お疲れさま

桜を迎えに蘇枋率いる1-1のクラスメイトたちは商店街を引き返して歩いていた。
「あれって…」
楡井の声とともに、みんなの足が止まる。
前方から棪堂がゆっくりこちらに歩いて来る。
背中にはぐったりした焚石を背負っていた。
「みんな両サイドに別れよう」
蘇枋の声で呆然としていた仲間たちが道端に別れて立った。

なんだこの状況?
ここを通れって言うのか?
棪堂は桜の仲間たちが作った悪意に満ちた道の前に立った。
先頭には学校で見かけた眼帯の奴と金髪の奴がいた。
はは、さすが桜の仲間
すごい殺気を感じるぜ…
棪堂は背中で眠る焚石を抱えなおし、ゆくっりと緊張感が漂う通りを進んで行く。
歩いている間、四方八方から痛いくらいの視線を向けられた。
桜…
お前にはいい仲間がいるんだな
俺はお前のこと全然理解していなかったんだな…
沈んだ気持ちで歩いていると首に巻かれた焚石の腕がキュッと締まる。
焚石…
そうだな、もう一回やり直そうな
棪堂は背中の温もりに慰められ、しっかりとした足取りで前に進んだ。

蘇枋たちが学校に着くと、桜と梅宮が保健室で横になっていた。
先に来ていた柊が二人の手当てをしてくれていた。
「よかったぁ桜さん。無事でよかったです」
楡井が一番に桜に抱きつく。
「さくらぁ〜」
クラスメイトたちも桜のベッドに押し寄せる。
「もう少し声抑えろよな」
騒がしい後輩たちに、柊が苦笑いを浮かべてそばで見守る。
「楡井いったん離れろ!さっきから痛えんだよ」
「え、あ、す、すみません!」
桜の腕にしがみついていた楡井は慌てて手を離した。
「ぐはは〜楡井は桜が大好きだな」
「お前もだろ」
「もちろん」
「桜、お前が無事で本当に良かった」
「そんでありがとな」
「お疲れさま」
1-1全員の笑顔が桜に向けられる。
桜はくしゃっと笑って目元を拭った。

「いいクラスだな」
「はい」
隣のベッドで微笑み浮かべる梅宮。
その横で蘇枋と桐生、柘浦は笑顔で大きく頷いた。

「なあ、重くねえ?」
蘇枋におぶられて家に向かいながら桜が心配そうに聞く。
「大丈夫だよ。桜君軽いから」
蘇枋は何でもないという風に桜の背中をポンと叩く。
安心したのか、桜の力が抜けたのが伝わる。
「疲れたでしょ。眠ってもいいよ」
「…あぁ、眠い…けど、蘇枋だって疲れてる?」
「ふふ、俺は大丈夫だよ。桜君の顔見たら全部吹き飛んじゃった」
「何だよそれ」
呆れたように桜はふっと息を漏らす。
蘇枋の背中がだんだん心地よくなってくる。
「あぁ、見て見て!虹だよ」
蘇枋の明るく透き通った声。
見たいのに重い瞼が上がらない。
もう限界…でも意識が飛ぶ前にこれだけは伝えたい。
「すお…ありがとな」
つぶやきとともに、桜の頭が蘇枋の肩に寄りかかる。
蘇枋は微笑む。
大事な人のそばに最後まで自分がいられることが嬉しかった。



いいなと思ったら応援しよう!