食品理系の就活2 〜専攻編〜
今回は理系就活生からいただく質問のうち、最も多いこちらの質問にお答えします!
「私は農学部じゃないんですが、食品業界の研究開発ってどうせみんな農学系ばっかりなんですよね?」
以前こんなツイートをしました
食品での研究や開発は、何かしらの学問を使った応用であることがほとんどで、それは農学とは限りません。(そもそも農学自体が実学でもあるんですが)
ということで、いろんな学部や専攻と食品業界の接点をまとめてみたので、自分の場合はこういうのがあるのかと眺めてみてください!
全体像
先ほども出した左に学術領域、右に食品分野での応用を配置した連関チャートをアップにしてみた(ツッコミどころあるけどスルーで)
まずは左側をざっと眺めると
✔︎農学系
✔︎薬学系
✔︎生命科学系
✔︎化学系
✔︎数学系
✔︎工学系
かなり幅広い分野が関わってます
右側が食品業界での応用研究
✔︎食の三次機能→栄養、嗜好(美味しさ)、機能性
✔︎衛生管理→食の安心と安全
✔︎食品製造プロセス→発酵制御、加工プロセス、農作物や畜産など原料
✔︎生産・製造→包装容器開発、工場生産
✔︎サステナビリティ→環境整備、原料の持続性
など、色々な領域にわたっていることがわかります。
では左側をメインに、各学部や専攻に関してそれぞれもう少し詳しくいきましょう
なぜ接点を見つけるのが大切なのか?
就職活動で一般的にするべしと言われている「自己分析」と「企業研究」
自己分析は文字通り自分自身を振り返るので、自分一人での完結も可能。
しかし企業研究はそうもいかなくて、数多ある企業の情報を入手するのは本当に大変だし、業界が異なれば求められるものが違います
今回は自分の研究領域(自己)と食品業界で応用できる研究(企業)とに接点があり、マッチングしそうか確認してみてください
農学系:なぜ有利?
やはり1番イメージしやすいのは農学系。確かに人数が多いのは間違い無いです。
しかし思うに農学系に所属しているから有利なのではなく、農学系にいると自然と食品の勉強や研究をしているから、結果として食品業界に多いのではないでしょうか。
図を見てもわかる通り食への応用にも使いやすいものを学んできているため、ベン図の自分∩企業の部分が自然と大きくなり、特別な対策をしなくて接点が多くマッチしやすいんじゃないかと
また情報収集が縦(OB・OG)にも横(同期)にも豊富で、情報の勝利の部分もあるという声も聞いたことがあります
と言うことは他学部の人で接点を見つけることこそ重要
きちんと情報収集をして、ベン図の重なりさえ知っていれば問題ないですし、むしろありきたりな農学系の人より何かに特化した別の専攻の人材の方が重宝されるかも?
薬学系:健康への期待大
なんと言っても機能性研究をするなら薬学系
それは、ポイントを(臨床研究デザイン、体内動態など)を体系的に理解しており、例えばin vitroでヒットしたから製品化しようみたいな単純発想にならないことです
嗜好成分・機能性成分ともに必要である安全性評価も薬学系の得意分野の一つ。医師が処方するわけではないので、万人が摂取できる食品の安心安全は、医薬品とはまた違った難しさがあります。
また分子生物学や生化学の知識はそのまま発酵制御や加工プロセスに役立つので、この分野で活躍する薬学出身はもおられるようです
製薬企業との違いはまた別の機会に述べますが、一番大きいのは一般消費者に価値を提供するので、商品と消費者の距離が近いことではないでしょうか。
私も製薬に行くか食品に行くかとても悩みました。
生命科学系:基盤に強い
生物系も基本的には食品企業と相性が良いはずです。
ただ生命科学系の専攻はよりミクロな研究である場合が多いため、ドンピシャで食品と結びつかないこともあるのではないでしょうか?
まずは食品業界でどのような研究がなされていて、そことあなたがどうマッチングするか知っていただくのが1番です。
農学系は割と実学メインの授業や研究が多く、そのようなミクロの現象を学ばずに過ごした人が意外と多いので、差別化は十分可能です。
例えば、発酵、醸造、熟成辺りは経験的に行われてきたもののミクロで何が起きているかわからないものも多々残されています。
後半も出てくるバイオインフォマティクスも、近年やっと取り入れる食品企業が出てきました。
食品特有の応用範囲である「美味しい」を科学する嗜好科学は、味覚嗅覚をはじめとした神経科学や認知に関する脳科学の知識など、ミクロとマクロを組み合わせたとても興味深い研究分野です。
そんな様々なニーズにハマるのが生命科学系ではないでしょうか。
化学系:個人的イチオシ!
今回の記事で皆様に1番お伝えしたいのが、ぜひ化学系のみなさんにもっと食品企業を知っていただきたい!!ということです。
みなさんが思っている以上に活躍の場がたくさんあります。
美味しさにしろ健康にしろ安全にしろ、結局は化合物がわかってナンボの世界。食品はその化合物が単一で存在することはほぼないので、オープンカラムやLCなど分離精製スキルや、MS、NMRなど分析機器を使えたり原理を理解している人材は重宝されます。
BtoCのメーカーはもちろん、香料会社などBtoBにも活躍の場がありますね。におい嗅ぎ(スニッフィング)GC/MSという、カラムで分離した香気成分をMSで検出しながらリアルタイムでにおいを嗅ぐという、非常に面白い装置もあります。
有機合成を専門としている方も、関係ないと思うなかれ。食品添加物は合成方法の最適化や新規物質探索の研究もなされているので、BtoBの素材メーカーで活躍できます。
また原料加工においても機能性成分の濃縮技術や苦味物質の分離技術など、化学の実験をプラントスケールで行う話なので、ここでも活躍できます。
さらにさらに、物理化学(化学というのは微妙ですが)も活躍の場が多く、
✔︎流体力学→食感や歯応え制御や嚥下調整。プリンとかパスタとか。
✔︎熱力学→殺菌強度検討、栄養成分の消失予測(アレニウス)
✔︎界面化学→乳化など脂質の安定性コントロール。これがまぁ奥が深い。
もう化学系のみなさんは来るしかない!
数学系:他分野の苦手をカバー
残念な話なのですが、農学系や生物系の人は数学(統計学)に弱いことが多いです。。。学生時代何となく避けたまま、みんな大人になる。
そんな苦手な人が多い推計統計学に強い人は機能性研究の臨床試験においても必須人材なので、かなり重宝されるはずです。
また近年は何と言っても、データサイエンスと生物系とを掛け合わせたバイオインフォマティクスやオミクス研究が盛んです。pythonやRに触った頃のある学生さんも近年増えている印象です。
食品のような複雑系でで一体何がどう作用していたのかさっぱりわからなかった現象も少しずつわかるようになってきています。
次世代シーケンサーなど分析機器の能力向上、マシンの計算速度向上、クラウド整備、機械学習の精度向上などがこの分野の発展に大きくしているのではないでしょうか。
工学系:ものづくりの最前線
最後に工学系です。食品業界は他の業界と比較して製造部門が活躍することが多いと言う話も。
なぜなら、食品は現場でのコントロールがとても重要で、工場こそものづくりの最前線という意識が全体的に高く、活躍しているからです。
詳しくわからないのが残念ですが、工場勤務を含めれば実際は理系採用の半数弱は工学系の人間ではないでしょうか。
就活でもエンジニアが「なぜ工学部なので食品企業を選んだの?」と聞かれている場面をよく見かけますが、消費者に近いものづくりをしたい気持ちが強い人が多いようです。
私も開発の時そうでしたが、自分の関係した製品を持っている人を見かけると本当に嬉しくて、頭の中で最敬礼していました。
最後に
自分の専攻や得意分野と食品企業のニーズにマッチしそうな分野は見つかりましたか?
自己分析や企業研究取り組んで行くことになると思いますが、研究における自己分析(自分の専攻)と企業研究(食への応用)に対する参考にしてみてください!