本当は俺も一緒に食べたい…

帰り道、桜は楡井と蘇枋と川辺を歩いていた。
後ろから「いしや〜きいも〜」と懐かしい音が流れてくる。
「焼き芋屋さんだ!」
「もうそんな季節かぁ」
振り返ると、焼き芋の幟を付けた軽トラが近づいてきた。
「よっ兄ちゃんたち!ちょうど焼き立てがあるんだ。食べるか?」
おっちゃんが窓越しに声をかけた。
「い、いんですか?!」
「もちろん。甘くて美味しいんだ。おまけしとくな」
おっちゃんは荷台に取り付けた窯から焼き芋を数個、袋に入れてくれた。
「「ありがとうございます」」

「うわぁ〜焼き立てですよ!桜さん」
楡井が袋から一つ取り出して桜に渡した。
「俺、焼き芋食べたことない」
「そうなんですか?!美味しいですよ」
「かじっていいのか?」
「もちろん」
桜は手に持った焼き芋をじっと見つめる。
半分こしたい。
「桜さん?」
「にれも…」
桜は焼き芋を半分に割ったが全然綺麗に割れなかった。
「あはは、桜君下手だなあ」
「わ、悪かったな…熱いから仕方ねえだろ」
「はい、ちょっとこっち貸してね」
蘇枋が桜の手から大きく割れた方をもらって半分にした。
片方を楡井に、もう片方を桜に渡す。
「こっちは俺が貰うね」
一番小さいのは蘇枋の手にわたる。
「え!蘇枋さん、焼き芋は食べるんですか?!」
「ダイエット中じゃねえのかよ」
「焼き芋は野菜だからね。食べていいんだよ」
「は?」
にっこり笑う蘇枋は、冗談か本気かわからない。
「桜君こそ、焼き芋食べれるの?これ野菜だけど」
「なんか甘い匂いするし、いけるだろ」
そう言って桜は一口かじった。
「あつっ!うまっ!あまっ!」
「はははぁ、よかったあ」
楡井も嬉しそうに焼き芋を食べた。
蘇枋は焼き芋を持ったままだ。
「すお…食べないのか?」
「ああ…やっぱり俺はいいや」
桜の空いた手に蘇枋が自分のを渡す。
「は?食べないのかよ」
「俺もうお腹いっぱいだからさ」
「いや、お前一口も食べてないだろ」
「いいのいいの」
蘇枋はいつもの笑顔だ。
さっきほんの一瞬蘇枋の顔が暗く見えたのは気のせいか?
結局食べないのかと、桜は少し残念に思いながら蘇枋の分も食べた。


その夜、蘇枋は一人ソファに座っていた。
目の前のテーブルには桜と楡井に持たされた焼き芋が置いてある。
せっかく美味しいからと、残りを全部蘇枋にくれたのだ。
多分、普段食べない俺がちょっとでも食べようとしたことに喜んでくれたんだと思う。
確かに、あの時食べるつもりでいた。
なんとなく二人の前なら大丈夫な気がしたんだ。
でも、結局はできなかった。
はは、馬鹿だなオレ…
もう人前で食べることは諦めたのに。
二人といるとつい、本当の自分を忘れてしまう。
浮かれてるんだ。
二人がいても…
結局俺はずっと変われない。

二人の笑顔が浮かぶ。
俺も一緒に‥‥‥
目が熱くなってきた。
虚しくて苦しいのに、焼き芋はちゃんと甘かった。







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