蘇枋が小さくなった夢を見た杉下の話

ガンっ
大きな音とともに屋上の扉が開き、楡井が慌ただしく走ってくる。
「杉下さん!」
なんだよ急に…
目の前に楡井がやって来た。
「はい、蘇枋さんを頼みますね。オレは見回りがあるので」
「はっ?!!」
今、オレの手のひらに超チビっ子の蘇枋がのっている。
何で!!?
なんで蘇枋がちっさくなってるんだ??
オレが聞く間も与えず、楡井は頼みますよと去っていってしまった。
手のひらの蘇枋はあまりにも小さすぎる。
ん?
チビ蘇枋が両手を上げて口をパクパク動かしている。
なにか言ってるのか?
全然聞こえないから耳元まで蘇枋がのった手を持ち上げて声を聞く。
「杉下君、畑いじってたのに邪魔してごめんね」
声と喋り方はいつもの蘇枋だ。
中身は変わっていないのか。
「お前、なんで小さくなったんだよ?」
目と鼻の先にいる蘇枋に聞くと、蘇枋は笑顔で答える。
「さあね、オレにもわからないよ。そんなことより、杉下君…ちょっと顔近すぎるかなあ。びっくりしちゃうから肩に乗せてくれるかい?」
言われて咄嗟に蘇枋がのった手を顔から離す。
20cmくらいの蘇枋からしたらオレは超巨人に見えるらしい。
「…わりい」
肩の横に手を持っていくと、小さな蘇枋がひょいっとオレの肩に移動した。
顔のすぐ横に蘇枋がいる。
なんだこれ…
くすぐったい
「わぁ〜杉下君の身長だとこんなに高いんだね。なんか新鮮だなあ、この眺め」
耳元で蘇枋が喋ってる。
「落ちるなよ」
こんなに小さいとすぐに転がってしまいそうだ。
「じゃあ、座らせてもらうね」
言いながら蘇枋がちょこんと肩に座る。
オレの目には蘇枋のちっこい脚だけが見えている。
「もう動いて大丈夫だよ」
今までにない近い距離で話す蘇枋の声に、思わず肩が跳ねる。
「あはは、杉下君緊張してる?」
「…なんか変。こんな近くにお前がいるの…変」
「まあ、そうだね。落とさないでね」
「…おう」

また畑をいじり始めたオレに、蘇枋が話し出す。
「ねえ、杉下君。オレ、体戻す方法知ってるんだけど協力してくれる?」
協力?
「オレが必要なのか?」
「うん、杉下君じゃなきゃダメなんだ」
確信を持った言い方に疑問を感じるが、とりあえず続きを聞く。
「で、何だよそれは」
「うーんとね、ただ目を瞑ってくれたらいいよ」
「それだけか?」
「うん、それだけ。あ、でも後で絶対怒らないでね」
約束だよと言われ、俺は何が何だかさっぱりわからないがわかったと言う。
「じゃあ目を瞑ってね」
言われて、ふと思う。
ちっこい蘇枋とこれでお別れなのか
少し寂しい気がして俺は咄嗟に聞く。
「なあ、もう一回お前の顔見ていい?」
「うん、いいよ」
手のひらに蘇枋をのせて、ゆっくりと顔の前におろす。
小さい蘇枋はいつもの笑顔で俺を見上げた。
普段と変わらない表情なのに、小さいだけでやっぱり可愛く見える。
「あはは、杉下君見すぎ。満足?」
「おう…」
「またすぐ会えるよ」

目を瞑ると手のひらで蘇枋がちょこちょこ歩き、俺の顔の前で止まったのがわかる。
「怒らないでね」
その言葉ととに、俺の頬は蘇枋の小さい手に包まれ、優しく口付けされた。
びっくりして目を開く。

「やっと起きたね」
通常サイズの蘇枋が俺を覗き込んでいた。
驚いて体を起こすと、そこは教室で俺はどうやら机に突っ伏して寝ていたらしい。
「杉下君起きないから、みんな見回りに行っちゃたよ」
教室には俺と蘇枋しかいない。
「なんでお前がいるんだ?」
「いやあ〜オレも行くつもりだったんだけど、杉下君が寝言でオレの名前呟いてるのが聞こえてさ」
嘘だろ!?
なんかまずいこと口走ってたらどうしよう。
チビ蘇枋との事を思い出すと、不安になってくる。
「なんか楽しい夢だったみたいね」
蘇枋は楽しむようにニコニコ笑っている。
本当に何も知らないんだよな?
何もかも見透かされていそうで怖くなる。
「俺たちも見回り行こうか」
「‥‥‥おう」
その後、杉下は蘇枋と歩きながら質問攻めに合うのだった。




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