俺だって負けませんよ
どこ行くんだあいつ…
昼休み、安西たちに捕まった桜は、その隙間から蘇枋が教室を出て行くのが見えた。
「え、わ!蘇枋か!」
いつ来たのか、畑をいじっていた梅宮は隣に蘇枋がいることに気づかなかった。
「あはは驚かせてすみません」
蘇枋は朗らかに笑って梅宮の隣にしゃがむ。
「どうした?珍しいな蘇枋が屋上に来るなんて」
しかも一人で来るとは、梅宮は驚きを隠せないまま蘇枋をまじまじと見つめる。
「ただの息抜きですよ。今教室で夏休みの計画立ててるんですけどもう騒がしくて…」
にっこり笑う蘇枋は要領を得ない。
だから何となく聞いてみた。
少しの期待を込めて
「何か話したいことでもあるのか?相談とか悩みならお兄ちゃんが聞いてやるぞ?」
蘇枋はばつが悪そうに雑草をいじっている。
「まあ、相談っていうか伝えたいですかね…」
「ん?何だ?」
「杉下君のことです」
意外な答えに梅宮はまたも驚かされる。
杉下と言えば、つい先日こんな感じで話したところだった。
「彼、最近変わりましたよね」
「あー蘇枋もそう思うか?」
「なんか積極的になった気がします。最近寝てないし、話しかけるなオーラもあんまり出てないし。さっきだってクラスメイトの話し合いに参加しててびっくりしました」
「へぇ〜杉下のやつ」
この前話してたことがさっそく実行されてて、梅宮は顔がにやける。
それと同時に、はっとする。
「もしかして蘇枋、杉下に刺激を受けたのか!?」
「え、あーまあ…」
歯切れが悪い蘇枋に梅宮はにっこりと微笑む。
「聞かせてくれよ。お前が考えてること」
蘇枋はぽつぽつと心境を語り始めた。
獅子頭連との勝負で初めて桜の喧嘩を見て、蘇枋は桜のことをかっこいい人だと思った。
と同時に、桜に負けないように自分も頑張ろうと決めた。
でも、桜と共に過ごすうちにいつしか彼にはかなわないと思うようになった。
喧嘩はもちろん強いし、精神的な面でも芯の強さがあって蘇枋の中で桜は尊敬のような届かない存在に変わっていった。
だから、副級長として自分は桜の隣で彼を支える役でいいのだとそう思った。
でも、杉下の変化を見て気づいてしまった。
オレも変わらないとダメだと。
本当は杉下が少し羨ましかった。
誰よりも桜のことをライバル視していて、本気で桜と喧嘩ができて彼を怒ることもできる。
蘇枋にとって杉下は桜と対等な存在だった。
その杉下がさらに進化しようとしている。
桜に負けないように、もっと上を目指している。
だからオレも、変わりたい
いつの間にか忘れてしまっていたが、本当はオレだって桜君に負けたくない
かなわない相手ではなく、ライバルとして
彼の隣に立っていたい、そう思った。
「なるほどな〜蘇枋にはあいつらのことがそう見えてるのか。なんか意外だな」
「そうですか?」
梅宮はうんうんと、満足そうに笑う。
「ん〜なんて言うか、蘇枋が思ってる杉下と、杉下自身が思ってることって結構違うなあーって思って。まあ、人の考えなんて周りがわからないのは当前なんだけどさ」
「ええ…なんかオレ見当違いなこと言いました?恥ずかしくなってきた」
「そんなことないさ。ただ、本人に話聞いてみるのもいいんじゃねえかな。杉下も蘇枋と話したいと思うぞ」
「…」
その時ちょうどチャイムが鳴った。
二人で扉へ向かう。
「蘇枋、話してくれてありがとな。お前の考え聞けて嬉しかったわ」
「梅宮さん」
「ん?」
蘇枋は不思議そうな顔をする梅宮を見上げて言った。
「オレのことも三人目の後輩として意識してくださいね。桜君と杉下君ばっかりずるいです」
「え?」
「俺だって負けませんよ」
高校生とは思えない妖艶な笑みを浮かべ、蘇枋は屋上を後にした。
あぁ…あんなアピールじゃ上手くいかないよね
梅宮さん鈍感そうだし
わざわざ一人で会いに行ったけど、普通に真面目な話ししちゃったな…
「蘇枋、どこ行ってたんだよ?」
「桜君には関係ないよ」
「何だよ感じ悪いな」
「…ごめん八つ当たり」
「…何かあるなら話聞くけど」
「……はあ」
「あ ‘’?何だよ」
「そういうところなんだよね…」
蘇枋はもうダメだと机に突っ伏する。
今さっき意思表示したのに、もう勝てる気がしないとか。
情けないなあ…
え!?
待て待て待てどういう意味だ…
いや、俺の気のせいじゃなきゃそういうことか?!
わからん!わからん!
梅宮はパニックになりかけて柊を探しに行った。