棪堂宅を訪れた級長トリオ+杉下
真ん中に立つ桜の横で、蘇枋、楡井、杉下の3人が目の前の家を見上げた。
「ここが棪堂さんの家?」
「…みたいだな」
桜は棪堂からスマホに送られてきた地図と、目の前の豪邸を交互に見ながら答えた。
「すごい大きな家…」
「レンガ造りで煙突までついてますね」
「庭がでかい……」
「桜君、そろそろピンポン押そうか」
蘇枋に促され桜が玄関のインターホンを鳴らすと、すぐに棪堂の声が聞こえてきた。
「よお、桜!やっと来たか‥‥‥‥って、待て!なんか人多くねえか!?」
中から桜たちの様子が見えるのか、棪堂の慌てた声がしたがすぐに音は途切れた。
代わりに棪堂が勢いよく玄関から飛び出してきた。
「何でお仲間がいるんだよ」
クラスメイトを見た棪堂の顔にわかりやすく失望の色が浮かぶ。
「コイツらが勝手について来たんだ。まずかったか?」
棪堂には理由もなく家に来いとだけ言われていたから、桜は何も気にしていなかった。
棪堂のショックを受けた顔を見ると、桜は少しだけ申し訳ない気持ちになった。
「まずいも何も…桜が一人で来ると思ってたから楽しみにしてたのによぉ…」
棪堂は邪魔者を見るような目でクラスメイトを睨んだ。
「そんな顔しないでくださいよ。桜君が心配でついて来ただけですから」
蘇枋は胡散臭い笑顔で棪堂に言った。
「またお前かよ。金髪ものっぽもいるじゃねえか。お前らは桜の保護者なんのか?毎回邪魔しやがって」
棪堂は本当に嫌そうな顔をしている。
「つか、結局何の用だ?自宅まで呼び出して」
桜が棪堂を見て聞くと、棪堂は少し目を逸らして言った。
「あぁ……バーベキューしようと思って」
「「バーベキュー?」」
思いがけない答えに、みんなが口を揃えた。
「桜は肉が好きだろ?だからたくさん焼いてやろうと思ってよ」
そう言う棪堂はどこか恥ずかしそうに、後頭部に片手を回した。
「お、オレのために用意してくれたのか?」
「そうだ。桜のためにいい肉買ってきたんだぜ‥‥‥」
「そ、そうなのか」
桜と棪堂は恥ずかしいのか、目を合わせない。
その後ろで蘇枋と楡井は顔を合わせて笑った。
「なんか俺たち勘違いしてましたね」
「だねえ。健全な理由でよかったです」
蘇枋の言葉に棪堂の目がまた鋭くなる。
「お前らオレを何だと思ってるんだ。わかったらとっとと帰れよ」
ちょうどその時、焚石が玄関の奥から現れた。
ただ歩いているだけなのに、ピリッとした空気が流れた。
「お前……屋上にいた奴か」
桜の前に来た焚石は瞬きせずに桜の顔をじっと見つめた。
あの時焚石は桜に目もくれず屋上を後にしたが、どうやら顔は認知されていたようだ。
「オレは桜遥だ」
とりあえず名前を教えると、焚石は繰り返し呼んだ。
「……桜遥」
「オレを倒した男だよ焚石」
棪堂は顔をにんまりさせて桜と焚石を眺めている。
「こいつらはオレのクラスメイトだ」
桜が後ろに立つ蘇枋たちを紹介すると、焚石が一人一人順番に視線を向けた。
「蘇枋隼飛です」
「に、楡井秋彦です」
「‥‥‥杉下京太郎だ」
3人が挨拶し終わると、焚石が杉下の前に進み出た。
「背が高いな。梅宮より高い……」
言われて杉下はさらに眉間にしわを寄せて焚石を見下ろす。
「梅宮”さん”だ」
「あはは、杉下君すごいね。焚石さん相手にも言い返せるんだあ」
「は?何だこいつ。喧嘩売ってんのか?」
棪堂は杉下を睨みつける。
「杉下君は梅宮さんを崇拝してるんです。なのでお二人も杉下君の前で梅宮さんの話をする時は気をつけた方がいいですよ」
「あ?生意気言ってんなよ。焚石に歯向かう奴は容赦しねえぞ」
棪堂が一歩踏み出すと、焚石が片手をあげて制した。
「梅宮のこと詳しいのか?」
焚石に問われた杉下は黙っているので代わりに蘇枋が答える。
「梅宮さんの話を聞きたいなら彼に聞くといいと思います」
そう言って蘇枋は楡井の肩に手を置いた。
「にれ君は情報通なので梅宮さんの面白い話をたくさん聞けると思いますよ。ね?」
楡井は困った顔で蘇枋と焚石を交互に見た。
「そ、そんな言うほどでもないです。焚石さんの期待に答えられるかわからないですし‥‥‥」
「構わない。梅宮の知ってることを聞かせてくれ。中に通す。ついて来い」
まさかの展開に焚石が歩き出しても誰も動かない。
それに気づいた焚石が振り返ってみんなを見つめる。
「どうした?」
「‥‥‥はあ、気に食わないけど焚石が言うなら仕方ねえ。お前ら行けよ」
棪堂は悔しさを滲ませた顔で蘇枋たちを促した。
その後、蘇枋たちは何やかんやで棪堂たちとBBQをした。
楡井が一人芝居のように梅宮について熱く語るのを、杉下と焚石は熱心に聞き入っていた。
その横で、蘇枋はせっせと肉を焼いていた。
棪堂と桜は蘇枋が焼いてくれた肉を食べながら、みんなの様子を眺めていた。
「アイツすげえな。弱っちく見えて案外よく喋るのな」
棪堂は感心した顔で楡井を見ていた。
「‥‥‥おれもアイツが生き生きと話してるの久しぶりに見たわ」
「んで、あの眼帯君はいつもあんななのか?」
棪堂に言われて桜は蘇枋を見た。
楡井のマル秘ノートを覗き込む杉下と焚石に、蘇枋が何やら冗談を言ったのか二人は驚いた顔をしていた。
「蘇枋はまあ確かに‥‥よくわからない奴ではある。冗談ばっかり言うし、ヘラヘラしてるし。いつも揶揄ってきてムカつくな」
「へえ〜楽しそうだな」
珍しく穏やかな表情を見せた棪堂に桜はふと思いついて聞く。
「お前って学校行ってないの?」
「オレ?行ってないけど」
突然自分の話を振られて驚いたのか、棪堂は目を丸くして桜を見た。
「風鈴には戻ってこないのか?」
「え」
何気なく言った桜の質問に、棪堂は呆然としていた。
「もしかして、俺に戻ってきてほしい‥‥‥とか?」
「まあ、梅宮は喜ぶだろうな」
「はっ、梅宮かよ!」
「でもお前がいる風鈴も楽しそう‥‥‥」
言い終わらないうちに棪堂が桜に抱きついた。