意外と不器用だよねぇ
街の見回りをしながら蘇枋は体がだるくなっていた。
あ…しんどい
もう無理かも
前を歩く桜と楡井との距離がどんどん開いていく。
このまま消えてしまおうか。
ここで声を出せば二人が心配して駆け寄ってくれることはわかってる。
でもそんな心配かけたくない。
だから…何も言わずに路地裏に入った。
はあ…
一人になって息を吐く。
目眩がひどい。
貧血だった。
普段あまり食べてないせいで栄養が足りてないのだろう。
壁に寄りかかって呼吸を整えていると、足音がする。
見れば獅子頭連の十亀が路地裏に入ってきた。
「大丈夫?」
いつもの穏やかな表情をしている。
「な、何であなたが…?」
「お散歩してたら君たち3人が見えたから声かけようとしたんだよねぇ。そしたら君だけこんな所に入ってくからどうしたんだろうと思ってえ」
まさか知り合いに見られてたなんて、蘇枋は思いもしない。
「体調悪いの?」
十亀は近づいて蘇枋の顔を覗き込む。
「ちょっと目眩がして…休憩してただけです」
「そっかぁ」
言いながら十亀も蘇枋と同じように壁に寄りかかって立つ。
「あの…オレのことは気にしなくて大丈夫なので」
何だか十亀を引き留めてしまっているようで悪い気がした。
「ちがうよ〜俺が君といたいだけ。でもまあ、いない方がいいならどこか行くねぇ」
そう言って十亀は蘇枋を見た。
その瞳はどうする?と聞いているようで
「十亀さんがいいなら居てくだ…ほしいです」
なぜかそう答えていた。
普段ならこんな自分を他人に見せたくないのに。
見上げると、十亀は優しい眼差しをしていた。
「君って人に甘えるの苦手そうだよねぇ」
「はあ?」
突然何を言い出すんだ。
十亀は変わらず穏やかに微笑んでいる。
「体辛かったら辛いって言えばいいのに。今頃桜たちは必死になって君のこと探してるんじゃない?」
そのとおりだ。
俺のせいで二人に心配をかけてしまってる。
もう行かないと。
歩き出そうとすると、腕を掴まれた。
「大丈夫だよ。君のことは桜に連絡しておいたから」
そう言って十亀はスマホを見せてきた。
蘇枋は驚いて思わずふっと笑ってしまう。
「……抜かりないですね」
「褒めてるのぉ?」
「…はい」
十亀と一緒にいるという連絡が二人に届いていることに安心し、蘇枋はまた壁に寄りかかった。
気持ちに余裕ができたせいか、体も楽になった気がする。
「飴、なめる?」
十亀がポケットから飴を取り出して差し出してきた。
返事もしてないのに蘇枋の手に飴が置かれた。
十亀が飴を口に入れたので、蘇枋も何となくもらった飴を舐めた。
黒飴だった。
美味しい…
ふわふわした頭に、甘い糖分が沁みた。
「よかったぁ。気に入ってくれたみたいで」
気づかないうちに十亀が蘇枋の顔を覗き込んでいた。
顔が緩んでいた蘇枋はびっくりして目を逸らした。
「もう大丈夫そうだね。俺、桜たち呼んでくるからここで待っててよ」
そう言って十亀は行ってしまった。
少しして路地裏を出ると楡井と桜が向こうから駆けつけてきた。
その後ろから十亀がのんびり歩いている。
「蘇枋さん、心配したんですよ」
「ほんとにな。勝手にどっか行きやがって」
そっぽを向く桜も心配してくれたみたいで、蘇枋は素直に謝った。
「ごめんね迷惑かけて」
「別に‥‥迷惑ではないけど。十亀に聞いても何も教えくれないからわかんねえけど、体調悪いなら言えよな」
言いながら桜はスタスタ歩いて行ってしまう。
「あ、桜さん!待ってください」
楡井も走って桜を追いかける。
蘇枋は振り返って十亀を見た。
「あの‥…‥さっきはありがとうございました」
俺のことを気遣って二人には詳しいことを話さないでくれたのだろう。
桜君にはバレてたけど。
「また置いてかれちゃうよぉ」
十亀の視線の先で、桜と楡井が振り向いて自分を呼んでいる。
蘇枋は走って二人の元に向かった。
大人っぽく見えて案外不器用なところもある。
そんな蘇枋の一面を知れて十亀は嬉しく思った。
それと同時に、蘇枋と桜が本質的に似ているような気がして、でもはっきりとはわからないからまあいいかと、温かい気持ちのまま帰路についた。