君、そういう顔もするんだね
「それじゃあ、桜さんを迎えに風鈴に戻りましょうか」
「おー!」
「待ってろよ、桜!」
梅宮が勝ったという報告を受け、橋にいた風鈴の生徒たちは学校に向けて歩き出す。
十亀も後ろから彼らについて行くことにした。
商店街にいる丁子を迎えに行くためだが、やっぱり一人だと道に迷ってしまいそうで、風鈴の子達がいれば安心だ。
勝利に喜ぶみんなの声を聞きながら歩いていると、ふと十亀の後ろを歩く者の気配がして振り返る。
視線の先には蘇枋がいた。
「あれぇ〜?何で君がここにいるの?」
先頭を歩く金髪君と一緒にいるイメージがある彼が、今は仲間と一番離れた場所にいる。
どうしたんだろう?
ゆっくり近づいてくる蘇枋の歩き方を見て、十亀はまさかと思って聞く。
「もしかして足怪我してる?」
その言葉に、蘇枋は困っような顔で笑う。
「気づかれちゃいましたね」
右足を軽く引きずるようにして十亀の前にきた蘇枋が言う。
「実は、さっきの戦いで軽く足を捻ってしまって。歩けるので大したことないんですけどね」
そう言って、十亀を安心させるためか、蘇枋は右足のズボンを少し持ち上げてみせた。
くるぶしが顔を出すが、腫れてるようには見えなかった。
本人が言うとおり、大丈夫なのだろう。
「そっかあ。なら俺とゆっくり歩いて帰ろうか」
蘇枋と二人で話したことはないが、この機会にせっかくならばと十亀が言う。
「ああ…」
たぶん気を遣っていると思われているのだろう。
蘇枋は迷っているみたいなので、十亀が言う。
「俺はのんびり歩くのが好きだから気にしなくていいよ。あと、君と話してみたいしねえ」
十亀の言葉に安心したのか、蘇枋は小さく笑う。
「ありがとうございます」
「うん、行こうか」
蘇枋のペースに合わせて歩き出す。
風鈴の子達とはだいぶ距離が開いていたが、十亀はそれが逆に良いと感じた。
周りを気にしないで話せるからかな。
「そういえば、キミの相手強かったの?」
蘇枋が足を捻ってしまったのは、それなりに苦戦したからなのではないかなと十亀は思った。
「あぁ、相手は大したことなかったです。ただ、弟子に気を取られてちょっと油断したという感じです」
「弟子がいるんだあ」
「はい」
ちらりと蘇枋を見ると、嬉しそうに微笑んでいる。
それ以上話す気はなさそうだが、十亀はなんとなく察しがついていた。
たぶんあの金髪君のことだよね…
「キミたちって副級長だよね?」
蘇枋の反応が見たくて、つい狡い聞き方をしてしまう。
十亀の言葉に、蘇枋は一瞬目を丸くするがすぐに笑顔に戻って言う。
「十亀さん、わかってるなら遠回しに聞かないでくださいよ」
「ごめんねえ。ちょっと君の反応が見たくて」
「いじらないでくれますか?」
ムッとしたのか、笑顔のまま蘇枋が十亀を見上げた。
少しの間至近距離で見つめ合う。
瞳が綺麗だな…
なんて思っていると、蘇枋の視線がそれていく。
十亀の肩のあたりに、さっき自分を見つめていた瞳と同じ色の頭があり、十亀は無意識に蘇枋の髪に触れていた。
「え?」
蘇枋が頭を上げると同時に、十亀はぱっと手を離す。
何してるんだ俺は…
「ごめんね…」
咄嗟に謝るが、言い訳になるような言葉が見つからない。
視線を感じて蘇枋を見ると、また赤い瞳と目が合う。
その顔は笑っていなくて、でも、怒っているようにも見えない。
わからないなぁ…
「怒ってないですよ」
十亀の気持ちを察したように、蘇枋が言う。
「そっかあ」
言いながら、もう一度蘇枋の頭を撫でた。
バカだと思う。
謝ってるのに、また繰り返すなんて。
でも、直感でいけると思った。
蘇枋は怒らない。
「何なんですかもう…」
ほら…
蘇枋は十亀の手を振り払うことなく、頭を撫でられている。
その顔は少し赤く染まっていた。