33年ぶりのイギリス渡航⑨湖水地方へ
「ツバメ号とアマゾン号」
私の場合、イギリスへ行く目的は98%が湖水地方訪問、だった。
そもそもが8〜9歳の時にハマった児童文学作品、アーサー・ランサムの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズの物語の舞台を訪ねたいというのが、渡英の目的だったのだ。
有り体に言うと聖地巡礼だな。
私は9歳にして、将来必ずこの小説の聖地巡礼をするぞと心に決めたのだった。
初めてその夢が叶ったのは、24歳の時。
それが35年前のことだ。
だが、現地でもさほど有名な作品ではなかったのか当時宿泊した宿のオーナーや町のインフォで尋ねても、詳しい話をあまり聞けなかった。
同じ湖水地方でも有名なのは、当然だがナショナル・トラストの祖ピーター・ラビットのビアトリクス・ポターだったり、ワーズワースの詩だったりした。
「ツバメ号とアマゾン号」全12巻が執筆・発行されたのは1929年から数年間。
日本では1960年代に翻訳されて紹介された。
私が読んだのは、岩波書店発行の神宮輝夫氏訳である。
1974年にはイギリスで実写映画化されたが、それはおそらく、子供の頃にこの作品を読んで熱烈に愛した現地のファン達が成長して、映像化の夢を叶えた結果なのだろう。
1990年代にはTARSというファンクラブが出来たそうなのだが、私は全くそんなこと知らずに来てしまった。
ちなみに、驚くべきことに日本にもARC(アーサー・ランサム・クラブ)というファンクラブがある。
私は、今回の渡英の寸前にコンタクトを取り、実に50年越しに同好の士を得た。
今回の旅に関しても、コアな同志達から沢山の情報を頂き、感謝の極みである✨✨✨
小説は大概映画になると、知名度が上がる。
だから、初めて宿泊したB&Bの女主人は、1974年の実写映画のことを知っていた。が、日本に住む私がそれを見る機会はずっとなかった…なぜなら、その作品は英国国内のみの上映に止まったし、その頃まだ世の中はVHSビデオの全盛期で、ネットも普及なんぞしていなかったからだ。
実写映画化は2度あり、2度目は2016年。
こちらは原作ファンとしてはいささか解せない仕上がりではあったが、湖水地方の再活性化には一役買ったようである。
実際、2018年頃に当地を訪ねた日本のファンの体験談はかなり充実しているのが特徴だ。
しかし、映画公開後はまたスッと静かになった…
その後コロナ禍を経て、状況は大きく変わり、今また現地でツバメ号とアマゾン号シリーズのオタクに出会うことは少なくなった。
話が逸れたが、33年前は当然、紙の地図と町のインフォでの情報だけが頼りである。
当時湖畔の町に滞在し、レンタカーで走り回り、あちこちのインフォを訪ねまくって得たのは、ファンクラブのメンバーなら既知の情報ばかりだったようだ(もっと早くファンクラブに入っておけば良かった、とホゾを噛んだが後の祭り。その当時から私は一匹狼だったのだ笑)。
湖水地方でレンタカーを借りる
さて、ロンドンはユーストン駅前で盛大に足首を捻ったにも関わらず。
運良く窓側の座席をゲットした私は、湖水地方の窓口ウィンダミア(の一個手前のケンダル)へ向かう3時間半の列車の旅をスタートした。
なぜケンダルなのか?というと、単純にウィンダミア湖に一番近い終着駅ウィンダミアにはレンタカー屋が無いことと、鉄道を使って湖水地方へ行く際に、駅近に店舗があるのがケンダルだけだからである。
最初に渡英した35年前は、情報はすべて英国大使館に直か、JTBの人に相談するしかなかったため、レンタカーはもっとずっと南のランカスターで借りて行った。
翌年、なんだケンダルにもレンタカー屋があるじゃないか!ということに気が付き、それ以降毎年ここのAVIS(ん?Hertzだったかな??失念した)で車を借りていたのだ。
ロンドンに寄らず、日本から直に湖水地方を目掛けて来るなら、羽田からマンチェスター入りして空港でレンタカーを借りるのが良いと思う。
…が、航空チケットも大概高い。
結局ヒースローからブリットレイルパスを使って列車で来て、ケンダルからレンタカー…でも時間的に変わらなさそうではある…
航空券がもう少し安くなったら、マンチェスター入りを考えようかな、という感じだ。
ちなみに、私がもっと若かったら、迷わず格安航空券で30時間くらいかけてマンチェスター入りをする。いくらでも安く旅する方法はあるが、体力温存するとなるとお金がかかるのだ。
えー、もっと安く行く方法ありますよ!とドヤる人は大抵私よりずっと若くて体力がある(笑)
怪我した足の状態
足は、…指を動かすと痛かった。
動かさずにいれば、さほど痛みはない。
靴を脱ごうとすると痛みが走るので、放っておくことにした。
というかこれ、降りる時歩けるのか?と頭の片隅で危惧しながら、窓の外の懐かしい風景に目を奪われる。
痛いのは仕方ない、捻挫の初日は痛いもんだ。
明日になったら多少マシになるさ…
気がかりなのは、事前に調べてきたケンダルのレンタカー屋の場所が、少し曖昧なことだ。
電波📶が💩なので調べようがないが、予約サイト(bookingドットコム)では33年前と同じ場所に位置している、と出てくる。
だが、その会社のHPを見ると住所が違うのだ…
これはどっちが正解なんだろうか。
ま、着いたら分かるさ…
33年ぶりに本当に来たかった場所に近付いている!という興奮は、脳内アドレナリンを倍増させ、痛みを忘れさせるのだなと自分で自分が可笑しくなった。
いやもう、足の状態は、真面目に医者に行った方がいいに決まってる感じなんだが、そんなことより旅の続行が大事って一体どう言うことなのだか(笑)
この時の私は、まさかこの足が面倒な剥離骨折で、しかも3箇所も折れてただなんて、全く考えてもいなかったのだ。
オクスンホルムで下車し、ケンダル行きのローカル線に乗り換える。
…うん、…思っていたより歩ける。
キャリーを杖代わりにすれば案外何とかなるようだ。にしたって、足が不自由な人、って感じは否めないが。(というか、どう見ても旅行者で足を引きずってるわけだから、今し方怪我したばかりというよりは、足が不自由なんだけど旅してますよ、なチャレンジャーに見えてたんだろうな…。皆さんが、どうぞお先に、って大層親切にしてくださいました)笑。
さあ、最初の問題はケンダルの駅だ。
あそこ、私の記憶だと、高台にあってなー、駅から急坂を20メートルくらい歩いて降りなきゃならないんだよな…(つまり、帰りもそれを登らなきゃならないわけ。)
いや、もしかしたら流石に33年経ってるんだから、エレベーターが出来てたりしないかな…(ケンダル駅は小山の上にあるとはいえ、線路の真下に小山を貫くトンネル?があって車道が通っている。駅舎からエレベーターが真下に降りていても良いじゃないのよ、っていう立地なのだ)
しかし。
うう、さすがは変化を好まないイギリス!
駅からの急坂は記憶にあるまんまでありました。
痛えよー痛えよーチキショー!と言いながらケンダル駅入口の急坂を下り、記憶にあるレンタカー屋(があるはずの場所)まで足を引きずって歩いた。
この急坂を降りて、右へ15メートルほど行ったところを右折した辺りにあるはずだ。
が。
33年前、そこにあったはずの(で、bookingドットコムでは今でもそこにありますよ、と表示されている)レンタカー会社は、影も形もなかった。
エンタープライズレンタカーまで駅から5分
こんちくしょー。
やっぱレンタカー屋のHPに載ってた住所が正解か。
だが、いよいよ足がヤバくなってきた。
運悪く、車の通行量はあっても歩道を歩いている人がほとんどいない。
📶は…
アカン、ここ、電波入らん…アンテナ全滅。
紙の地図に頼っていた時は、まだ地図を見れば何とかなった。
だが、何もかもをiPhoneに覚えさせ、Googleマップに頼り切っていた今回は、ポケットWi-Fiですら捕まらない粗末な通信状況の空の下では無力に等しかった。
どうにかMAPS.MEという地図アプリにこの辺の地図をダウンロードしてきていたので、レンタカー屋の住所をコピペして検索すれば見つかりそうだと思ったが、足がしんどいために頭が回らない。
その時偶然そばを通りかかったご婦人とその連れらしきニキを見かけ、私は彼らに呼びかけていた。
すいません、エンタープライズレンタカーを探しているんですが、知りませんか⁉️
すると、なんとご婦人の方が、あら!私も同じレンタカー会社を探してさっき迷っていたの!と言うではないか…
おいおい、外国人まで探しちゃうのか?
表示が新旧入り乱れてるままなのかもしれない。雑にもほどがあるな……
ご婦人は、私は別の用事を先に済ませてから行くので今一緒には行けないけど、駅まで戻って道なりに5〜6分歩くとあるわよ、と教えてくれた。
普通に歩いて5〜6分か。
つまり今の私だと、倍くらいかかるってことかも……
歩き方は、戦場から帰還した傷病兵のようである。
いや、人魚姫と言って欲しいくらいだ。
幸い天気は良かったが、一歩一歩がアイタタタ!であった。
5分、が遠い…
正面から、スリングにベイビーを入れて抱っこした若いお母さんが歩いてくる。
彼女のことも呼び止めて訊いた。
エンタープライズレンタカーって、この先かしら?
この地方の方々は、とにかくシャイなのだが皆さんとても親切だ。
足を引きずってるアジア人旅行者、すごくしんどそう…と思ってくれたようで、彼女は、あなたの歩き方だとあと5分くらいかな、このまままっすぐ行って!すぐ左に見えてくるから!頑張ってね〜!と後ろから応援してくれた。
いやはや…
何でもかんでも携帯で調べられるこの時代に、
片っ端から通行人を捕まえて道を尋ねる羽目になるなんて。
結局、レンタルWi-Fiも、この田舎に来たらほとんど役に立たなかった。
支払いは全てRevolutかクレカで済ませられたので問題なかったが、まさかここまで役に立たないとは…
宿から紙の地図をプリントして持ってこいと言われた訳が分かった。
だがしかし、ケンダルはそんなに田舎町ではないのだ。
駅舎やその近辺は電波を捉えにくいが、例えばコンビニや町の目抜通りなどではちゃんとWi-Fi接続可能だ。
それにしたって…。
エンタープライズレンタカーは、町外れの原っぱに面した一本道に移動していた。
予定より1時間早く到着したとはいえ。
レンタカー屋に辿り着いた時、すでに私は結構疲労困憊していた。
だんだん頭が回らなくなってくる…つまり、英語でやり取りするのが億劫になってるのだ。
レンタカー屋の常ではあるが、オプションで保険に入れ、としつこく言ってくる。
いや、私は怪我してて、早く薬局へ行きたいんだよ…アンタの教えてくれたAsdaへ早く行きたいんだよ。
仕方なく解放されたいがために、レンタル料とは別に最小限の保険に加入して、新たにカード払いをした。
当初、リッターカー程度のコンパクトカーを予約していたのに、予想外にアップグレードされてデカい車が出てきてしまい、これを傷付けたら面倒臭えなと弱気になった、というのもある。
(この、勝手に無料アップグレードして保険を吹っ掛けてくるやり方ってのがホント苦手。レンタカー屋の常套手段なのかもしれんが普段なら要りませんノーサンキュー!のところ、あの時の私は早く解放されたくて判断力が鈍っていたとしか思えない…)
しかも、よく聞くと薬局の入っているAsda(スーパーマーケット)は今日は16:00くらいで閉まってしまうらしい。
ホントもう勘弁して…
⑩へ続く。