ふぞろいの温もりが描く未来 AQUOSシリーズの新たな挑戦
ふと手に取ったスマートフォン。
その「冷たさ」に違和感を覚えたことはありませんか?
今や私たちの生活に欠かせない存在となったスマートフォンですが、そのデザインには、どこか「無機的で冷たい印象」がつきまといます。
シャープのAQUOSシリーズは、そんな冷たさからの脱却を目指し、新たな挑戦をはじめました。その象徴となるのが、「AQUOS R9」と「AQUOS sense9」です。
両モデルが持つ「有機的で温かい印象」は、単なる道具を超えて、私たちの生活に温もりと彩りを加えようとしています。
ふぞろい、せいぞろい
先に発売された「AQUOS R9」は、発表直後から個性的なカメラデザインが話題になりました。
大きさの違う2つのレンズ、規則性をあえて崩した配置で、独特の存在感を放っています。その周りを包み込むカメラパネルは、フリーハンドで書いたような、絶妙な丸みを帯びています。几帳面な方は、丸の大きさや位置をそろえたくなるほど、まあふぞろいなのです。
でも、そのちょっとした「ふぞろい感」が、不思議と愛らしく感じてきます。
今回、AQUOSシリーズのデザインを担当したのは、「miyake design」を主宰する三宅一成さん。主に、プロダクトデザインを手掛けており、過去にはドコモのスマートフォン「MONO」もデザインしています。
三宅一成さんは、「AQUOS R9」について、次のように語っています。
現代のスマートフォンは、SFの世界の道具ではなく、私たちの生活にとってありふれた道具です。服や手帳のように、温かみがあり、いつしか思い出になるような存在にならなければいけません。
しかし、スマートフォン市場は、いつしか性能や革新性、コストパフォーマンスだけを争う世界になってしまいました。そこに、デザインを楽しむ余裕はなく、ただ時期が来たら買い換えるだけの「機械的な消費」になっています。
中身の進化が頭打ちとなった今、次世代のスマートフォンに求められるのは、「使う人の心に残る、温かみのあるデザイン」ではないでしょうか。
日々の暮らしのなかで、かすかな喜びを感じてもらえるモノづくりが、これからのスマートフォンには必要です。
そんななか、シャープのAQUOSシリーズは、カメラデザインを軸にして、新たな価値観を創造します。
カメラ イコール 顔
まるで、小さなキャラクターが顔を覗かせているような本作のカメラデザイン。
ふぞろいの大きさの円がランダムに並び、それを見た人たちに柔らかく温かい印象を与えます。どこか生きているような、こっちを見ているような、そんな気がしてきませんか。
カメラ周りは、現代スマートフォンにとっての「顔」ともいえる場所です。
だれかを撮るとき、鏡越しに自撮りをするとき、背面のカバーを見せるとき……。
スマートフォンのカメラは、カバーをつけても唯一、顔を出す部分。だからこそ現代では、背面のカメラ周りの充実が、スマートフォンにとって大切になります。
シャープは、従来の無機質なデザインを脱却するため、カメラ周りに焦点を当てて、そこを個性の発信源にしました。今回、AQUOSシリーズが採用したアンバランスなカメラは、「親しみやすく、心に響くデザイン」への挑戦です。
アップルやソニー、サムスンが、バランスの取れたデザインで「美しさ」を追求する一方、シャープは、あえてアンバランスなデザインで「親しみやすさ」を追求しました。
シャープは、性能や革新性、コストパフォーマンスではなく、ユーザーの感性に寄り添うアプローチで、新たな市場の開拓に挑みます。
賛否両論の先にあるもの
もちろん、このデザインには賛否両論があります。
無機質なデザインが好みの方には、本作のデザインに違和感を覚えるかもしれません。毎日使うものだからこそ、魚の骨が喉に刺さったような違和感が負担になっていきます。
前作までのAQUOSシリーズは、どちらかというと無機質でモダンなデザインでした。「なのになぜ突然?」そう感じている方は、少なくありません。
しかし、シャープは、この大胆な方向転換を通して、スマートフォンに対する意識の変革を試みているように思えます。
ただの道具ではなく、それ以上の価値の提案、つまり「私たちの生活に寄り添い、やがて思い出として刻まれる存在」への変化です。かつて「auデザインプロジェクト」が成し遂げた取り組み、それらの延長線上に入るような気がしてなりません。
KDDIの「au Design project」は、多くの独創的な製品を生み出し、今でも国内外で高く評価されています。
当時、どれも同じだった携帯電話のデザインに対して、性能やコストパフォーマンスを超えて、「手にしたい!」と思わせるデザインを追求しました。
最終的には、「INFOBAR」や「talby」、「neon」など、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品に選定されるほどの名作を生み出します。
本作におけるシャープの取り組みは、au Design projectに近いものを感じます。賛否両論を超えた先には、居心地の良い未来が待っているのかもしれません。
未来のスタンダードを目指して
性能や革新性、コストパフォーマンスの競争が主流となるなかで、シャープは「ふぞろい」という独自のデザインを通じて、新しいスマートフォンのあり方を示しました。
その結果、「AQUOS R9」は"グッドデザイン・ベスト100"に選定、同シリーズの「AQUOS wish4」は"グッドデザイン賞"を受賞しました。グッドデザイン賞への選出は、シャープの挑戦が時代にフィットしたことを示すものです。
それは単なる道具ではなく、「私たちの生活に寄り添い、やがて思い出として刻まれる存在」への第一歩だといえます。シャープの挑戦が、日本のみならず世界へ広がり、未来のスタンダードになる日は、そう遠くはないのかもしれません。
参考:
miyake design「AQUOS R9」
SHARP「AQUOS R9」
SHARP「AQUOS sense9」