君の手を解けて俺は満足です。

それはちょっとした悪戯心だった。
いつも後ろで手を組んでるすおちゃん。
その手を解いてみたくなった。

桜ちゃんと楡ちゃんがお喋りしてるそばで、窓の外を眺めているすおちゃん。
俺はそっと近づいた。
真後ろに立って、握られたすおちゃんの手を見る。
これはいけそうかも…
ゆるめに握られた手は、掴めばすぐに解けそうだ。
よーし、いくぞー!
すおちゃんの手に、自分の手を伸ばしたその時だ。
「桐生君、何かな?」
すおちゃんが振り向いた。
あらら…気づかれちゃった。
「何でもないよ〜」
宙ぶらりんになった自分の手をするりと引っ込めて笑ってみせる。
「怪しいなあ。何かしようとしたでしょ?」
「そんなことないって」
にっこり笑ってるのに、目が据わっているから怖く見えちゃうんだよね、すおちゃんは。
でも俺はもう慣れっこだ。
今まで何度もその左目を見てきたからね。
こんなので怯まないよと、俺も負けないくらいの笑顔を向ける。
「ふ〜ん。嘘くさいなあ」
そう言って軽くデコピンしてきた。
「イテっ!」
いや、痛くはないけどさ。
反射的に言っちゃうんだよねこういう時。

「あ、桐生さん!」
楡ちゃんに呼ばれすおちゃんから視線を外す。
「なあに?」
「見てください」
楡ちゃんは机の上に置いてあるものを見せる。
「これ、今朝ことはさんにもらったクッキーです。バレンタインだからみんなで食べてって」
そこには可愛くラッピングされたクッキーがたくさん並べられていて。
「へえ!可愛いね」
「好きなの選んでください」
「わーい!ありがとう」
数ある中から一つ手に取った。
「蘇枋さんもどうぞ」
「ありがとう」
楡井に促され、蘇枋も机に寄る。
その瞬間、俺はすおちゃんの両手の動きをじっと見ていた。
このタイミングで、すおちゃんの手が解かれる瞬間を見れるとは。
不思議とワクワクしてる自分がいた。
するりと解かれたすおちゃんの右手は、迷うことなくクッキーを一つ掴む。
クッキーはそのまま制服のポケットへ。
すおちゃんの両手はまたいつも通り後ろで組まれた。

ふふ、やっぱり癖なんだなあ手を組むの。
「なぁに?」
俺の視線に気づいたすおちゃんは、不思議そうにオレを見る。
「もう一回試していい?」
「何を?」
きょとんとするすおちゃんをそのままにし、俺はすおちゃんの右手に自分の手を絡ませた。
ふわっと持ち上げると簡単に解けて、あっさり俺の目標は達成された。
「何がしたかったの?」
俺の手からスルッと自分の手を引っ込めて、すおちゃんが聞く。
その顔は怒ってるわけではないようで、俺はほっとした。
「俺もわかんないや」
「え〜?」
俺の言葉にすおちゃんは困った顔で笑う。
俺自身も何がしたかったのかわからない。
でも、すおちゃんの手が案外無防備で、俺が握っても嫌な顔をされなかったのがなんだか嬉しかった。
「変な人」
嬉しが顔に出ていたのか、すおちゃんは俺を見ながらつぶやいた。
「そうだね」
にっこり笑うと、すおちゃんも笑ってくれた。

クッキーを食べながら二人の様子を見ていた桜は、隣に立つ楡井に聞く。
「何がしたかったんだあいつら」
「さあ?本人たちもよくわかってないみたいですね」
桜と楡井も顔を見合わせて不思議な笑みを浮かべた。






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