『WIND BREAKER』144話の続き〜閉幕
棪堂たちとの喧嘩が終わった後の話です。
桜は梅宮に救出され、保健室で寝ているという設定。
では本編へどうぞ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
オレは夢を見ていた。暗闇に沈んでいく。そうだ。オレは綱渡りしていて堕ちてしまったのだ。どこまでも深く真っ暗な闇。もう誰にも会えない。助けてくれる人もいない。独りぼっちだ。嫌だ。逃げたい。誰か助けて。
手を差し出す。誰かが引き出してくれることを願って。
これは現実なのだろうか。手に温かな感触がある。誰かがオレの手を握っている。微かに声も聞こえてくる。
「さ、、くん。… さくらくん。」
誰かがオレの名前を呼んでいる。その度にオレの手を強く握ってくれる。夢か現実かわからないまま、オレは重い瞼をゆっくり上げた。
目の前に蘇枋がいた。心配そうな顔でオレの顔を覗き込んでいた。
「良かったー。桜君、目覚めたんだね。すごく魘されてたんだよ。」
そう言って蘇枋はもう一度オレの手をぎゅっと握った。
何で蘇枋がここに?というか、ここはどこだ?辺りを見回す。そんな桜の心を察して、蘇枋が先回りして言う。
「保健室だよ。梅宮さんが桜君を運んでくれたんだ」
ゆっくりと記憶が蘇る。そうだ。オレは棪堂に殴られていたところ、梅宮に助けられたのだ。
梅宮に抱えられて交わした言葉を思い出す。あー、そうだ。全てが無事終わり、安心して彼の腕の中で眠ってしまったのだ。
ほっと一呼吸して、蘇枋を見上げる。その顔にたくさんの傷が刻まれていた。意外だった。いつも傷一つつくらないのに。
「蘇枋、顔ケガしてる。」
オレは蘇枋の顔に手を伸ばす。そっと触れると、驚いたようにピクッとした。
「大したことないよ。今回はちょっと派手にやられちゃってさ。」
いつもの調子で軽く流す。
「それより桜君は大丈夫?痛むところない?」
自分より他人を気遣う蘇枋。
「うん、大丈夫」
「そっか、良かった」
そう言って、彼は優しく微笑んだ。
この笑顔を見るたびに、オレの心はチクリと痛む。笑顔の裏に、蘇枋の本音が隠れているように思うから。
自分の弱みを知られたくない。
本当の自分を見られたくない。
蘇枋の笑顔はそんな感じがした。近くにいるのに、遠い。自分のことは徹底的に隠す、そのくせ相手の心にはズカズカと踏み込んでくる。
オレはもっと蘇枋のことが知りたいのに。いつか自分を曝け出してくれる日が来るのだろうか?
そんなことを考えていると、蘇枋に名前を呼ばれた。
「桜君、どうしたの?そんな神妙な顔して」
「別に…ちょっと考え事してただけ」
(お前のこと考えてたんだよ💢)
「オレ、クラスのみんなに桜君が起きたこと報告してくるよ。みんな心配してたから。」
そう言って、徐に立ち上がり扉へ向かおうとした。オレはとっさに蘇枋の服の裾を掴んでいた。
「え、桜君?」「どうしたの?」
「いやー、あ、、別に…」
オレは言い訳を考えたが、上手いこと言えなかった。瞬間的に、蘇枋と離れたくないと思った。このまま行かせたら、蘇枋が居なくなってしまう。そんな気がした。
夢のせいで弱ってるのか、オレ。
しどろもどろしているのを見て、蘇枋はオレの頭をそっと撫でた。
それはまるで、「自分はずっと一緒にいるよ」と言っているようだった。