一年トリオと楠見先輩
放課後、
今日の見回りは多聞衆が担当となっていた。
班のメンバーは、オレと桜君、にれ君。そして、2年の楠見先輩だ。
今まで多くの先輩たちと見回りしてきたけど、楠見先輩と被るのは今回が初めて。先輩とは直接話したことがないから内心ちょっと楽しみな気持ちだった。
そんなオレの気も知らず、教室であからさまに興奮しているのはにれ君だ。
「桜さん!今日は楠見先輩と見回りですよ!
あぁ〜すご〜い!こんなこんな凄いことあるんですね。」
そんなことを言いながら桜君の周りで飛び跳ねている。
「わかったわかった!から落ち着け!」
「桜さんは嬉しくないんですか?オレ、楠見先輩と話せると思うとワクワクでいっぱいです!」
にれ君は瞳を輝かせて言う。
「別に……オレはちょっとだけあいつの頭が気になるくらいだ」
「へぇ?!あたま!??」
「どういう意味ですか、桜さん!」
二人の話を隣で聞いていたオレにもよくわからなかった。
桜君は照れくさそうに顔を背けた。
「そろそろ行こうか」
時間になったのでオレは二人に声をかけた。
校門の前で楠見先輩が待っていた。
オレたち3人が早足で駆け寄ると萌え袖からちょっとだけ見える手を振ってくれた。
「今日はよろしくお願いします!」
にれ君が勢いよく挨拶する。
[こちらこそよろしくね(^-^)]
先輩はニッコリ笑ってスマホを見せてくれた。
(絵文字が先輩の顔のまんまで面白いんだよな〜)
オレは心の中でクスッと笑う。
楠見先輩を先頭に、オレたち一年が後ろを歩く。
「さ、桜さん、あんまりガン飛ばさないでくださいよ。顔が怖いです」
にれ君が小声で囁く。
「あ??飛ばしてねーよ。オレはただあの頭が気になるだけだ」
「はぁ?教室でも言ってましたがどういう意味ですか?先輩の頭が何なんすか?!」
「いゃ、だ、だから、その……。絶対笑うなよ」
「は、はい?!」
「あ、あの髪の毛、ふわふわして気持ちよさそうだから……な、なんか触ってみたいっていうか、なんていうか……」
桜君がごにょごょ喋る。
「え〜!桜さんそんなこと思ってたんすか?!
ちょっと意外すぎます……へへへ」
にれ君が小声で笑う。
たぶん前を歩く楠見先輩に気を遣っているんだろうけど……
(たぶん聞こえてるよな……)
案の定、先輩は二人の会話をバッチリ聞いていたみたいで、後ろをふりかえった。
そして、素早くスマホに何かを打ち込んでオレたちに見せた。
[触ってみる??(^。^)
全然遠慮しなくていいよー!]
それを見た桜君は、顔はもちろん耳の先まで真っ赤になっていた。
オレは面白くなって言ってみた。
「桜君、先輩が許可してくれてるんだから、触らせてもらえば??」
半分冗談のつもりだけど……
オレはこの状況が可笑しくてちょっと遊んでみた。
「お、おう……じ、じゃぁ、ちょっと触らせてもらう。し、しつれいします」
桜君はおどおどしながらも、丁寧に礼を言って先輩の頭に手を伸ばす。
その手が先輩のふさふさの頭にそっと触れる。
[触り心地はどう??(^.^)]
楠見先輩がニコッとしながらスマホを見せてくる。
「お、おもってた以上にふかふかで気持ちいいな。楡井も触ってみろよ」
「ちょ、ちょっと桜さん!先輩の頭、なんだと思ってるんすか。」
とか言いながら、にれ君の目は輝きを隠せない。
「あ、あの〜オ、オレも触っていいんでしょうか?」
躊躇いがちに伺うにれ君に、楠見先輩はもちろん!というようにコクっと頷く。
「わ、わ、わぁ〜!!!ほんとだ
すごくふわふわです。」
二人は満足そうに「ありがとうございました」と礼を言った。
いつの間にか見回りエリアも終わりの地点に来ていたのでここで解散となった。にれ君と桜君は帰り道が同じなので二人とはここで別れた。
そして、オレは楠見先輩と帰る方向が同じということがわかり……今、二人きりで歩いている。
「あの……楠見先輩。今日はオレたちのわがままに付き合ってもらいありがとうございました。あの二人、本当に嬉しそうで満足してました」
オレはとりあえずお礼を言うことにした。
楠見先輩はすかさずスマホに文字を打ち込む。その指の動きがめちゃくちゃ早くて、オレは感心してしまう。
[君たち三人とはちゃんと話したことがなかったから、今日のアレで距離が縮まった気がしてオレも嬉しいよ(^。^)]
[桜君が顔を真っ赤にしてたのは可愛かったな^ ^彼には内緒だよ!]
「ふふふ……そうですね。可愛いとか言うと怒るので……」
その後、会話が続かない。オレたちの足音だけが聞こえる。無理に話す必要もないので、オレは黙って歩いた。
不思議と沈黙のままでも平気だった。気まずくない。先輩の隣はなんだか落ち着く。自然体で居られる感じ。この人の雰囲気がそうさせているのだろう。
(すごいな、楠見先輩)
オレは密かに憧れの念を抱く。
そんなことを思っていたら、楠見先輩がスマホを見せてきた。
[オレ、家こっちだから。
また、学校でね。蘇枋くん^ - ^]
「はい、また学校で」
そう言って、楠見先輩と別れた。
最後に自分の名前を読んでくれたのがとても嬉しかった。