蘇枋と十亀が街で出会う話

今日は行きつけの洋服屋さんに来ていた。
「お待たせしました、蘇枋さま」
会計が済み、店主のお爺さんが商品を渡してくれた。
「ありがとうございます」
「また来てください」
「はい。ではまた」
店を出ようと歩き出すと、入り口にいる人を見て固まる。
そこにいたのは十亀だった。
「十亀さん?!」
「やあ」
驚いている俺を見て十亀は面白そうに笑う。
「何でここにいるんですか?」
ここは風鈴の隣町だから、こんな所で知り合いに会うなんて珍しい。
「俺、今日屋台のバイトでこの街に来てるんだよ。まだ時間あるからちょっとぶらぶら歩いてたら蘇枋を見つけてねえ」
バイト?
「十亀さんバイトしてるんですか?」
「うん、たまにだけど。ドリンク売ってるよ」
そう言う十亀はサンダルにスウェットの格好で薄着だ。
俺はコートを羽織っているというのに、寒くないのだろうか?
「なあに?」
ジロジロ見すぎてしまったか、十亀は不思議そうに首を傾げる。
「寒そうだなと」
靴下を履いてない十亀の足元を見ながら言うと、十亀が笑う。
「気持ちいいよ裸足は」
そうなんだ…
俺にはちょっとわからないかな。
「ていうかずっと見てたんですか?ここで?」
買い物してるところを見られるなんて恥ずかしい。
「いやあ、会計してるとこだけだよ」
本当か?
目が合うと十亀は白い歯をみせて笑う。
「嘘っぽいなあ」
「そうだなあ、君が何を買ったかはわかる」
俺が持ってる紙袋を指差しながら十亀が言う。
十亀の声から面白がっていることがわかる。
「恥ずかし…」
今日買ったのは学校に着てくいく用のカンフーシャツ。
寒くなってきたから厚手のが欲しかったのだ。
「こういう所で買ってたんだねえ」
「悪いですか?」
「全然」

その時人が店に入って来たので俺たちは通りに出る。
「ここまで何で来たんですか?」
「歩きだよ」
「え、遠くないですか?」
俺はバスで来たが、徒歩だと1時間近くかかる。
「天気がいいから歩きたい気分でね」
「へえ…」
俺も帰りは歩いて帰ろうかな。
不意に犬が目の前に現れた。
どこから来たのだろう。
小型犬で可愛いかった。
しゃがんで撫でようとすると、手にかけていた紙袋が引かれる。
「持っててあげる」
見上げると十亀が笑っている。
「ありがとうございます」
十亀に紙袋を預け、あいた両手で犬を撫でた。
癒されるな‥‥
「犬好きなの?」
上から十亀の声がかる。
「はい、オレ動物が好きなんですよね」
犬が十亀の足元に近づく。
十亀は犬を見下ろすだけだ。
「犬苦手ですか?」
「う〜んそうだね。あんまり‥‥」

「じゃあオレはこっちだから」
「はい、ではまた」
商店街の出口で十亀と別れた。
犬怖がってる十亀さん、ちょっと面白かったなあ。
足舐められて飛び上がっちゃって。
おもしろい人‥‥
十亀の背中を見送りながら笑ってしまった。
十亀が振り返ってオレに手を振っている。
そのことがなんだか嬉しかった。

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