打ち上げ前日
桜と蘇枋、楡井の3人は教室に残って、明日運び出す机を整理していた。
「よし、これくらいでいいかな」
「これだけあればきっと足りますね」
一段落つき楡井が並べられた机にちょこっと腰を下ろした。
桜も隣に座った。
「なんか、気が抜けちゃいました。街が元通りになり、みんなの笑顔が戻って…色々あったけど平和に戻るとやっぱり嬉しいですね。当たり前ですけど」
楡井は照れたように「へへっ」と笑った。
「俺もだよ」
窓辺に立つ蘇枋が穏やかに微笑む。
すると、桜も呟いた。
「俺もほっとしてる」
その言葉に楡井と蘇枋は目を丸くして桜を見る。
「な、何だよ」
「いゃ〜なんか嬉しくて」
「はあ?」
「俺も嬉しいです」
「だから何でだよ」
桜が聞いても蘇枋と楡井は優しい表情で桜を見つめるだけだった。
「そういえば、杉下君は屋上の方を手伝ってるんだよね。ちょっと覗いてみようか」
「いいですね。行きましょう桜さん」
楡井が桜の腕を引っ張る。
「俺も行くのかよ」
「当たり前でしょ」
屋上では四天王と梅宮が背を向けてフェンスの向こうを眺めていた。
「何だか穏やかな雰囲気ですね」
「だね。思い出話でもしてるのかなあ」
桜たちの気配に気づいたのか、梅宮が振り返って近づいて来る。
「よー!桜たち、お疲れさん」
「お疲れ様です」
「準備は終わったのか?」
「はい、今日するべきことは終わりました」
「そうか〜ありがとな」
言いながら梅宮の手が隣に立つ桜の頭に触れようとしたけど、桜が咄嗟に楡井の後ろに引っ込んだので叶わなかった。
「屋上の方も綺麗に片付いたみたいですね」
「そうなんだ、杉下がめちゃくちゃ手伝ってくれてさ。って、杉下はどこ行った?」
屋上を見渡しても杉下の姿が見当たらない。
「杉下なら、あそこのソファで寝ているぞ」
柊が指差す方を見ると、確かに杉下はソファに横になっていた。
「はは、杉下はどこでも寝られるんだなあ」
「たくさん動いて疲れたんじゃないか」
「にしても影薄すぎるだろ」
「あんなに大きいのにね」
「ん?楡井どうした。具合でも悪いのか」
梅宮が俯いている楡井を覗き込む。
「*+*+*」
「あ、多分にれ君は四天王と梅宮さんを目の当たりにして照れてるだけなので気にしなくて大丈夫です」
声も出せない楡井の代わりに蘇枋が説明すると、楡井は大きく頭を振って頷いた。
「そうなのか?」
「怖がってるみたいに見えるな」
柊が苦笑いを浮かべる。
「大丈夫か、楡井氏?」
水木も楡井を覗き込んだ。
「だ、大丈夫です」
何とか声を絞り出した楡井は顔を真っ赤にして蘇枋の後ろに隠れた。
「ちょっとお散歩してきますね」
にっこりと笑う蘇枋は楡井の手を引いて、杉下の方へ歩いて行った。
「桜なみに顔赤かったな」
「桜は私らと一緒にいても緊張しないのね」
「なっ!近えよ」
椿野に顔を寄せられて桜は一歩下がった。
すると誰かの足を踏んでしまい、振り向くと桃瀬だった。
「わ、悪い…」
「大丈夫だよ。あのさ、ずっと気になってたんだけど桜君ってオレの名前知ってる?」
唐突な質問に桜は目を丸くする。
「は?何だよ急に。も、もせ…だろ?」
「桜氏、オレの名前も答えたまえ」
「た、たまえ!?何だよ…みずき…」
「おお〜偉いなぁ桜!ちゃんとお兄ちゃんたちの名前覚えてるじゃないか」
「あ?馬鹿にしてんのか!楡井に叩き込まれたんだよ」
「ほぉ〜楡井氏やるじゃないか」
気持ちが落ち着いたのか戻ってきた楡井は、桜の後ろでぺこりと頭を下げた。
後ろからは蘇枋に連れられて、杉下が険しい顔でやってきた。
「お〜杉下起きたか。今日はたくさん手伝ってくれてありがとな」
梅宮に頭をわしゃわしゃ撫でられ、杉下は嬉しそうに目を細めた。
「屋上では串焼きをするんだよな」
柊が聞いた。
「そうなんだよ。ついに俺の野菜をみんなに食べてもらえるんだ」
「桜たちが焼いてくれるのよね」
「桜、任せたぞ!杉下もよろしくな」
桜と杉下は一瞬ぱちっと目を合わせ、すぐにむすっとした顔で目を逸らした。
「本当に大丈夫か?二人とも、フォロー頼むな」
後ろの方で柊が楡井と蘇枋にこっそり呟いていた。