4人組
朝、校門を抜けて1-1の教室を見上げると、桐生が窓から手を振っていた。
背を向けて隣に立っていた蘇枋もこっちを向いて笑いかける。
上から視線を向けられて、なんだか恥ずかしかったので俺はダッシュで校庭を駆け抜けた。
教室に入ると、意外にも桐生と蘇枋しかいなかった。
ロッカーの上に座る桐生と、その横に立つ蘇枋は、待ってたよというように穏やかな笑みを俺に向ける。
「おはよう桜君」
「はよー」
「…おう」
二人にまじまじと見つめられて、オレは気持ちが落ち着かない。
「何だよ、そんな見つめて」
「いやぁ〜珍しく3人きりだなと思って」
のんびりとした口調で桐生が口を開く。
確かに、桐生と蘇枋と3人になるのはあまり多くない。
たいてい楡井が一緒だから。
「そんな所に突っ立ってないでこっちおいで」
扉のところに立ち尽くす俺に蘇枋が笑って手招きする。
歩いて移動する間も二人の視線が俺に集まる。
「だあー!もう何なんだよ。見てんじゃねえ」
ようやく教室の後ろまで行って、桐生の側に立った。
どうしても二人の顔を見られない。
自分でもよくわからなかった。
いつも見てる顔なのに、自分のそばに桐生と蘇枋しかいないと、どこか普段と違う雰囲気になる。
上手く言えないけど、イケメンのオーラみたいなのを感じてしまう。
鼓動は速まり、体が熱くなる。
「桜ちゃん髪ハネてるよ〜寝癖?」
後ろから桐生が俺の髪の毛に触れる。
俺はビクッとして振り向く。
「な、何だよ」
「オレ、櫛もってるから梳かしてあげるね」
そう言って桐生はポケットから櫛を取り出し、俺の髪を梳かしはじめた。
「はあ?んなのいいわ」
俺が逃れようとすると桐生の腕に捕まって動けない。
「ほらじっとしてて。絡まっちゃうから」
「…んぐ」
「はい、もういいよ」
しばらく大人しくしていたら桐生に解放された。
ほっとしてため息をつくと、沈黙が流れる。
驚いて振り返ると、桐生と蘇枋が優しい顔で俺を見ていた。
「あぁ?なんだその顔!やめろ」
オレは二人に見られることに我慢できなくて、顔を覆ってその場にしゃがみ込む。
「これは桜君がいちいち可愛いのが悪いよね?」
「うん」
「か、可愛くなんてねえ!」
蘇枋の言葉にかっとして立ち上がると、また桐生に後ろから体を包まれた。
「さ〜くらちゃん。あったかいねえ」
桐生の頭が俺の背中にくっつく。
恥ずかしくて今すぐ離れたいのに、桐生はぎゅっと俺を抱きしめてくるので動けなかった。
「桜ちゃんもあったかい?」
後ろから桐生のくぐもった声がする。
「おぉ…あったかいな」
桐生の温もりのせいだけど。
「よかったぁ〜」
桐生は嬉しそうな声をあげる。
「何がだよ」
桐生ののんびりした調子で、俺も少し心が落ち着いてきた。
「よしよし、いい子だね桜君」
桐生に気を取られていたら、今度は蘇枋が頭を撫でてきた。
「何だよ!バカにしてんのか」
「ん?可愛いなあと思って」
「っぐ‥‥‥だから可愛いって言うな!」
蘇枋に手を出そうとしたけど桐生にがっちり捕まってしまう。
「桜ちゃん怒らないの」
「桐生、もう離せよ」
「ん〜もうちょっとこうしてよ!」
「あぁ?なんでだよ」
桐生は俺の体を離そうとしない。
「今日の桐生君は甘えたみたいだよ」
「はあ?」
蘇枋に言われてチラッと振り向くと、桐生が気持ちよさそうに俺の背中で目を閉じていた。
「はあ、もう何なんだよ。早く楡井来い!」
俺がそう呟くと、タイミングよく楡井が扉から顔を出す。
「あの‥‥‥」
いかにも気まずそうな顔をしていた。
「楡井いたのかよ」
「だって、なんか入っていいのか分からない雰囲気だったので‥‥」
「あはは、ごめんねにれ君。気を遣わせちゃったかな」
「あぁ、いえ‥‥//」
「んじゃあ、交代な。楡井こっち来て」
「え、はい‥‥‥?」
子犬みたいな桐生に背中を抱きしめられ、楡井の顔を赤く染まる。
「楡ちゃん、あったかいねぇ」
「…は、はい?あったかいです‥‥//」
楡井は隣に立つ俺に救いの目を向ける。
「桜さん‥‥」
「っふ、頑張れよ楡井」
「えぇ〜?!」
俺は何気なく楡井の頭に手を置いていた。
「ふふ、桜君も俺と同じことしてるじゃん」
「っは!」
蘇枋に言われて俺は慌てて楡井の頭から手を離した。