焚石の寝顔
オレの朝は焚石を起こすことから始まる。
意外なことに焚石は朝が弱い。自分で起きることは滅多にないからいつの間にかオレが起こすようになった。
コンコン…。
焚石の部屋のドアをノックして入る。カーテンの締められた部屋は暗くて少し涼しい。なんだか物音を立ててはいけない雰囲気があり、オレは静かにベッドに近づく。背中を丸め、左手で頭を覆って寝ている焚石。顔は見えない。わずかに寝息が聞こえる。
「たきいしー、朝だよ」
オレは焚石の頭のあたりにしゃがんで声をかけた。反応はない。
いつも大体こんな感じだ。一回声をかけただげでは焚石は起きない。オレとしては寝ている焚石を見られるからありがたいんだけど……
もう少し寝かせておこう。そう思ってオレはベッドの淵に背中をつけて腰を下ろした。
(すーうすーう……)
静かな部屋の中で焚石の寝息だけが微かに聞こえる。なんだか赤ちゃんみたいで面白い。振り返って焚石を見る。
つい触れたくなって顔に手が伸びる。顔にかかった前髪を耳にかけると目元が見えた。長い睫毛が目の下に影を落としている。美しかった。焚石の寝顔はただただ綺麗だった。ずっと見てられる。
軽く閉じられた瞼がいつ開くのか。その目が開くまでオレはずっと待ってられた。
「焚石……。」
オレはそっと名前を呼ぶ。応えるように目元が緩んで見えたのはオレの気のせいだろうか。