二人に好かれる桜
ガチャ。
風呂を上がり、リビングに行く。空いているソファに座る。
向かいのソファには、読書している焚石がいる。いつも何を読んでいるのか、ブックカバーをしているのでわからない。見た感じ小説だと思う。
オレが来たのに気づきチラッとこちらを見る。相変わらず無表情……。目が合ったと思えば、すぐに本へ目を移された。
ソファにかけてあったタオルを取り、髪から滴る水滴をしぼる。そのままガシガシと頭を拭く。
「サクラ〜、また濡れてんの。ちゃんと風呂で拭いてこなきゃダメじゃん」
キッチンで夕飯の洗い物をしていた棪堂がオレの隣に座る。タオルを奪い取り、オレを膝の上に座らせる。そして、どこからともなく取り出したドライヤーで髪を乾かし始める。
初めのうちは自分でするからいいと、断っていたのだが、抵抗してもガッチリ捕まえられるので諦めてしまった。いつの間にか棪堂にドライヤーをかけてもらうことが当たり前になっていた。
一緒に暮らし始めてわかったのは、棪堂が器用だということ。家のことはほぼほぼ棪堂がしてくれる。掃除に洗濯、洗い物……。手際がいいから気づけば終わっている。料理もふつうにうまい。たぶん何をやらせても大抵のことはうまく出来てしまうんだろう。あと、意外と世話焼きな奴だと思う。
今こうしてオレの髪を乾かしているのだってそうだ。前髪が目に入らないようにしてくれているのか、上から下へ丁寧に乾かしていく。喧嘩になると化け物みたいに怖い奴だが、普段はけっこう頼りになる。
「おっわり〜」
「髪とかしておけよ」
そう言って、オレに櫛を渡した。
キッチンへ戻ったのか、また洗い物の音が聞こえてきた。
オレは乾いた髪を櫛でとかし始めた。が、いつの間にか目の前に来ていた焚石に櫛を取られてしまった。
「ちょ、え……何?」
訳もわからずいると、さっきの棪堂と同じように焚石がオレを膝の上に座らせ、髪を梳かしはじめた。
「はぁ……!?何だよ!自分でやる」
オレは何となく恥ずかしくて、焚石の腕から逃げようとする。
「動くな」
しかし、焚石にぐいっと体を戻され大人しくするしかなかった。無言のまま髪をとかされる。この沈黙がいたたまれなくて、オレは顔を真っ赤にする。
(何なんだよ……これ💢)
(こいつの気まぐれか?今までこんなことなかったのに……)
棪堂のことはわかってきても、焚石のことは今だによくわからない桜であった。