可愛いところもあるんだねぇ

”梅宮が勝った” ”おわった”
桜からの連絡が届き、各持ち場で歓声が上がった。
「やったねー、にれちゃん」
「よかったなぁほんま」
「うぅーーーー」
楡井が手で目を覆いながらしゃがみ込む。
「にれ君?」
「嬉しくて…ほっとして…力が抜けちゃいました」
その言葉に、蘇枋と桐生、柘浦は微笑んで顔を合わせる。
「にれちゃん、頑張ったもんね」
桐生が楡井の腕を引っ張り立たせた。
目を拭う楡井が顔を上げると、蘇枋と目が合う。
「本当によく頑張ったね、にれ君」
その言葉とともに頭をポンと撫でられた。
そのせいでまた目頭が熱くなる。
「あはは〜にれちゃん涙が止まらないね」
「す、すみません。嬉しくて…」
雨と涙でぼやける視界の中に蘇枋が優しい目で自分を見ているのがわかる。
「すおさん…」
名前を呼ぶと、蘇枋は後ろで組んでいた手を解き静かに顔を寄せてきた。
「にれ君、かっこよかったよ」
言いながら頬を伝う涙をそっと指で拭ってくれる。
「はーい、そこまでね。二人の世界に入らないでくださーい」
桐生がパンと手を叩いて二人の間に入る。
「俺もいるの忘れないでねぇ〜」
後ろで見ていた十亀も声をかけると、みんなが振り返った。
「十亀さん!」
「すごい活躍だったなぁ十亀君。ワシは感心してるんや。ぜひ君の”美学”を聞かせてほしい」
「え・・・び?」
「ツゲちゃん後、あとにしよ」
「相変わらず、風鈴の子は面白いねえ」
桐生に引っ込まされた柘浦を見ながら十亀が呟く。
蘇枋と楡井は改めて十亀に向き直ってお礼を言った。
「十亀さん、今日は本当にありがとうございました。助かりました」
「いやぁ、力になれてよかったよ」
「これから桜さんのいる学校に行くのですが、十亀さんも一緒に来ますか?」
「ん…俺は遠慮しとくよ。きっと桜が今一番に会いたいのは君たちだろうから」
穏やかにそう言う十亀を見て、彼なりの気遣いだと汲み取り、蘇枋たちは「わかった」と頷く。
「それより、丁子のところに案内してくれない?また道に迷ってたら大変だからぁ」
「了解です!」
「ワシも案内したるで。その間にいっぱい話ししようや」
「あ、うん…」
興奮気味の柘浦と楡井、十亀が歩き出す。
周りにいた生徒たちもだらだらと三人に続いた。一番後ろには蘇枋と桐生が残された。

「俺たちも行こうか」
桐生がそう声をかけるが、蘇枋の反応はない。
「すおちゃん?」
「え、あ…ごめん。気が抜けて…」
普段見せない表情を見られて、蘇枋は慌てて目元を手で隠す。
その様子に桐生はふっと小さく笑う。
「ありがとね、すおちゃん。今日ずっと頑張ってくれて」
言いながら蘇枋の手に触れ、そっと下ろす。
すると、ほんの少し顔を赤く染めた蘇枋と目が合った。
また珍しすぎる顔をしているから、桐生は思わず笑みが溢れる。
「笑わないでよ」
「ごめん……なんか嬉しくて」
「なんで?」
「すおちゃんが照れてるから?」
「怒るよ」
「ごめんって。行こうか」
桐生は蘇枋の手を握ったまま歩き出す。
意外にも蘇枋はその手を離さず、大人しくついて来た。
「離さないの?」
「ん……もうちょっと繋いでたい」
「そっかぁ」

たぶん激しい喧嘩の後で、すおちゃんの思考が壊れちゃったのかな…?
桐生には全くわからなかったが、蘇枋が望むのであればと、握った手に少しだけ力を込めた。
そしたら蘇枋もきゅっと握り返してくれて。
こんな風に甘いすおちゃんもいるんだなぁと、桐生はこの時初めて蘇枋の可愛いところを知った。

「なんでニヤニヤしてるの?」
「ん〜すおちゃんが可愛いから」
「離すよ」
「ごめんなさい」




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