副級長コンビ

桜さんが帰ってしまった。
「桜ちゃんってさ、素直じゃないとこあるよねぇ」
「基本的に、全体的にね」
俺と違い、蘇枋さんたちは大して気にしている感じはなかった。
心配で突っ立ったままの俺に、蘇枋さんが説明してくれる。
「にれ君、大丈夫だよ。今ごろ桜君は安西君を追いかけてると思うよ」
「え?……そ、そうなんですか?」
「楡ちゃんの言葉が響いたんだと思うよ」
「仲間意識ってやつかなぁ」
なんだ……そういうこと
桜さんの不器用さについ顔が緩む。
「ほれ楡井君、もんじゃ焼けてきたから食べよか」
「はい」
その後、俺は三人と楽しくもんじゃを食べた。
「美味しいねぇ」
「蘇枋さんは食べないんですか?」
蘇枋はニコニコしながら俺たちが食べているのを眺めていた。
「俺はダイエット中だからね」
「すおちゃんそればっかり〜」
「美味いのになあ。桜君にも食べさせてやりたかったなあ」
「また今度みんなで来ましょう」
「せやな」

帰り道、俺は蘇枋さんと二人で歩いていた。
俺よりほんの少し前を歩く蘇枋さんの背中を見つめて歩く。
大人っぽい。
蘇枋さんはいつも余裕があってすごいなと思う。
喧嘩はもちろん強いし、賢くて、優しいところもある。
周りをよく見て、俺が気づかないことにも気づく。
今日だって桜さんや安西さんのこと、全てお見通しだった。
「考え事?」
いつの間にか蘇枋さんが俺の顔を覗き込んでいた。
「蘇枋さんはどうして俺を副級長に選んだのですか?」
ずっと疑問に思っていた。
喧嘩ができない俺はみんなの役に立てないと思う。
「ただの勘だよ」
蘇枋さんは立ち止まってオレを見る。
「勘?」
「にれ君って、いつも桜君の隣にいるよね。入学した時からそうでしょ?あの日さ、窓から二人が校庭を歩いているのが見えたんだけど、仲良しだなあと思ったよ。級長決めの時も桜君の隣に座っていたし、やっぱり副級長はにれ君しかいないってね」
「蘇枋さん‥‥‥‥そんな風に思ってくれてたんですね」
「意外だった?」
「オレ‥‥‥‥喧嘩なんてできないし強くもないから、お二人には釣り合わないと思っています。それでも桜さんの隣にいたい。だから自分ができることで頑張りたいです」
沈黙を感じて顔を上げると蘇枋さんは優しい表情をしていた。
「にれ君のそういう真っ直ぐなところいいよね」
「へ?」
蘇枋さんは前を向いて歩き出すのでオレもついて行く。
「オレもね、桜君とにれ君の隣にいられて嬉しいんだ。改めてよろしくね、にれ君」
差し出された蘇枋さんの手を握る。
喧嘩をする人のものとは思えない繊細そうな手をしていた。
「明日楽しみだね」
「はい」
不思議と不安はなかった。
桜さんならきっと何とかしてくれる。


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