二人三脚
桜たちは体育祭に向けて、校庭で二人三脚の練習をしていた。
「ちょっ、桜君速すぎ!止まって」
急ブレーキをかけた桜の横で、蘇枋が転びかける。
「もう急に速くなるのやめてよ」
「いいだろ別に。お前ついて来れるじゃん」
「ついてかないと事故るからだろ」
「俺について来れば問題ねえ」
「勘弁してよ」
蘇枋は膝に手をついて息を切らしている。
「お疲れさまです」
「二人とも速かったねえ」
傍観していた桐生と楡井が、蘇枋と桜に近づいて声をかける。
「桐生君、俺と代わろう。俺もう桜君についてけないよ」
珍しく蘇枋は弱腰だ。
「そんなことないでしょ。なんだかんだ言って、ぴったり足揃ってたよ」
桐生が笑って言うと、蘇枋はため息をついた。
「あ!」
ちょうどその時、梅宮&柊ペアが桜たちの前を駆け抜けた。
「はや!」
「なんだあのスピード」
「さすがっすね」
「よし、俺らもアレくらい目指すぞ」
桜はやる気に満ちている。
「無茶言わないでよ。オレは無理」
蘇枋は諦めモードだ。
「いや、いける。俺はいける」
「俺が無理なの」
「やってみねえとわからないだろ。ほら立て」
「えー、まだ休憩したい」
しゃがんでいる蘇枋の腕を桜が引っ張りあげる。
桜が歩き出すので蘇枋もしぶしぶ歩き出すしかなかった。
「アハハ、おもしろ〜すおちゃんが桜ちゃんの言いなりになってる」
「いつもと立場が逆転してますね」
桐生と楡井は二人を見送りながら楽しそうに笑った。
「なあ、梅宮たちのところまで走ろうぜ」
「オッケー。って、速い‥‥‥まって」
桜は蘇枋の返事も待たずに走り出すので、蘇枋はとにかく桜の脚に合わせるしかなかった。
「おお!桜と蘇枋じゃん」
走ってくる桜たちに、梅宮が手を振る。
「お前らがペアなんだな」
「調子はどうだ?」
息を切らす蘇枋を横目に見ながら柊が聞く。
「まあいいんじゃね。俺はもうちょい全力で走りたいけど」
「ふうん、桜はまだまだ余裕そうだな」
「もうこれ以上無理だからね、桜君」
蘇枋が伸びをしている桜を見つめて訴える。
「いや蘇枋、お前ならまだいける。まだ本気出してねえだろ」
何をもってそう思ったのか、真顔の梅宮が蘇枋の肩に手を置いて言う。
「だよな、俺も思ってた。本気出せよ蘇枋」
桜も梅宮に並んで真剣な目で蘇枋を見る。
「柊さん‥‥‥」
蘇枋は思わず柊に助けを求めた。
「蘇枋、お前の気持ちはよくわかる。でも悪いな。オレもお前の本気が見たい」
「ええ‥‥?!」
柊までそっち側に行ってしまった。
「つーわけで、俺らと勝負しようぜ」
「勝負?」
「本気の二人三脚だ」
梅宮と柊が肩を組む。
「ふっ、おもしれぇ」
桜にスイッチが入る。
あらら‥‥‥勘弁してよ
「蘇枋、やってやろうぜ」
「桜君、これまだ本番じゃないんだよ」
もう手遅れだと思いながらそう呟く。
「この二人に勝てば俺らの優勝は間違いねえだろ」
桜はニヤッと笑った。
もう何を言っても無駄だ。
「じゃあ、あそこにいる楡井たちのところまでな」
桜たちが走る体勢に入ったのに気づいて、楡井と桐生が手を振っている。
「蘇枋」
しゃがんで紐を締め直す蘇枋に桜が声をかける。
「なに」
顔を上げずに蘇枋が聞く。
「お前が本気出したらご褒美やるよ」
蘇枋の耳元でそう囁かれた。
ばっと顔を上げると、桜はニヤッと笑って蘇枋を見下ろしている。
「準備はいいか?」
梅宮と柊が横で待っている。
蘇枋は桜の腕を引っ張って顔を近づけて聞く。
「ご褒美って何?」
「お前が俺に望むものだよ」
即答だった。
はは、なんだよそれ
俺が桜君に望むものなんて一つしかない。
わかって言ってるのか知らないけど
隣に立つ桜の服をギュッとつかむ。
「桜君、後でどうなっても知らないから」
「ふっ、望むところだ」
透き通った目が蘇枋を見る。
もういい 本気で走ってやるよ
「位置について、よーいドン!」