなら、もう一つ質問に答えてよ」
「それ答えたら教えてくれるのか?」
また条件付きかと、うんざりするけど念のため確認する。
「いいよ」
蘇枋が頷いたのでその案に乗ることにした。
よくわからないけど、正直なところ蘇枋のタイプよりその質問の方が気になっていた。
「で、質問は?」
蘇枋は足を止めてオレをじっと見つめて言った。
「桜君、俺のことどう思ってる?」
「はあ?なんだよそれ」
自分で自分のこと聞くのかよ
オレは可笑しくて思わず笑ってしまう。
「ホラふき野郎じゃね?」
もうよくわからなくて適当に答えた。
オレに笑われたのと、オレの答えのせいなのか、蘇枋は明らかにムッとして不機嫌な顔になる。
「それはダメだよ。真面目に言ってないから」
「なんでだよ。わりと真面目に思ってるし」
珍しく蘇枋の顔に感情があふれていて、オレは密かに楽しんでいた。
「でもそれ、以前に聞いたことあるんだよね。入学初日に。他のがいいな」
確かに言った覚えはある。
初めて蘇枋と顔を合わせて自己紹介したときだ。
他と言われても…蘇枋は謎が多い奴
これが正直な感想だけど、謎について深掘りされると色々厄介そうなので他の答えを探す。
しばらく黙っていたら先に蘇枋が口を開いた。
「そんなに悩むなら答えなくていいよ。この話はこれで終わりね」
感情のない声でそう言う蘇枋を見ると、どこか寂しそうな顔をしている。
「じゃあまた明日」
ちょうどオレと蘇枋が別れる道に着いて、オレが声をかける隙もあたえず蘇枋は目も合わさずに行ってしまった。
もしかして、いや、もしかしなくない
オレ、蘇枋を傷つけたんだ、、、
蘇枋のことよく言わなかったから、ホラふきとか言ったから最後にあんな顔させたんだ
やってしまったと後悔する一方で、
蘇枋の質問といい、桐生についてオレが言ったときの蘇枋の反応がどうも引っかかっていた。
まさかとは思うけど…そんなことって…
いやあるわけねえ……よな?
勘違いするなよ
またしてもおかしな思考が頭をよぎっておかしくなりそうだったので明日桐生に相談しようと思ったが、同時に蘇枋の顔が浮かぶ。
「なんでだよ」
オレはそう声に出して地面を蹴った。