甘えたな桜君
「お邪魔します」
街の見回りが終わった放課後、オレは桜君家に来ていた。帰り道が同じということもあって、ちょくちょく桜君家にお邪魔することが増えた。
別に何をするでもない。雑談したりお茶を飲んだり。級長・副級長ということもあり、普段学校でゆっくり過ごすのは難しいため、こうして二人きりでのんびりできるのは悪くない。
いつものように桜君の布団に腰を下ろした。桜君も隣に座るかと思いきや、間髪を入れずにオレを押し倒してきた。
「え〜、どうしたの桜君??
びっくりした〜」
オレはされるがままに抵抗しない。オレの上に覆い被さるように、桜君が体をそわせてくる。
いつものキリッとした目が、僅かだが、とろんと垂れ目になっている気がした。返事がないので、顔をグッと持ち上げてみる。
オレと目が合うと恥ずかしそうに目を逸らす。
(可愛い……)
なんとなく、甘えたいのかなっと思い、桜君の好きにさせてみた。
そしたら、急に学ランを掴まれその下に着ているインナーに手を伸ばしてきた。そのままグッと持ち上げ、隙間から手を入れる。
温かい手がオレの皮膚に触れた。その手は思った以上に熱かった。
「桜君、君ほんとうににどうしたの?
そんなとこ触って」
桜君はオレの腕の下に顔を埋めてしまっている。
「………〜〜ーー」
「なんて??」
何か呟いているが全然聞き取れなかった。
そのままでいると、桜君の手がペタペタとオレの腹を触ってくる。熱い手が動くたびにオレの体は電気が走ったかのようにゾワっとする。
「桜君……??」
呼びかけると、顔をこっちに向けてくれた。さっきより目がとろんとしている。
「お前の体、体温低くてきもちい……」
「そ、そう……?」
予想外過ぎてもう仰天だった。
オレはそのまま仰向けで天井を見た。その間も桜君の手はオレの腹筋をなぞるように触る。人差し指で凸凹の腹筋を上から下に撫でられると、ちょっとくすぐったい。不思議と嫌ではなかった。
動きが止まり、シャツから手が抜けた。桜君はオレの腕の下に顔を埋める。オレはその頭を優しく撫でる。白と黒の綺麗なツートンヘア。細くてさらさらとした髪の毛を掬うと、すぐに流れていく。
「蘇枋の匂い、落ち着く………好き……」
おもむろに桜君が口を開く。
「日向のような温かさがあって、なんだか眠くなってくる。」
「ふふふ……眠ってもいいよ」
オレは嬉しくなって言った。こんなにフニャッとした桜君を見たことがなかった。甘く可愛くて猫みたいに戯れてくる。オレはとことん甘やかしたい気分になった。
どれくらいそうしていただろう。桜君が静かになり、ほんとうに寝てしまったのかなと思い声をかけてみる。
「桜君……?」
「う……んっ」
一応返事はあった。
「今日の桜君は甘えただね。オレびっくりしちゃったよ。こんなに懐いてくれるんだもん」
今なら何を言っても怒られない気がして言ってみた。
桜君は「う……んっ」ともう一度唸り、顔を上げた。ずっと顔を埋めていたせいか、ほんのり赤く染まっている。綺麗なオッドアイの目はクシャと垂れ下がっている。
(可愛いな……)
オレは目の前にある頭を軽く撫でる。
するとどこからともなく伸びてきた桜君の左手が、オレの眼帯に触れる。
オレは一瞬ビクッとしてしまう。
桜君はそれを取ろうとするでもなく、ただ上からそっと指でなぞるように触っている。
「こーら。そこはダメ」
オレは桜君の左手を軽く離す。すると再び腕の下に顔を埋めてくる。今度は頭をぐりぐりと押し付けてきた。オレがそっと撫でてやると大人しくなる。
(本当に猫みたいだ……)
「桜君、かわいいね」
つい思ったことが口から出てしまった。
怒られるかなと思って身構えたが、桜君はオレの服の裾をクイっと引っ張っただけだった。
そしてゆっくりオレを見上げて言った。
「お前にしか甘えねーよ」
(えっ!?待って!待って!待って!)
(可愛すぎる!!!!)
「桜君、それは反則だよ」
そう言って、可愛い桜君をぎゅっと抱きしめた。