友達の友達というだけなのに…

蘇枋は楡井の友達
だから楡井から蘇枋のことは色々聞いている。
喧嘩が強いこと、喧嘩のスタイルはオリジナル、
カンフーシャツが好きで私服はカジュアル系、草食で洋菓子とお茶が好きなど…
そうやって楡井がたくさん蘇枋のことを話してくるせいか、俺は蘇枋のことを無自覚に目で追っていたらしい。

廊下ですれ違ったとき、ばっちり目が合う。
向こうも俺のことを知っているはずだから、愛想のいい笑みを浮かべて見てきた。
顔が熱くなるのを感じながら、蘇枋の前を通り過ぎる。
廊下の角を曲がるまで背中に視線をずっと感じていた。
なんだろう…この感覚
体が熱くて息がしにいく。
蘇枋を見つけると気づいたら目で追っていて、逆に目が合うと緊張して逃げたくなる。
今だってそう。
早足で蘇枋の前を駆け抜けてきてしまった。
蘇枋は楡井の友達
それだけのことなのに、どうしてこんなに自分が乱されるのだろう。
この感覚がわからない

「今日蘇枋さんと帰るんですけど、桜さんも一緒に帰ります?」
日誌を書き終えて伸びをしていた俺に楡井が声をかけてきた。
「あいつも…いるのか?」
嬉しさと戸惑いの半々。
蘇枋と話してみたい。
仲良くなりたいとも思う。
でも…ちょっと怖い。
蘇枋が俺のことをどう思ってるかわからないから。
「蘇枋さんは優しいので大丈夫ですよ」
俺の心を察したように楡井は微笑んでいた。

「にれ君、帰ろう」
教室の扉から蘇枋が顔を覗かせている。
「あ、蘇枋さん来た!さ、桜さんも」
楡井が俺の腕を引っ張るので、俺も立ち上がった。
「やあ」
蘇枋の前に来ると、穏やかに笑みを浮かべて俺を見る。
「…おう」
ついぶっきらぼうな返事をしてしまった。
楡井は俺と蘇枋を交互に見ながら顔を輝かせている。
「っんだよ!その顔は」
「だって、嬉しくて…」
楡井は俺に叩かれた頭をさすりながら声を震わせる。
「にれ君、ずっと3人で帰りたいって言ってたもんね」
蘇枋は笑って楡井を見ている。
知らなかった…
俺は恥ずかしくなってズカズカと歩き出す。
「あ、待ってくださいよ桜さん」
「あはは」
蘇枋の笑い声をこんなに近くで聞いて、俺の体は熱くなっていた。

楡井と別れてから、蘇枋と俺は二人きりで歩いていた。
「日が暮れるの早くなったねぇ」
蘇枋が空を見ながら呟く。
「だな」
俺も薄暗い空を見上げる。
暗くてよかったと思う。
緊張で蘇枋をはっきり見られないし、何より自分の体温が高い。
動揺を悟られないように小さく息をはいた。
「そんなにガチガチにならないでよ」
「なっ!」
チラッと隣を見ると、蘇枋が可笑しそうに笑っている。
「君が俺のことをずっと見てたのは気づいてたよ」
蘇枋の言葉に、俺の心臓は飛び上がる。
全部バレてた…
恥ずかしくて顔が赤くなるのが自分でもわかる。
「なんか…すまん。変なことして…」
蘇枋の声色からマイナスな感情は読み取れなかったけど、自分の行動をなんと言っていいのかわからないからとりあえず謝った。
「あはは、いいんだよ気にしなくて。俺だってずっと君と話したかったし」
何でもないようにそう言った蘇枋。
その言葉が俺にとってどれだけ嬉しいのか、きっとわからないと思う。
「どうしたの?」
俺が立ち止まって黙ってしまったので、蘇枋は顔を覗き込んでくる。

その瞬間、蘇枋のいい匂いがふわっと漂う。
さっきからほんのりと香っていたけど、今この一番近い距離で強く鼻をくすぐる。
匂いが良すぎて鼻から息を吸ってしまう。

顔を上げると蘇枋がきょとんとした顔で俺を見ていた。
「あぁ…わりい。行くか」
気まずいから歩き出そうとしたけど、蘇枋がどいてくれない。
「…んだよ?」
顔を上げると蘇枋はハッとしたように前を向いた。
「あぁ、えっと…何でもないよ」
どこか動揺しているように見える蘇枋と、少し落ち着きを取り戻した俺はまた歩き出す。

「蘇枋、これからよろしくな」
「うん、こちらこそよろしく桜君」
前を向いたまま互いにそうつぶやいて別れた。

桜と蘇枋は一人歩きながらため息をもらす。
…いい匂いしたなぁ


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